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妄想クラウディア~10人の異能使いと禁忌の劫略者~  作者: 藍澤 建
第二章【秘匿の消えた世界】
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205『お約束破棄』

お約束とは倣うために在らず。

お約束とは、破るために在る。

 翌日。

 ハイライトスクール、入学試験。

 くだんの学校は通常の高校と同じく『高校一年生~三年生』まであり、今回は、その新1年生の応募となっている。

 また、中学校の卒業資格を持っているすべての人に、その入学資格が与えられていた。


 そのため、僕も阿久津さんも、明らかに学校に行っていないシオンであっても、年齢的には入学試験を受けることができる。……あ、阿久津さんは無理なのかな? よく考えたら特異世界クラウディア出身だしな。義務教育なんて概念はないのかもしれない。


 閑話休題。


 というわけで、僕は新しく建てられたハイライトスクールの前へとやってきていた。

 周囲には中学校までの学生服に身を包んだ生徒たち。中には僕みたいに、高校生の姿だってある。ちらりと禿げ散らかしたおっさん(推定年齢58)が見えて視線をそらした。

 上限制限ないんだもんなぁ、この学校の入学試験。

 高校二年生が新一年生として入学試験を受けるのもどうかと思うが、おっさんがこんな学校の試験を受けに来るのもどうかと思う。


 そして、Sランクが今更学校に来るのも、どうかと思う。


「なはははははは! すげぇすげぇ! でけえ建物だな!」


 そんな声が隣から聞こえてきて、僕はそちらへと視線を向けた。

 そこには、腰に両手を当てて胸を張るシオン・ライアーが立っている。

 何故ここにコイツがいるのか?

 その理由は簡単で、『カイが行くならオレもいくぜ!』とのことだった。

 S級異能力者がこんな学校に行って何の意味があるのだろうか?

 ……まあ、僕も部類的にはS級だし、彼女のことをとやかく言うことはできないけどな。


「シオン、ちょっと声のボリューム落とせ」

「ぼりゅーむってなんだ!」

「声を小さくしろってこと」


 外国人なのに横文字が分からない時点で、シオンは確実に学科試験で落ちると思う。なので、今回はとやかく言わず、ついてこさせた。

 どーせ落ちるのが目に見えてるからな。


 とか、そんなことを考えていると……なんだろう、視線を身に感じた。

 周囲へと視線を向けると、多くの学生たちが僕らを見ている。

 というか、シオンを見ている。


「……おいシオン、もしかして他でも無銭飲食してないだろうな」

「おう! タダ飯食らったあとは働いて返してるぜ!」


 個人的には、食べてから働くんじゃなくて、働いてから食べて欲しいんだけどなぁ。金を用意してからお店に行きましょう。


 そうこう考えていると……ふと、前の方からイケメンの男の子が僕らの方へと歩いてくるのが見えた。

 眩い金髪に、制服と呼ぶにはあまりにも後ろに長いブレザー。

 まるで、コートといったほうがよさそうな改造制服だ。

 しかも、背中にはファイナル〇ァンタジー風の大剣を背負っている。

 銃刀法どこいった?

 彼は両ポケットに手を突っ込んで、風に髪を揺らしながら歩いてくる。

 その姿……まるで主人公。

 僕はあまりのイタさに鳥肌が立った。


 やべぇ、コイツとは関わったら負ける気がする。


「なぁカイ、ところでここは何なんだよ?」


 今更すぎることを言い始めたシオン。

 その目の前まで来て、イケメンは足を止めた。

 僕は遮断を発動させて気配を消すと、少年は僕のことには気づかない。

 何となくシオンに用事があるみたいだし、僕は影を潜めておこう。

 僕はシオンの後ろに下がると、イケメン少年は口を開いた。


「初めまして、レディ。……どうやら、この学園にも面白い人材が揃っているようだね。安心しt」

「おっ? あれ、カイどこいった?」


 が、少年の言葉はシオンの耳に入っていない。

 彼女は周囲をキョロキョロ見渡すと、たったの数秒で僕の姿を見つけ出した。

 シオンは僕の腕を抱くと、僕は頬を引き攣らせる。


 ……嘘だろ、コイツ。

 僕の遮断を簡単に見破れる技量もそうだが、僕は彼女の空気の読めなさに戦慄していた。

 やめてくれよぉ……、頼むからさぁ……。

 少年はシオンに話しかけたい。僕は少年と関わりたくない。

 奇跡的に利害が一致してんだから、僕を表舞台にあげるなよぉ……。


「おい、何迷子になってんだよ! 全くお前は、オレ様が居ないと何にもできないもんなー! 困っちまうぜ!」


 とても嬉しそうな顔で、シオンは言った。

 というか、困ってるのは僕の方だった。

 いや、ほんとに。どうしてくれるのこの状況。

 完全に逃げ場を絶たれたため、僕は諦念交じりに、遮断を解除。

 恐る恐るとイケメン少年へと視線を向けると、彼は頬を引き攣らせながら僕の方へと視線を向けていた。


「い、いつの間にそこに……」


 とか言ってる時点で、コイツがシオン以下なのは理解した。

 だけど、明らかに……ほら、主人公っぽいじゃん。

 染めた金髪に、長めのコートっぽい、黒一色の改造制服。

 背中にはなんだかよくわからない大剣を背負っているし……。

 極めつけは青いカラコン。


 ――これで中二病じゃなかったら、逆に驚くよ。


 なぁ、シオン。

 分かるだろう?

 こういう輩は、てきとーに話を合わせてやれば満足するんだって。

 今回はお前が話しかけられてんの。わかる?

 なら、さっさとテキトーに話を合わせて退治してくれ。

 あ、僕? 僕は中二病と話したくないから遠慮する。

 そんな思いで、僕はシオンの肩を叩いた。


「それはそうとシオン? ほら、なんか話しかけてきてるぞ」

「あ? 誰だよコイツ。キョーミねーんだけど」


 僕の言葉を、シオン一蹴。

 少年の頬が引き攣った。

 僕は非常に焦った。


「興味なくても! ほら、無視されると辛いだろ!」


 僕が必死に説得すると、シオンは舌打ちをして腕を組む。

 ちょっと、お前がそんなに不機嫌そうなの、初めて見たよ!?

 僕に怒られてる時でも、もうちょっと機嫌いいよね?

 どんだけこの少年に興味がないんだよ。

 好きの反対は無関心、とはよく言ったもんだ。

 ……って、そうじゃない。


「んだよ。なんか用事でもあんのか? オレ今いそがしーんだけど」

「…………」


 ま、まずい……! これは非常にまずいぞ!

 完全に上から目線で話しかけたはいいけど、全然相手にされなくて、どころか興味も持たれなくて、忙しいからと無視されそうになってる。

 そんな状況が、どう転じるか……ッ。

 そんなの、火を見るよりも明らかだ。


『貴様……この俺を誰だと心得るか!』

『あ? 誰おまえ、知らないんだけど』

『……その言葉、後悔させてやるぞッ、決闘だッ!』


 とか、そんな流れになる。

 まぁ、言ってみればただの八つ当たりだ。


 まあ、シオンは確実に試験に落ちるだろうから、僕の心情としては『2人で好きにやってくれ』という感じだ。

 だが、言っちゃあれだが僕はシオンに懐かれすぎてる。

 決闘するならお前も居ろ、お前が居ないならオレも決闘しない、という謎理論に発展しかねない。

 当然僕は試験を優先する。

 すると、シオンは僕についてきて決闘を放ったらかしにする。

 その結果、僕が少年に恨まれる。


 なんという悪循環……ッ!


 あー、わかっちゃったわ。もう読めちゃったよ。

 これ、僕が厄介事に巻き込まれて終わりってオチだわ。


「貴様……この俺を誰と心得る!」


 僕は、そんなことを言い出した少年へと視線を戻す。


 ……この少年は大方、異能ブームにうまく乗っかったんだろう。


 なんだか上手い具合に強くなって。

 中学校でもさぞやちやほやされて。

 イケメンだから、女の子にもキャーキャー言われて。

 自分が世界の中心であるかのような感覚すら覚えたはずだ。

 まるで、自分が物語の主人公であるかのような感覚。


 まあ、俗に【中二病】と呼ばれる状態に陥った。


 黒歴史を作りまくって、最後に残るのは虚無だけ。

 圧倒的な【無駄な時間を過ごしてしまった】感と、壮大な【何やってたんだろう、自分】感。そのふたつは時を経るにつれて混じりあってゆき、最後には身が焼かれるような後悔が生まれ落ちる。


 その瞬間、人は自分の過去を……黒歴史を自覚するのだ。


 ……さて。

 色々と考えてみたけれど、なんとなく今後の流れは分かった。

 どーせゴタゴタになって試験に遅れる流れだ。

 ならば、僕のすべきことはただ一つ。



 ――逃げに徹する。

 それだけだ。



「『次元』」


 僕は呟くと、目の前に時空の歪みが現れる。

 その光景には少年や周囲の野次馬、どころかシオンまで目を見開いており、僕はシオンの手を引っ張って穴へと歩き出す。


 転移の最終進化系【次元】。

 これは、自分の思い描く場所へ転移、あるいは次元の穴を作り出すことの出来る能力だ。今回はシオンをつれていくため、転移ではなく穴を開くという形にさせてもらった。


「き、貴様……! まさか、界刻の【持つ者(ホルダー)】か!」

「……ホルダー? よく分からんが、急いでいるんだ。悪いが話があるなら、試験会場で続きを頼む」


 僕はそう言って、シオンを引き連れ穴をくぐる。

 次の瞬間には、僕らは試験会場の玄関前に立っていて、はるか後方を振り返ると金髪の少年が小さく見えた。


「お、お前……こんなの出来たっけ?」


 シオンが、驚いたように問うてくる中。

 僕は来客用のスリッパへと履き替えながら、彼女を振り返る。

 そして、満面の笑みを浮かべてこういった。



「なにも、変わったのはお前らだけじゃないってことだ」



 1年半。

 それは、一般人から逸脱するには十分すぎる時間だった。



1年半は、伊達じゃない。

次回【入学試験】


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