203『再会』
異能者の育成を専門とする高等学校。
――その名も『ハイライトスクール』。
ちなみに名前の意味は不明。
なんとなく正統派っぽい名前だから命名されたんだろう。
実に薄っぺらい命名だ。
まるで、作者が仕事中に三秒くらいで考えた名前みたいだな。
閑話休題。
その、ハイライトスクール。
正統派(六紗優を中心として形成された善き異能者の集い)が中心となって学園を経営し、臨機応変に対応しながら最高の異能力者を育成する……とかいう、なんともふわっとした感じの学校システムである。
その説明を聞いた時は頭が痛くなったね。
あまりにもふわっとしすぎていて、学校としてそもそも機能するのかも怪しいわ。
まあ、そんな学校に行かなきゃならんって時点で、もういろいろと終わってるわけだが。
それでも必要最低限、この体だけはどうにかせにゃならん。
「……95、96……っ、97、98……」
「お、おい、御仁……っ」
僕はテレビを見ながら、片腕で腕立て伏せを行っていた。
目が醒めてから、既に一か月近くが経過していた。
学校のニュースを聞いてから、僕は、常軌を逸したリハビリメニューをこなしている。
腕立て伏せ、五百
腹筋、五百。
スクワット、五百。
とりあえず、最初はその程度。
今は慣れてきたので、徐々に負荷を強くして行ってる。
……ちなみにだが、冥府にいた頃はもっときついメニューで体を鍛えていた。
最後の方なんてもう、体バッキバキで体脂肪率一桁だったからね。
そうでもしなきゃ格上のイミガンダに勝てなかった、ってのもあるけれど、僕の場合は筋肉の修復が人よりもずっと早いからな。人の何十倍という速度で筋肉をつけることができる。
暴走列車の活性、さまさまだ。
「死んでから1年9か月……開校まで、あと3か月で」
「……入学試験は、いよいよ明日か」
阿久津さんもびっくり、驚異過ぎるハードスケジュール!
学校開きますよー、と発表があって一か月ちょいで入学試験!
お前らなんなの? 否が応でも僕に準備させないつもりですか?
一か月でできることなんて限られてる、っての。
少しくらいは僕の状況も慮ってほしいよ、六紗。
ちなみに学校側は『この短期間で仕上げられる猛者を望んでいる』とか言ってるけど、絶対嘘だと僕は思う。
ああ、間違いないね。
なんとなく「あっ、学校開こう!」と思い立ち。
よく考えたら四月まであと数か月しかないことに気づき。
そんでもって、なんとか無理を通してるだけにしか見えないもん。
僕は立ち上がると、体中の筋肉を伸ばして顔をしかめる。
「一か月じゃ、できることなんてせいぜいこれくらいだな」
体力、持久力はほとんど初期から変わってない。
そも、全ての能力値を一か月で戻そうというのがおかしな話。
だから今回は、筋力と瞬発力。その二つを重点的に鍛え上げた。
長期戦になった場合? そんときは素直にあきらめる。
今回狙うのは、完全な短期決戦。
現時点でも、極々短時間ならばA級最上位程度の力は出せるだろう。
だから、その力が出せる短期間に、ことごとくぶっ潰す。
そうすれば、主席は無理でも相応の順位には入り込めるはずだ。
……頼むから、サバイバルなんて試験に出てくるんじゃないぞ……。
「御仁も……かなり変わったな。いいや、かつての力を取り戻したというべきか」
ふと、阿久津さんが呟いた。
「そうか? まあ、たしかに言われてみれば、そうかもな」
確かに……僕も随分と異常の域に足を突っ込んでいるのかもしれない。
すくなくとも、イミガンダを倒した時点で普通であることは諦めた。
これからは、力に貪欲に生きていこうと思います。
じゃないと本物の暴走列車になんて勝てないだろうし、さ。
あと、阿久津さん。
そういえばまだ信じてたんですね。
僕が何者かに力を奪われた……とか、そんな眉唾物の嘘っぱち。
まあ、そういって嘘をついてる僕が一番悪いんだろうけど。
僕は内心呟いて、近くのパーカーへと袖を通した。
「……走ってくるよ。最後の調整で」
「気をつけるのだぞ。近頃は物騒だからな」
異能使いに向かって物騒って……それはどれだけ物騒なのだろう?
異能者狩りでも出てきているのかな?
「ま、安心してくれよ。基礎三形・遮断は結構自信があってな。もう、暴走列車に勘づかれて襲われるなんてことは無い……と思うから」
「そうであれば良いのだが……」
阿久津さんがそう言う中、僕は玄関で靴を履いた。
どっちにしろ、阿久津さんは外に出られない。
というか、出したら危ない。
だって、悪い意味で世間に顔が知れてるわけだしさ。
「そんじゃ、2時間もしないうちに帰るよ」
「あぁ、いってらっしゃい」
阿久津さんはそう言って僕を見送って。
僕は、大きく深呼吸して走り出す。
さぁ、あと一日。
手遅れかもしれないけど、少しでも体力を取り戻さなきゃ。
☆☆☆
走っていると、ちょうどお昼前の時間帯になっていた。
あまり長時間は走っていられず、僕は荒い息を吐きながら、足を止める。
場所はちょうど、近くの商店街だ。
いい匂いが風に乗って伝わってくる中、腹が鳴る。
……生き返った当初は、胃も食べ物を受け付けなかったからな……。
それでも筋肉をつけるため、必死こいて飯を喰らった。そのおかげで今では食欲も十分に戻っていた。
ポケットへと手を入れると、財布の中に幾らか小銭が入っている。
「……少し、食べていくかな」
トレーニングの直後にご飯を食べたほうがいいと聞くし。
僕は焼き鳥の一本や二本買っていこうと、近くの店へと歩いてゆく。
……しかし、その店へと近づいていくにつれ、僕は騒ぎに気が付いた。
「だから……! 嬢ちゃん! アンタ金持ってねえんだろ!?」
「もってねえ!」
「なら焼き鳥食べちゃダメだよ! なんでいきなり店先の焼き鳥食べるかなァ!?」
「うるせえ! 腹減ってたんだからしょうがねーじゃん!」
……どうやら、無銭飲食が発生してるみたいだな。
二年前はこんなことなかったのに……僕が死んでる二年間で、いったいどれだけ日本は変わってしまったのか。僕もまだ全容を捉え切れてはいないが、日夜、ニュースで【異能力者による事件】だなんだと放送されているのを見る度、何とも言えない気持ちになる。
そして多分、今回も似たような感じだろう。
「細けーこときにしてんじゃねぇよ! タマついてんのかお前!」
「失礼な子だな! アタイはこれでも女だよ!」
店先で騒いでいるのは、赤髪ボブカットの背の高い少女。
そして、おじさんみたいなおばさんだった。
えっ、あれでおばさんなのか……? 第一声『すいませんおじさん、焼き鳥ください』にしようと思っていた手前、ものすごく助かった。ありがとう、名も知らぬ女の子。
僕は、赤髪の女の子へと視線を向ける。
外国人かな? さっきから、まるで小学生みたいなやり取りをしてるけど。
……僕もさっさと焼き鳥食べて帰りたいんだけど……どうしたもんかなぁ。
「とりあえずお嬢ちゃん! お金どうすんだい、親御さんは?」
「死んだ!」
「き、兄弟は……?」
「いねぇけど、子分ならいるぜ! 金ならそいつが払う! 安心しな!」
「……えっと、その、子分? って子は今どこにいるんだい?」
「知らねぇ!」
「あっ、もしもし警察ですか?」
あまりに傍若無人な少女の答えに、店のおばちゃんもとうとう警察へと助けを求めた。
……よし、とりあえず、警察がくる前に焼き鳥買っちまうか。
そう考えた僕は、その店へと近づいていく。
すると、自然と赤髪の女の子が目に映った。
にしても……この女の子、どっかで聞いた声、してるんだよなぁ。
赤髪だし、これで髪が長かったら、どこぞの誰かと勘違いしていたかもしれない。
まぁ! 探し人がこんな近所の商店街で、無銭飲食してるわけないか!
なはははははは!
そうこう考えながら、僕はポケットから財布を取り出す。
僕の足音に気が付いたのか、少女は不意に振り向いて。
そして、思いっきり目が合った。
「あっ」
「おっ!」
その人物の正体に気が付いた、その刹那。
僕は瞬くような速度でUターン。そのまま駆け出していた。
嘘でしょ。
いやいや、なんかの見間違いだよ。
あんな別れ方して、再会が無銭飲食とか笑えない。
よし、今のはなかったことにしよう。
無かったことにして、今は逃げよう。
僕は全速力で逃げ出した。
だが、僕がスピードに乗るより先に、思いっきり後ろからタックルされる!
ズザザザザーッ、と頭からスライディング。
痛みに呻いていると、倒れる僕に誰かが座り込んだのがわかった。
というか、間違いねぇ。あいつだ。
「なはははは! おいお前! あれだよな、夢じゃねえよな!」
いや、夢だったらどんなに良かっただろう。
一年半越しの再開。
待ち望んでいた彼女との会話。
それが、無銭飲食から始まったってんだから。
もうあれだよね、これって僕がお金を払う流れだよね?
さっき、子分が払うとか言ってましたしね。
僕は心の中で涙を流し、少女は僕の背中をゆすぶる。
「ぜんっぜん、何も変わってねぇな! お前は!」
「……そういうお前は、髪をバッサリ切ったみたいだな」
そういうと、少女は笑った。
一年半前と何も変わらぬ笑顔を浮かべて。
あの日の続きを始めるように、華のような笑顔を浮かべてこう言った。
「おう、カイ! なんか邪魔くせぇから燃やしたぜ!」
S級異能力者、シオン・ライアー。
僕は彼女の言葉にため息を漏らすと、疲労交じりに財布を取り出す。
「女の子なんだから……髪くらい大切になさい」
「うるせぇ!」
シオンは満面の笑みでそう叫び、僕は泣いた。
とりあえず、当初予定していた数倍の金額が、財布から消えていった。
《主人公が死んでいる間に起きたこと》
阿久津さん→永久のNow Loading。
六紗→トイレの張り紙を剥がすために覚醒。
ポンタ→セクハラ。
シオン→髪を焼いてボブカットに(NEW)




