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妄想クラウディア~10人の異能使いと禁忌の劫略者~  作者: 藍澤 建
第二章【秘匿の消えた世界】
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201『二年後の世界』

新章開幕!

懐かしい人達の再登場です!

 目が覚めて、僕は飛び起きた。

 最初に感じたのは、ここ二年近く感じてこなかった体温と、喉の乾きだった。

 咄嗟に喉に手を当て、咳き込む。


 ――生き返った。


 喉の痛みがそれを教えてくれた。

 僕は大きく深呼吸すると、最後の光景を思い出し、呟く。


「……あの、馬鹿野郎が」


 霧矢ハチ。

 なんで、僕を生き返らせてんだよ……。

 あの野郎、今度見つけたら絶対にぶん殴ってやる。


 ……だが、終わったことはどうしようもない。

 それについては、今度霧矢を殴ることで済ますとしよう。

 僕はそう考えることにして、一旦、奴のことは割り切ることにした。

 今僕がやるべきことは……シオンに会うこと。

 そして、黒歴史を忘却すること。それだけだ。


「……つーか、ここ、どこだよ」


 僕は、改めて周囲を確認し、呟いた。

 一言で表すならば、ここはイタい場所だった。

 僕が寝ていた寝台を中心として、なんか魔法陣が広がっている。

 何で書かれているのかは知らないけど、なんか光ってる。

 えっ、これマジなやつなの? それともイタいだけのやつなの? どっちなんだろう、もう判別もつかなくて怖くなってきた。


 魔法陣のさらに外には、お供え物がある。

 リンゴとか、スポーツドリンクとか、いろいろと。

 病人のお見舞いか、って感じの品ぞろえだった。


「えっ、なんなのこれ、怖い」


 僕は一体どこに生き返ってしまったの?

 おっかないよ。というか、本当に僕の体ですか、これ。

 白いローブみたいな服装に、見る限りは僕の体……かなぁ? とりあえずなんの違和感もないけれど、自分の顔を見ない限りは落ち着けない。


「鏡……そうだ、ガラス」


 僕は窓を探して寝台から下りる。

 だが、立ち上がろうとした瞬間、全く力が入らず倒れてしまう。

 すごい音がなり、光っていた魔方陣が消えてゆく。

 その中で、僕は痛みに顔を顰めながら立ち上がろうとする。


「く、クソっ……なんだよ、これ!」


 死んでる間、2年間の肉体的ブランク、ってやつか?

 だとしたら、僕の肉体は2年間もの間、腐らず、焼かれることも無く、ずっと保管されていたってことか? それは一体……。

 僕が頭を悩ませていると……ドタドタドタァ、と、頭上の階から慌てたような足音が聞こえてきた。


「うっわ、すごい既視感」


 もしかして……あの人か?

 今の足音、あの女の人なのか?


 僕は、恐る恐ると入口の方へと視線を向ける。

 しかし、いつまで経っても想像していた人は現れず、僕は安堵に大きく息を吐いた。その、直後だった。



「起きたか御仁ッッ!」

「ぎゃぁぁあああああああああああ!?」



 背後から、窓ガラスをぶち破って銀髪女が現れた!


 そうだった! そういえばこの人、窓ガラスから侵入するのが好きだった!

 僕はあまりの驚きに悲鳴を上げ……そして、ふわりと、いい匂いに包まれた。

 目を見開けば、銀髪の女性は僕の体を抱きしめていた。

 その肩は震えていて……僕の死体を保管していた人が誰なのか、ここに来てようやく理解ができた。


「す、済まない……私が、私が……不甲斐ないばかりに」


 2年ぶりの謝罪に。

 僕は、彼女の背中を優しく叩いて、笑って返す。



「ま、何はともあれ……久しぶりだな、阿久津さん」



 僕の声に、彼女は顔を上げる。

 2年前より、さらに大人びた彼女は、真っ赤な瞳で笑って見せた。


 かくして、蘇ってから数分と経たず。

 僕は、特異世界クラウディアの悪魔王――阿久津さんと再会を果たした。




 ☆☆☆




 結論から言って、僕は全然動けなかった。


 異能は当然のように使えるみたいだ。

 冥府から【零巻】や【深淵剣デスパイアの残骸】なんかは持ち帰ってきたのか、寝台の近くにまとめて積んであった。

 鍵があるなら異能も使える。

 イミガンダから奪った具現や、奴を倒した事での経験値。

 その他諸々も含めて、今の僕ステータスを開示しよう。



 灰村 解

 Lv.71[Sランク]

 異能[禁書劫略][暦の七星]

 技能[神眼][神狼][廻天][復讐][次元][消滅][未設定]

 基礎三形

 活性[S]

 遮断[A]

 具現[S]



 とうとう、ついに僕もS級へ。

 それぞれ技能も進化した。

 鑑定→神眼

 黒狼→神狼

 回転→廻天

 耐性→復讐

 転移→次元

 崩壊→消滅

 それぞれ、僕が思うに最高位の技能。

 まぁ、言ってみれば最終進化系ってやつだ。


 ちなみに、最後のひとつの能力は決めていた。


 僕はササッとその能力を獲ると、途端に無数の技能進化。

 結果として、僕はもうひとつの最高位技能を手に入れることとなった。


 その名も【指揮】技能。


 配下全てを指揮し、強化する技能だ。

 今のところはまだ仲間も少ないけれど、阿久津さん、六紗、ポンタに加えて、シオンや霧矢と合流すれば……全員の能力強化を測ることが出来るこの技能は絶対に役に立ってくる。

 そしてこの力、副次的な能力で仲間の傷を癒すこともできるのだ。

 もう、二度と目の前で誰かを殺させない。

 そのためにも、この力は必須だった。



 必須……だと、思ったんだけど、なぁ。



「……で、なにこれ、どういうこと?」


 僕は、テレビを見つめてそう言った。

 場所は、阿久津さんの拠点らしいビルの一室。

 どうやら上下階を数階まとめて借りているらしく、ここはその中でも真ん中辺りにある広めの部屋。

 キッチンの方にはエプロン姿の阿久津さんがいて、彼女は使っていた包丁をまな板に置くと、手を拭きながら僕の方へとやってくる。


「うむ。この2年で……随分と世界も様変わりしてしまってな」

「いや様変わりって言葉じゃ追いつかねぇよ」


 僕はテレビに映し出されている光景を見て、頭が痛くなった。

 窓の外へと視線を向ける。

 2年前よりもずっと進歩した街並み。

 ビルの壁に映し出される広告や映像は、以前とは全く別種。


【これを飲めば異能に目覚めやすくなる! 脅威のエナジードリンク!】

【さぁ、今こそ目覚める時だ。異能開眼トレーニングジム!】

【今日から君も異能力者鑑定士に! 異能専門資格塾】

【薬聖が監修した回復ドリンク! 今日も一日頑張ろう!】


「……なんだよこれぇ」


 僕は、思わず頭を抱えた。

 えっ、なに。

 もしかして違う世界にトリップしちゃった?

 なんで広告という広告が全部頭がイタくなってるの?

 この2年間で日本はバカになったのかな?

 そうこう考えていると、阿久津さんは椅子に座って語り出す。


「御仁も覚えているだろう、あの日のことを」


 彼女が語ったのは、世界改変の、その実情だった。

 暴走列車、ナムダ・コルタナが暴れ回った日のこと。


 あの日、奴の暴走により多くの死者が出た。

 それこそ、異能者たちが秘匿しきれないほど、膨大な死者が。

 その結果として、市民は異能という存在を理解、噂として世界中へと拡散して行った。


 日本は当初、異能の存在を認めていなかったらしい。

 だが、イギリスが率先して異能の存在を認め、アメリカなどの諸外国もまた、次々と異能の存在を認めて行った。

 その中で日本もまた異能の存在を認めたのだとか。

 そして、2年間という月日を経て、異能が公となった今。

 こうして、大異能ブームとも呼べるイカれた時代が来ているらしい。


「生きづらい世の中になったもんだ……」

「あ、ちなみに御仁、安心してくれ。貴殿のお父上とお母上には、私から話を通してある。異能者に巻き込まれてしまったが、特に怪我はない、とな」

「……あ、そうなの? それはどうもありが」

「ちなみに私は貴殿の婚約者として通してある。安心してくれ!」

「安心出来るかァ!」


 爆弾発言だよ!

 え、なんで死んでるうちに婚約者できてんの!

 びっくりだよ!


「ま、まぁ、落ち着いてくれ。あくまでも形式上だ。私が貴殿を匿う以上、あの御二方にはそう説明する他なかったのだ。分かってくれるな」

「それはわかるけどもぉ……!」


 僕はなんとも言えない気持ちを抱えていると……どうやら、テレビで記者会見的な何かが始まるようだ。

 また有名人がなにか不祥事起こしたのか?

 2年経っても何も変わらないな、そういう所は。

 僕はそう考えながらテレビを見ていると……ふと、そのテレビの向こう側へと現れた人物を見て、目を見開いた。


「な……!? ちょ、ちょっと待て! こ、コイツって……!」


 思わずテレビを凝視し、すぐに阿久津さんへと視線を向ける。

 彼女は苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「……あぁ、貴殿には、言っておかねばならないな」


 その顔は、苦渋に満ち溢れている。

 まるで見て欲しくなかった黒歴史を見られたかのような。

 どうしようもない、後悔の顔だった。

 それもそのはず、テレビに映っているのは、あの女だったから。


『この度は、私のペットが起こした不祥事についての謝罪会見を開かせて頂きます。お集まりの皆様、お越しいただき、誠にありがとうございます』


 頬が引き攣る。

 この声、あの姿。

 2年経っても、面影が残ってるからすぐ分かった。

 いくら髪を伸ばそうとも、年下だったのが同年代になっていようとも。

 その姿を、僕が間違えるはずがない。


 テレビの向こうで、栗色の髪をした少女は、右手を示す。

 カメラがそちらを向く。

 そこには、磔にされた謎生物が死んでいた。

 いや、生きてはいるんだろうけど、目が死んでた。


『ぽよぽよ……』

『この度、度重なる女性へのセクハラ発言につき、3日間の断食を強制しております。今後は二度とこのようなことがないよう……』


 少女は謎生物を見ながらそう話している。

 う、嘘だろ……あれ、ポンタじゃねぇか!?

 ってことは、やっぱり!


 僕は息を飲み、阿久津さんはこう言った。


「2年間で、変わったのは世界だけではない。その王も、変わったのだ」


 世界の王様。

 2年間はいなかった、全世界を統べるもの。

 僕は乾いた笑顔を浮かべ、テレビの中で、その少女は無表情に言った。



『ここに、正統派の王【六紗優】が宣言致します。このペットに徹底的な調教を加え、規律の体現とも呼べる存在へと育て上げる、と』



 六紗優。

 かつて僕らと一緒に戦った少女は。


 どういうわけか、2年間で世界の王様になっていた。



な、何故こんなことなったのか……?


次回【悪魔王と勇者の喧嘩】

在りし日の追憶です。

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