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妄想クラウディア~10人の異能使いと禁忌の劫略者~  作者: 藍澤 建
第一章【エンドロールの向こう側】
34/170

119『霧矢ハチの大切なもの』

死闘の果てに

 僕は、異能力を解除して息を吐く。


 黒狼系の、暦の七星(セブンスタ)

 初めて使ってみたが……凄まじい力だった。

 暦の七星を使ってない状態なら、せいぜい今の僕はA級最上位って程度だろう。だけど、あの状態なら間違いなくS級に足を踏み入れていると思う。

 それだけの力を感じた。


 ……まぁ、だからといって他のS級より強いか、って聞かれたらちょっと不安が残るわけだけれど。


「なぁ、冥府の王イミガンダ」

「あ、……ぁ、ぁ! な、何故、何故ぇ……!」


 目の前で、イミガンダは()()()()()()()

 やはり、番人は人間とは根本的に異なる生き物なのだろう。

 首だけになっても、なんやかんやで10分くらいは生きてるしな。

 奴は今、ゴミクズみたいにボロボロにされた体を見て泣いている。


 既に、彼の死慌再臨(ヴァルプルギス)は解けている。

 これは後から分かった話だが、僕がこの状態にならずとも、遠からず彼は想力が足りなくなって元の姿へと戻っていた。それが、体をボコっている最中に判明した。


 ……やっぱり、偽物でリベンジするな、って神の思し召しだろうか。

 そんなズルは許しません、って思惑を感じる。

 まぁ、別に本物も倒すつもりだから別にいいんだけど。


「じゃ、原点回帰。……そろそろシオンの想いも汲んでやろうか」

「ま、待っ……! 待て貴様! この私が一体誰だと――!」


 誰だって?

 冥府の王、イミガンダだろ。

 それでも不足だって言うなら、僕が知る言葉の中で、最もお前に近しい言葉を贈ろうか。


「【人間失格のクズ野郎】……あぁ、最初から人間じゃなかったな」

「……ッ! こ、この、下郎が! 人殺しめ!」

「お前にだけは言われたくねぇ」


 僕は、やつの頭部めがけて拳を振り被る。

 その命は、既に風前の灯。

 吹かずとも消えゆく燃え滓だ。

 だけど、それでも。


 復讐すると決めて、始めた以上。

 何がなんでも、僕はコイツを殺さなきゃいけない。


「お前を殺す。でなきゃシオンに顔向けできない」


 僕は拳をにぎりしめる。

 イミガンダは何か騒ぎ立てているが、それも聞こえない。

 僕はゆっくりと拳を動かし始めた……その、直後の事だった。



「ちょっとちょっと、解くん、それはあんまりじゃないかい?」



 ひょいっ、と。

 横合いから、霧矢がイミガンダの首を捕まえていった。


「な……! お前何して……」


 まさか、ここに来てそんな屑を庇う気か!?

 僕が非難するように彼を睨むと、彼はいつも通り、おちゃらけた雰囲気で否定した。


「いや、何って……解くんが倒しちゃったら、イミガンダの御霊は君のもの、的な流れになっちゃうじゃん。そんなのはあんまりだよー。ねぇ、こいつは俺に殺させてよ。さすがに冥府生活飽きちゃったの」

「こ、コイツ……!」


 一時期は、あんなにいい感じで協力してくれたのに!

 心の底から『あっ、コイツ良い奴だな』なんて思ってたのに!

 台無しだよ! 最後の最後で全部もっていきやがった!

 そして、零巻を用意してもらってる手前、僕は霧矢の【御霊をちょうだい】というお願いに、なんの反論も漏らせない。


「……っ! こ、この……!」

「あははー。悪いね、解くん。というか、シオンちゃんの復讐とか言いながら、途中から完全に自分のために戦ってたでしょ? その時点で彼女の意を汲むとか言っても……ねぇ?」

「ぐっ……」


 僕はなんの反論も出来ずに言葉を飲み込む。

 そ、そうだよ! なにか悪いですか!

 そもそも僕みたいなのに復讐なんて向いてねぇんだよ!

 僕はもっと軽いノリが好きなの!

 シリアスよりコメディの方が活き活きとできるのぉ!

 ここに来るまで、何度も心が潰れるかと思いました!

 とは内心思うものの、何も言えず。

 イミガンダは、状況についていけずに目を瞬かせた。


「よ、よもや……私は助かるのか? や、やはり天は私を見限ってはいなかった! よくやったぞ【理知の砦(アヴァロン)】! 貴様には我が配下として――」


 イミガンダは満面の笑みで声を上げ。

 霧矢ハチは、同じく満面の笑顔でこう返した。



「うるせぇな、死ねよ」



 彼が指を鳴らした。

 次の瞬間、イミガンダの頭部が()()()()()()()()


「…………ッ」


 な、何も、見えなかった……?

 どんな能力なのかも、何をしたのかも。

 何も分からない、何も理解出来ない。


 僕はここに来て、寒気を覚えた。

 なんなんだよ、コイツ、この男……ッ。

 ()()()()()()()()()()()()()


 ――霧矢ハチ。


 S級異能力者、【理知の砦(アヴァロン)

 ……何を僕は勘違いしていたんだ。

 後方支援くらいしか出来ない、だって?

 嘘をつけ、S級が僕より弱いわけが無いだろうが。


「お前、僕より、ずっと――」

「……そうだね。騙していたことには謝るよ」


 彼は、正直だった。

 嘘をつかないと言った男が、やはり最初から嘘だったと理解し。

 それでも僕が冷静でいられたのは……コイツと生きた2年間があったから。


「でもね。僕にも君に戦ってもらう理由があったんだ。……まぁ、詳しく語るつもりは無いけど、絶対にその方がいいと確信していた。僕の本にはそう書いてあるからね」

「…………本?」


 霧矢は、よく分からないことを言い出した。

 彼はイミガンダの体へと歩いてゆくと、その心臓部から水晶玉を取り出す。

 ――三つ目の【冥府の御霊】。

 奇跡を可能にする、願望器。

 それを前に喉がなる。

 だけど、彼から奪おうとは思わなかった。

 彼が本当は強いと知ったから?

 いいや、違う。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。


 ……認めたくはないが、僕は感謝してる。

 この2年間、一緒にいてくれたこと。

 得体の知れないおっさんであっても。

 敵しかいないこの世界で、お前が居てくれて本当に助かった。

 だから、僕の想いに迷いはない。



「とりあえず、使えよ。お前が先に生き返れ」



 この一年半も、思えばこの一言から始まった。

 僕がシオンを生き返らせて、お前が僕に力を貸した。

 そこから始まったんだ。

 なら、お前が生き返るところから、帰還の物語が始まってもいい。


「……そうだね。解くん、ありがとう」

「うるせ。どーせ、僕が最初からこうするって分かってたんだろ。だから、僕に殺しをさせなかった」

「ありゃ、バレてた?」


 バレてる、っての。

 お前が表に出るなんて、滅多なことじゃない。

 余程大切な何かがあったんだろう。

 きっとそれは、『灰村解を人殺しにしないこと』。

 ……シオンもお前も、甘ったるいにも程があるぜ。


「それじゃ、お別れだな」


 僕が言うと、霧矢ハチは寂しげに笑った。


「寂しくなるね。でも大丈夫、きっと、また会えるさ」

「おう。必ず四つ目の御魂を見つけてみせる」


 まぁ、四つ目の御霊を手に入れるにあたり、結局は番人を殺さないといけないわけだし、結局お前の願いは叶わなかった、ってことになるがな。

 僕はそこまで考えて……ふと、なんだか違和感を覚えた。


「……って、待てよ?」


 僕がここに残る時点で、誰かを殺めることはわかってるはずだ。

 ならば何故、この男は自分の手でイミガンダを殺めた?

 本当に自分が先に帰りたかっただけ?

 いいや、違う。そうじゃない。

 僕は最初から、イミガンダの分は霧矢に渡すつもりだった。


 なら、この男が本当にしたいことは――。


 僕が必死になって考える中。


 霧矢ハチは、「もう遅いよ」と口にした。

 彼は宝玉を握りしめ。



 コツンと、()()()()()()()()()()()



「俺の願いは【灰村解が、生き返ること】」



「な……!?」


 目を見開いたその時には、既に変化は起きていた。

 奇跡は動き始めていた。


「ちょ! い、今のは無しだ! お、おい霧矢! お前何を!」

「いやー、今現世に戻ったら、色々と力を隠してたことについて解くんから殴られそうだし? それならいっそ、解くんを先に生き返らせて、俺はあとからこっそりと現世に戻るとしようかなー、なんて」


「ふざけんなよ!」


 僕は叫んだ。

 体を光が包み込む。

 僕は霧矢の胸ぐらを掴み、声を上げる。


「お前が生き返れ! じゃなきゃお前の想いはどうすればいい! お前は僕のために御霊を捨てた! その行為にどう応えればいい! 僕は……ッ!」

「……もう、応えてくれたじゃないか」


 霧矢はそう言うと、儚く笑った。

 僕はその笑顔に言葉を失う。

 その笑顔を、疲れきったような笑顔を、僕は知っていた。

 僕がシオンを失ってから、浮かべていた表情と同じだった。



「俺はね、君たちのことが結構気に入ってたんだぜ」



 それは、霧矢ハチが語る、本心だったと思う。


「理由はそれだけ。僕は前も言った通り、君たちをボコボコにしたイミガンダが許せなかった。まぁ、君を先に現世に戻すにあたって、滅多な事じゃ死なないように成長してもらったわけだけど。想像以上だったよ、今の君は強い」


 その言葉をきっかけに、僕の体の崩壊が始まる。


「き、霧矢! 僕は……!」

「すぐに落っこちて来ないでくれよ? まぁ、最終決戦くらいには俺も合流すると思うし……君も、これ以上彼女を待たすんじゃない」


 僕の視界が、白く染まる。

 声帯も消えて、目も見えなくなって。

 消えてゆく、あたたかい光に包まれて登ってゆく。

 それでも最後に、霧矢ハチの声が聞こえた。



「頑張れ少年。俺は、君を応援してるよ」



 それが、僕が冥府で聞いた最後の言葉。




 ☆☆☆




 その姿を見送って。

 俺は、安堵の息を吐いた。


「ふぇー、疲れた疲れた。これでやっと安心出来る」


 右手を振るうと、一冊の本が現れた。

 それは、黒一色に塗られた本だった。

 その表紙には【(8)】の表記があった。

 ……こんなものを作ってしまうだなんて、やっぱりあの少年は異質なんだと俺は思う。だからと言って特別とは限らないが……少なくとも俺は、彼が特別であってほしいと願わずにはいられない。


「解くん。ここは、君が生き返るべきだと判断した」


 そもそも俺の出番は、まだずっと先。

 今回の登場は、イレギュラー的なものさ。

 俺は今後、しばらく彼の物語に関与しない。


 というか、できない。


 なんてったって、まだこっちでやることがあるんでね。

 俺は背後を振り返る。

 ……解くんが発狂しそうな光景が、そこにはあった。


「「「「我らが、新たなる王よ」」」」


 そこには、多くの番人が膝をついて頭を垂れていた。

 全員が上層の中二病。

 彼が見ていたら、きっと発狂していたと思う。


 にしても……なんだっけ?

 冥府の王を殺した者は、例外なく次代の冥府の王となる。

 だっけか?

 嫌な風習もあったもんだよね。

 だから、解くんにはイミガンダを殺させたくなかった。

 だってそうなると、解くんが冥府の王にされるから。

 それはいけない、絶対に。

 彼は生き返って、物語を進めるべきなのだから。


 そして、いつの日か。

 全ての異能力者を打倒して。

 それでも一冊、足りないことに気づいて欲しい。


 その時が、俺の出番。


 ――10人目の異能力者、霧矢ハチとして。


 この、第8巻を、君と奪い合う。

 無論、今度は敵同士として、ね。


「やっぱり、こんな初期から生き返るのはまずいよね」


 ()()()()()()()()()()()()()

 それまでは、少しの間お別れだよ、解くん。


 俺の名は、霧矢ハチ。


 S級最上位の異能力者、【理知の砦(アヴァロン)


 世界で最初に【逸常】に目覚めた、最強の異能力者。


 ……なーんて、俺の柄でもないんだけれど。



「さて、とりあえず……どうやって冥府から出ようかな」



 俺は、いつも通り、ここで死んでいる。

 少なくとも、彼が9冊のノートを集める、その日までは。


以上、第1章、完!


次回、第2章【学園編】開幕!


下の☆ボタンを押してくださると、☆の数だけ作者のやる気が迸ります。

レビューもお待ちしておりますので、よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] いいところで突然死んでえーって思ってたらそれ以上の神展開が来て最高に面白かったです!
[良い点] イヴィル・ゼロに追いついたからこっち来たわけだけど、この話に感想がついてないってマジ?一人目なのは予想してたけどおもれーなー
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