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妄想クラウディア~10人の異能使いと禁忌の劫略者~  作者: 藍澤 建
第一章【エンドロールの向こう側】
32/170

117『超えろ』

予約投稿ミスってたああああああああ!

すいません!

 通称、暴走列車。

 本名、ナムダ・コルタナ。

 異能【竜血暴走(クレイズ・ドラゴ)

 異能種別【災躯】

 特徴、常軌を逸した回復能力。


 総評――めちゃくちゃ強い。



【GOOOOOOOOOOOOO!!】


 連続して放たれる拳、拳ッ。

 あの日、ポンタと戦う暴走列車が見せた全力ラッシュ。

 これを必要最低限の動きで回避出来るあの謎生物は、本当にイカれてるとしか言いようがない。

 僕は、それらを拳で相殺しながらそう考えていた。


「重、たい、ってのぉ!」


 真正面から相殺すれば、互いの拳が砕け散る。

 狼王技能を使っても、これだ。

 余程【竜血暴走】とかいう異能の強度が高いんだろう。

 少なくとも、今の僕じゃ【黒狼】【異常稼働】の並列使用で、やっと二年前の彼らと同じ場所に立てるって程度。自分の弱さが嫌になるね!


「けど……!」


 僕の両手が、左右上下から、受け流すように拳を叩く。

 暴走列車の渾身のラッシュは、それだけで僕の身には届かない。

 言っちゃ悪いがよ、暴走列車。

 今の僕とお前程度の実力差、今までに幾度となく経験してきたんだよ。

 僕は両腕を眼前へと集めると、暴走列車の拳が直撃。

 衝撃を上手く逃がしても、数メートルは押し込まれた。

 けれど、僕は笑った。


「上層の中二病、どんだけ苦戦したと思ってんだ」


 奴の拳を両手で握り、情け容赦なく力を使った



「【死絶】」



 暴走列車の、拳が朽ちる。

 ボロボロと崩れ落ちてゆき、崩壊の痛みに暴走列車は後ずさる。

 その右手は、肘から先が消えており、それを見て僕は両手を払った。


「やっぱり、最強の代名詞、即死、って言われるだけはあるよな」


 即死の【杯壊】

 停止の【界刻】

 強奪の【逸常】

 異能の世界において最強と呼ばれる三つの種別。

 生憎と……()()()()()()()()()()使()()()わけだ。


 僕が右手を構えると、暴走列車は目に見えて緊張した。

 やっぱり、中身はイミガンダ、なんだろうな。

 経験は忘れていても、本能の部分で覚えている。


 ――あの右手は、奪う右手だ。


 暴走列車は、僕へとすかさず駆け出した。

 今まで見てきた中での、最高速。

 死ぬ前の僕だったなら、きっと目でも追えなかっただろうな。


「でも、今は違う」


 僕は、暴走列車の頭上へと転移した。

 目の前から消えた僕に、咄嗟にイミガンダは()()を振り向き。

 僕は、頭上から回し蹴りを叩き込む!


【GOA!?】


 総じて、僕の蹴り技、殴り技には【念動】の力が加わっている。回転力を瞬間的に大きく高めて、一気に放つ。

 それは、僕の攻撃力をさらに大きなものへの飛躍させた。

 暴走列車の頭蓋が砕ける音がした。

 駆けていた勢いそのまま、頭から地面に突っ込んで倒れ伏す。

 その体はぴくぴくと痙攣しており、僕は眉根を寄せて目を細める。


「あっ、殺した? やったね解くん! これで君も外に出られるよ! いやー、外に出たら何するの? まずはシオンちゃんと――」

「霧矢、それをフラグっていうんだぞ。覚えとけ」


 霧矢がそんなことを言い出して、間もなく。

 倒れた体勢から、全身の筋肉を使って暴走列車は立ち上がった。

 全身から蒸気が溢れ出す。

 凄まじい熱量だ。息をすれば肺が焼かれそうになる。

 隣に立っている涼し気な霧矢を睨むと、彼の杖が煌めき、僕の感じていた熱の全てが消えてゆく。

 にしてもコイツ……便利だよな。

 一家に一台欲しいかもしれない。


「えっ、いやいや……咄嗟に補助掛けたけど、なにあれ? なんであんな攻撃を受けて立ち上がれるわけ? ふつー死ぬよ」

「あぁ……どうやら、想定してた中でも最悪の状況みたいだな」


 僕が想定していた中で、最悪の状態。

 それは、暴走列車があの頃と同等に強くて。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()


 そして、()()()()()()()()()()()()


 つまり、現時点の現実、そのものである。



 暴走列車の身体中から蒸気が吹き上がる。

 身体中の傷が癒えてゆき、瞬く間に完治する。

 それだけならまだいい、まだ許容できる。


 問題は、この状態だ。



【SHUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU……】



 かつても聞いた、その声を。

 体から、口から、眼球から。

 ありとあらゆる体表から蒸気を吹き出すその姿。

 それは、先程までとはまるで別格。


 強さの次元が違う。

 正しく、そういう表現が正しかった。


「……僕は、あの姿に殺された」


 僕が殺されてなかったら、多分、他の誰かが殺されてたと思う。

 たまたま偶然、僕が最初に動いた。

 奴から力を奪うため、異能を発動した。

 そこを、暴走列車に潰された。


「……リベンジマッチは、これから、ってか」


 そうさ。

 僕が恐怖したのは、これだ。

 全盛も全盛。

 回復能力と今の覚醒状態。

 このふたつが両立した、最強。

 これに恐怖した。

 ならば、僕が超えるべきはこの姿。


「……あわよくば、お前の想力切れで終わってくれるなよ」


 そんな末路はやめてくれ。

 僕は、お前を倒しに来たんだ。

 イミガンダとしてのお前も。

 暴走列車としての、お前も。

 お前ら全部まとめて、ぶっ潰しに来たんだ。


 僕は、左手の経験を、放棄した。


 恐らくやつには、記憶が戻ったのだろう。

 激昂して叫ぶ暴走列車へ、僕は死ぬ直前と同様に、がら空きとなった左手の円環を突き出した。



「さぁ、あの日の続きから始めよう。こっからが本番だ!」




 ☆☆☆




 動き出しは、ほぼ同じだった。

 速度に特化した僕と。

 蒸気を上げて覚醒状態の暴走列車。

 僕らはほぼ同時に動き出し。


 それでも、先に届いたのは暴走列車の拳だった。


「……がほッ!?」


 腹部へと、一撃が叩き込まれる。

 僕を殺した際と、同じ威力、同じ位置に、同じ速度。

 全てが等しい一撃は……されど、僕の命には届かない。


「……はっ、そんな、もんかよ!」


 僕は、腹と拳の間へと潜らせた左手をヒラヒラ振って、そう笑う。

 体もそうだが、目が、全てお前の動きについていけてる。

 鑑定の進化先――【魔眼】技能。

 これは視力って言葉の具現みたいな化け物技能だ。

 物語の中のような特殊技能はないが……、前みたいに、気づいたら即死、みたいなことな絶対にない。


 それに、その一撃……致命的に終わってるぜ、暴走列車。

 1度殺された。だから、身に染みて理解してんだよ。

 何故、あれほどまでに威力が高いのか。その仕組みをな。


「簡単に言ってしまえば……コークスクリューと同じ原理だろう? 拳を弾丸のように鋭く回転させて敵へとぶちかます。……実に理にかなったいい攻撃だ。だけどな」


 回転なら、こっちも負けちゃいないんだよ。

 僕は指先に小さな竜巻を呼ぶと、暴走列車の顔が歪む。

 自覚あり、ってか。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()って。

 それに、僕の攻撃は「先に届かなかった」ってだけだぜ、暴走列車。


 ピシッと、奴の頬へと傷が生まれる。

 驚いたように暴走列車が目を見開いて、僕は笑った。

 今のはちょっと偽物臭かったな、イミガンダ。

 あの化け物なら、間髪入れずに襲いかかってきたぞ。

 僕は拳を構えて、前を向く。


 僕の反応が気に食わなかったのか、暴走列車は今までで1番の大声を響かせた。

 蒸気の量が増してゆく。

 気持ち、その体が縮んでゆく気がした。

 されど、威圧感は溢れんばかりに膨れ上がってゆく。


「……これは、僕もいよいよ、覚悟を決めなきゃな」


 僕は狼王化をさらに進める。

 この先は、僕もまだ未体験の領域。

 これ以上踏み込めばやばい、という場所へと踏み出す。

 腕から肩へ、脚から腰へ。

 狼の体が広がってゆき、その度に激痛が走る。

 ギリギリ限界まで……満足に動けるだけの余裕を残して、それ以外を全て狼へと変える。最後に残ったのは心臓部分と、顎から上だけ。


 心臓の部分が、赤く脈打っている。

 人間と狼、半々の歪すぎる姿。

 弱点をさらけ出す欠点だらけの変身。

 ……間違いない。これは、まだ僕が使っちゃいけない姿だ。

 明らかに僕が扱える範疇を超えている。

 だからこんな姿になってるんだろうし、こんなにも痛い。

 僕は激痛に顔をゆがめ、それでも前を向く。


「でも、これくらいやらなきゃ……戦えないよな」


 今の化け物からは……ポンタに近い威圧感を感じる。

 前世がイスカンダルとかいう謎生物の、変身状態。

 僕が知る中での、物理最強の存在。

 継続戦闘能力という面で『暴走列車の方が強い』と、無意識のうちに考えていたのかもしれないが……今じゃ、暴走列車にポンタと近しい戦闘力を感じ取れる。

 つまり、最悪の状態ってわけだな。


「本物はこれより強いとか……嫌になるな」


 それでも前を向かなきゃ。

 生きていくんだから。

 これからもずっと、生きていくんだから。


 だから、必死こいて前を向け。


 死に続けているこの瞬間。

 1度は屈した過去。

 全部覚えている。

 1日たりとも、忘れたことは無い。


 かつて、勝てないと諦めた事実だって。


 自分は死ぬのだと本能で理解し。

 必死に縋った手も、希望の糸をつかみ損ねた。


 伏線も何も無く。

 なんの想いも背負うことはなく。

 ただ、早すぎる死に唖然とした最後だった。


 ……あんなのは、もう嫌だ。

 もう、自分の弱さを痛感しながら死ぬのは嫌だ。

 だから鍛えた、ぜったいに後悔しないように。

 二度と死なないように。()()()()()()()()


 鍛えて鍛えて、鍛え続けた。



 もう、あの時の弱者は、ここには居ない。



 なら、もうやることは分かってる。


 あの時、あの瞬間を。

 自分の弱さが何より憎かった、あの時を。



 1度は負けた嫌な過去(黒歴史)を、精一杯に超えるだけだ。



 大きく深呼吸して、前を向く。

 僕は両手を強く握り締め、力一杯に大地を駆けた。



 ――時刻は既に、半宵間際。


 そろそろ、ケリを付けるには頃合だろう。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 今読む作品探しによくお気に入り作品の投稿者様のページに飛んで、投稿者様のお気に入り欄とかから違う作品見つけたりするんだけど、びっくりした。 まさか、あの、月1回更新されれば喜ばれる、あの…
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