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妄想クラウディア~10人の異能使いと禁忌の劫略者~  作者: 藍澤 建
第一章【エンドロールの向こう側】
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109『冥府の王』

 オレの名は、シオン・ライアー。

 若くしてS級の異能力者になった、天才だ。


 オレは最近、冥府、って場所で暮らしてる。

 戦って、奪って食って、糞して寝る。

 たったこれだけの日常だが、不思議と退屈はしてねぇんだ。


「お前は何度言えば分かるんだよ! ねぇ! ちょっと自重してよ! なんで毎度毎度、レベリング終わって帰ったら1人で晩御飯食べてるわけ!? 食べ尽くしてるわけ!? 食い意地はりすぎだろお前!」

「うるせぇ! 腹減ったんだからしょうがねぇだろ!」


 子分のくせに、生意気なことを言ってくるこの男。

 黒髪黒目の、パッとしない普通の男。

 どこにでも居そうなジャパニーズ。

 それが、この男……ハイムラ、カイって野郎だ。


「ま、まぁまぁ……2人とも落ち着いて」

「うるせぇボケナス!」

「扱いが酷すぎる!」


 そして、2人目の子分。ボケナス。

 名前は確か、キリヤとか言ったか。

 コイツは胡散臭ぇから嫌いだ。

 嫌な感覚はねぇから、悪いヤツじゃねぇんだと思う。

 けど、胡散臭ぇ。そしてオッサン。

 その時点でオレより下なのは確定だ。

 けど、キリヤハチ……どっかで聞いた名前だな。


「ともかく! 晩飯調達しに行くぞ! シオン!」

「わぁってるよ! つーかリーダーはオレだっての! てめぇが仕切んな!」


 カイの言葉に、イライラしながらオレは言う。

 コイツは本当に……オレのことを尊敬しているんだろうか?

 戦って、オレが勝って、コイツは俺のものになった。

 子分になった。

 お前はもうオレのものだってのに……。


「クソっ、なんで……」

「……? なんか言ったか?」


 知らず漏れた言葉に、耳聡くカイは聞いてくる。


「うるせぇ! こまけぇこと気にすんじゃねぇよタマナシが!」


 前々から思ってた。

 コイツ、本当はキンタマついてねえんじゃねぇか、って。

 女だよ女。女々しいし、飯がなけりゃ機嫌悪いし、弱いし。

 オレのほうが数倍カッコイイと思うね!

 ったく、オレがついていなきゃなんにも出来ねぇカイだな!


「あ、そういうこと言っていいんだ。へぇー」

「こ、怖い顔すんじゃねぇよ……」


 だけど、カイはたまに、とても怖い。

 こういう時は……なんだっけ。

 そうだ、素直に謝る。

 そうすりゃカイの機嫌は直る!

 ふっ、こんなところでオレはコミュニケーションの極意を理解してしまったみたいだな。やっぱりオレってば天才だと思う!


「許せカイ! お前はキンタマついてるぜ! この前、お前が風呂入ってるところに突入して行った時に見たからな! なんなら絵にも書けるぜ!」

「ぶんなぐるぞおまえ」


 だけど、カイはなんでか、さらに怒ってた。

 なんだろう。キンタマ見られたのがアレだったのか?

 別に小さくなかったけどな。誇っていいと思うぜ! カイ!

 そんなことを言いたくなったが、賢いオレは学習した。

 ド直球はダメだ。

 ここは頭を働かせて、別の方向から攻めるのが吉と見た!


 つーわけでオレは、自信満々にこう言った。



「よし! こんどオレのも見せてやるから、機嫌治せよな!」



 オレは、カイにぶっ叩かれた。


 ……クソッタレが。

 何度も何度も、オレのことを叩きやがって!

 今に見てろ、カイ。

 絶対てめぇに、吠えずらかかせてやるからな!



 ――否が応でも、後悔させてやる。




 ☆☆☆




 シオンのアホさが天元突破している。

 最近になって、それに気がついた。


 アホだよアホ。

 番人がイカレサイコパスと呼ぶのもうなずける。

 なんなの?


「ちゃんとキンタマついてんのかお前!」


 とか言いながら、風呂に突入してくるのは何故?

 僕が怒ったら、何故逆にシオンが脱ごうとしているの?

 もはや思考が追いつけません。

 お前は馬鹿ですか?


「馬鹿馬鹿うるせぇな! オレは天才だって言ってんだろ!」

「天才なら1度言ったこと覚えてよお願いだから! なんでこう……一般常識が分からないかなぁ? お前が食ったら僕が食えないの分かる?」

「知らねぇ!」

「ほら見た事か!」


 いつものようにシオンとの口喧嘩。

 既に、この世界に来て2ヶ月近くが経過していた。

 度重なるレベルアップにより、僕もB級相当の力を手に入れた。

 さすがに『余裕』とまではいかないが、中層の番人と戦っても、余程の油断をしない限りは勝てるようになってきてる。


 僕は近くに座り込むと、尻の下から『ぐえっ』と声がした。

 周囲には、中層の番人が大量に転がっていて、これを全て僕とシオンで倒したのかと思うと少し感慨深い。

 僕は番人(の中でも1番中二病が酷くてイライラしたヤツ)の上に腰かけ、大きな息を吐く。


 まぁ、シオンに関しては……全然良くないけど、とりあえず置いておく。

 問題は、どうして僕達がこんな数の番人を倒しているのか、ってことに由縁する。


「ま、これだけやれば……出てくるだろ」


 今回、なぜ僕達が中層から上層へと上がっていないのか。

 中層で、2ヶ月もの時を浪費してしまったのか。

 その理由はいくつかある。

 その内のひとつ、僕の強さが足りてなかったため。

 中層の番人相手に手こずっている時点で、上層へ行った時に通用しないのは火を見るより明らか。そのためもあって、レベリング目的で2ヶ月も過ごしていた、というのは確かにある。

 だが、メインの理由は別のところにある。

 僕達が中層に居る理由。


 それは……上層への階段には、鍵が掛かっていたからだ。


「中層の守護者はとても臆病。出来る限りは自分の力を使いたくない。だから、出てくるとすれば……中層の番人が全員倒されたその後」


 霧矢が、何かを察して物陰に隠れた。

 チリィン、と鈴の音が鳴った。

 僕とシオンがそちらを睨み、霧矢は語る。


「上層への鍵は、あいつが持ってるはずさ」


 そこに立っていたのは、和風な番人であった。

 天蓋のような深編竹を被り、黒を基調とした着流しを纏う。

 その腰には一振の刀が携えられていて、それが、今まで相手にしてきた番人とは一線を画すと、僕もシオンも理解した。



「あぁ……クソ、なんでこんなことに」



 聞こえた声は、存外に若いものだった。

 少年と言っても差し支えない若い声。

 それを前に、僕らは戦闘態勢へと入った。


「僕は……僕は、戦わない方がいいんだよ。みんな潰れてしまう。敵は死んで、味方は自信を全て喪失して、心が折れる。それが嫌で、僕は中層守護者になったって言うのに……」

「……また、キツいのが出てきたな」


 中二病の次は、自分は強すぎる系の主人公ですか。

 あー、あー、嫌になるね。とっても嫌になる。

 先に謝っとくけど、本気の悩みだったらごめんなさいね。


「なんですか。自分強すぎるアピール? 鏡用意してやろうか? さぞかし気持ちの悪いナルシストが映ってるだろうよ」

「僕と話した人は、みんなそう言ったよ。でも、最後まで立ってた人は一人もいなかった」


 そこまで言って、中層守護者に動きが見えた。

 といっても、それは僅かな所作だった。

 僕が見えたのは、彼が刀へと手を伸ばすまで。



 ――その直後には、僕の体は切り裂かれていた。



「…………は?」


 一瞬遅れて、体から鮮血が吹き上がる。

 肩口から、脇の下まで斜めの一閃。

 僕は咄嗟に傷口へとを手を当て、痛みに顔を顰める。

 そんな僕の姿を見て、シオンが激昂する。


「か、カイ……!? てめぇ……地獄行きの覚悟、出来てんだろうな!?」

「だ、大丈夫だ……! シオン落ち着け!」


 僕は咄嗟に彼女の服を引き、押しとどめた。


「見た目は派手だが……傷は浅いみたいだ」

「関係ねぇ! オレのカイに手ぇ出した、それだけでぶっ殺していい理由なんざ一部残らず全部埋まってんだろうがよ!」

「誰がいつお前のものになった……!」


 僕はそう言いながら、傷口をなぞる。

 既に、傷はふさがっていた。


「……へぇ、硬いね。どれだけやったら切れるだろうか?」

「切れねぇよ。そんな薄くて早いだけの攻撃……1万回食らったってピンピンしてらァ」


 僕の挑発に、中層守護者は刀へと手を伸ばす。

 僕は防御を固めて警戒し、シオンは歯を剥き出しにして唸っている。

 一触即発のムードが流れ、緊張感が溢れ出す。


 その場において、唐突に、後方から声がした。




「2人とも……! ()()()()()()()()()()!」




「「……ッ!?」」


 かつてなく、焦ったような霧矢の声。

 それを前に、迷うことはしなかった。


 即座にその場を離れ、緊急退避する僕ら二人。


 中層守護者は、困惑気味に僕らを眺めて。



 ――その脳天へと、天井を突き破って剣が落ちた。



 悲鳴はなかった。

 一瞬で中層守護者は肉片スプラッタ。

 あまりの光景に吐き気を催す。


 思わず口に手を当ててえずく中、シオンが僕の方へと駆けてくる。

 その顔は、青く染まっていた。


「おい、カイ! ……逃げるぞ。アレは……ダメだ!」

「……ッ、それは、同感だな……!」


 天井からは、巨大な剣が生えている。

 その大きさはみるみるうちに小さく……()()()()()戻ってゆき、それを見て、僕は嫌な予感を加速させていた。

 それは、中層守護者を一瞬で屠り散らした【化け物】に対してのモノではない。



 ――あの剣に、覚えがありすぎた為だ。



「【深淵剣デスパイア】」



 間違いない。この僕が見間違えるはずがない。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだから。


 ただでさえ手の付けられない解然の闇を、より一層にイカれた強さに高め上げていた最悪の武器。

 やばい、やばいやばいやばいやばい!

 誰があの武器を使っているにせよ……あの武器がある時点で勝機は皆無だ!


 僕とシオンは、霧矢を引っ張って逃げ出した。

 なんで、なんであの武器がこんな場所に……!

 僕の脳内が困惑に包まれる中、天井を突き破り、一人の男が姿を現す。


 それは正しく、冥府の王に相応しい様相だった。


「……悪いが、ここにいる皆、塵芥にしか見えなくてね。敵味方の区別もつかない。だから、先に謝っておく。味方が居たら諦めてくれ」


 頭のおかしい発言の後に、その存在は口にした。



「皆、初めまして。早速だが死んでくれ」



 霧矢から聞いていた。

 この世界を統べるもの。


 ――冥府の王、イミガンダ。


 紛うことなき【S級】の怪物が、そこには存在していた。



次回『シオン・ライアーの大切なもの』

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― 新着の感想 ―
[一言] 筆者(主人公)が死んだことで世界全体に修正が起きて代わりの真の『解然の闇』という立ち位置に成ったのがイミガンダなのか、或いはイミガンダ自身も黒歴史ノートを買ったうちの一人でそれにデスパイアを…
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