表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/170

012『征服の獣』

 ポンタ。

 犬のような、猫のような、狸のような謎生物。

 いつも、ぽよぽよ言ってるイメージしかない、小さな生き物。

 それが今、見上げるほどの巨体と相対していた。


「お、おまえ……!」

「御仁! 気持ちはわかるが……今はダメだ」


 阿久津さんが、ポンタから目を逸らさずに僕を引き止めた。

 僕は彼女へと視線を向けると、阿久津さんは、頬に冷や汗を流してこう言った。


「御仁が逸常である以上……あまり、災躯の力は見本にはならないと思うが……。それでも、この戦いは見ておくべきだと私は思う」

「……ほ、本気で言ってんのか!?」


 あのポンタだぞ!?

 僕は阿久津さんの正気を疑っ…………あぁ、そういえば最初から正気じゃなかったね。だってゴリゴリの中二病だもん。

 僕は歯噛みし、ポンタを見る。

 彼か彼女かは分からないけど、ヤツは後ろ足で立ち上がると、僕をふりかえってサムズアップした。


「安心するぽよ。ボクは、あの征服王イスカンダルの生まれ変わりぽよ」


 何言ってんだこいつ。


「何言ってんだこいつ」


 思っていたことが、そのまま声に出た。

 えっ、頭おかしいんじゃないの、あの謎生物。

 僕は可哀想なものを見る目でポンタを見ていると、隣から苦笑いした六紗が声をかけてきた。


「……まぁ、そこだけ聞けば馬鹿馬鹿しいわよね。でも、本気よ。正誤はどうあれ、ポンタは心の底からそう思ってる。常軌を逸する信じ込みと、それを可能にするだけの妄想力……つまりは想力が、あの子にはあるの」

「ポンタ、お前には失望したよ」


 この3人の中で唯一マトモなヤツかと思っていたけど、全然違ったよ。

 やべぇじゃん。中学二年生の僕にすら通じるところがあるよ。

 なに、前世が征服王イスカンダルって。

 もう、呆れて声も出ないよ。

 おいポンタ、お前だけは中二の僕を馬鹿に出来ないからな。


【GOOOOOO……】


「……! そういえば忘れてた!」


 そういえば、怪物に襲われている真っ最中だったんだ!

 僕が目を見開く中、ポンタの身体中から震えんばかりの想力が溢れ出す。

 それを前に、化け物は大きく右拳を振り上げて――。




「いざ征くぽよ【我、征服の獣なり(ロード・イスカンダル)】」




 ☆☆☆




 それは、劇的な光景だった。


 ポンタの体が光に包まれて、間もなく。

 化物の拳がポンタを直撃し、あわや肉片スプラッタ……かと思った、

 そんな僕の目の前で。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


【GOOO……!?】

「う、嘘だろ……!」


 僕と化け物、多分似たような意味合いのことを思ってたはずだ。

 そこに居たのは、美しい白髪を風になびかせる長身の存在。

 青っぽい民族衣装に身を包み、その身長は2メートルを超えるだろう。



「……この姿になるのは、随分と久しぶりだな」



 声自体は、変わっていない。

 ただ、声色は先程までとは一変していた。

 可愛らしい謎生物のものから。

 一転して、中性的な美しくも男らしい声に変わっている。

 風に髪が揺れて、その横顔が顕となる。


 その顔を見て、僕は不覚にも目を奪われた。

 男性かも女性かも判別のつかない、美の化身。

 それが、その場に立っていたから。


「ちょ、ちょっと待て! おいおいおい……あ、あれ、ポンタか! あのポンタなのか!? 僕にしょっちゅう投げ飛ばされてた……!」

「ポンタ? おいお前、今のボクは、征服王イスカンダルだぞ」


 ふと、ポンタ(仮)が話しかけてきた。

 えっ、征服王イスカンダル?

 お前、とうとう頭がおかしくなっちまったのか?

 とりあえず、現実を見よう。

 お前、現在進行形でとんでもない黒歴史生み出してんぞ。

 今に見てな。数年たってから振り返ると、『征服王イスカンダルの生まれ変わり』とか言ってた自分をぶん殴りたくなるから。これ、経験則だから。

 善意百パーセントで言うよ。やめとけって。

 頼むからやめとけ。やめてください。

 黒歴史に苦しんだ僕だからこそ、他人が黒歴史作ってるの見ると身の毛がよだつんだ。

 というか、お前ほんとにポンタ?

 僕が思考に溺れそうになっていると、六紗の声がした。


「ポンタの異能種別は【災躯】、名を【我、征服の獣なり(ロード・イスカンダル)】。自身の体を、自分の思い描く最強――征服王イスカンダルへと変化させるだけの異能よ」

「アイツ、異能使えたのか……」


 今更だけど。

 というか、え、なにそれ大丈夫なの?

 僕が【解然の闇】に変身する、みたいな話だろ?

 そんなのあり……って、アリだから異能なんて呼ばれてるわけだし。

 なにより、目の前の光景が如実に語っていた。



 ――本気(マジ)である、と。



【Gooooo……!】

「おいお前。まさかと思うが……今のが全力か?」


【GGGGGGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!】


 フルスイングの一撃を片手で止められた化け物。

 ヤツは激昂したように叫び声をあげると、ポンタ目掛けて阿久津さんにも見せた乱打を叩き込んでゆく。……だけどッ。



「……つ、強い……!」



 僕は、その姿を見て理解した。

 どちらが、より強いのかを。


 ポンタに、化け物の拳は一撃も入っていない。

 全ての攻撃が、あと皮膚一枚の場所を通り過ぎてゆく。

 危ない、もう少しで当たりそう。

 とは、不思議と思わなかった。


「おっ、とぉっ」


 最小限の動き。

 下手をすれば過小とまで思える回避。

 ――しかし当たらない。

 ポンタには、拳のひとつも掠らない。

 きっと、ポンタは見切っているのだろう。


 今、この瞬間。

 その場において、ポンタが完全な上位に立っていた。


「うん。全て把握した」


 その言葉が、切っ掛けとなった。

 先程まで回避に専念していたポンタが、一転して攻めに回る。

 化け物の拳に合わせて、奴の顎へと掌底を叩き込む。

 体勢が崩れながらも打ち込んできた拳を、真正面から砕く。

 骨が砕けて腕がへしゃげる。

 あまりの痛みに化け物でさえたたらを踏み、その瞬間を目掛けて横っ面へと回し蹴りを叩き込んだ。


 ……と、そこまでは見えたんだ。


 その先は、もう見えやしなかった。

 もはや、目にも追えない連打連打。鈍い音と共に化け物の体がひしゃげていく。鮮血が飛び散り、周囲の瓦礫が赤色に染ってゆく。

 やがて、ポンタはピタリと拳を止めると、僕らのいる場所まで戻ってきた。


「さて、並の志壁でも10回は死ぬだけ、攻撃を与えたつもりだったんだけど……」

「……それだけやって、まだ動くのか」


 僕の言葉に、阿久津さんと六紗が呻いた。

 そう、化け物はまだ、動いていた。

 生きているのが不思議なくらいなのに。

 それでも全身から蒸気を吹き上げ、回復している。


「なんなんだよ……災躯じゃ、なかったのかよ」


 災躯は、突き詰めれば身体を強化する力だろ。

 間違っても、あんな自己再生能力は無いはずだ。


「……あれは、おそらく異能じゃないな。異能以前に【基礎三形】と呼ばれる想力運用方法がある。……おそらく、あれは極限まで極められた三形のひとつ、『活性』なのだろう」

「か、活性って……せいぜい、擦り傷が治ったり、人より身体能力が上がる程度の能力じゃ……!」

「あぁ。優の言う通り。……あそこまで極められた自己活性。前世と含めて長らく生きてきたが……初めて見た【ぽよ】」


「…………ぽよ?」


 美しい声色で響いた、ポンタの口癖。

 驚いて見れば、奴は焦ったように口を押さえていた。


「……まずいな。久方過ぎてだいぶ体が鈍っているようだ。特に……制限時間がきついみたいだ……ぽよ。おいお前、そろそろ撤退のいい方法、思いついたんだろうな?」

「お、お前っ、こんな短時間しか変身できないのかよ……!」


 僕は叫んで、咄嗟に掴んで持ってきたバッグへと手を入れる。


「……まぁ、考えることは考えついたけど」


 これは、本当に……もう、極力使いたくなかった手なんだけど。

 まぁ、今回ばかりは割り切ろう。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 ポンタもなかなかどう来てチート極めてると思うが、相手はそれ以上だ。


 時間制限、今のところなし。

 回復制限、今のところなし。

 想力総量、尽きる気配なし。

 身体能力、ポンタと同格。


 純粋な戦闘能力で言えばポンタに軍配が上がる。

 だが……それを補って余りある戦闘継続能力。

 このまま戦えば、やがてポンタがゴリ押しされて負けるだろう。


 えっ、それなんてチートですか?

 いやー、10人の異能力者全員ぶっ潰すつもりだったんですけど、もしかして全員こんな感じの強さなんですか?

 だとしたら参ったね。勝てる気がしないや。


「少なくとも、今は」


 逃げるが勝ちとも言うわけだし。

 さて、名前も知らない化け物一号。

 もうちょい待ってろ。

 今に、僕もその【域】に達して。

 正々堂々、真正面からノートを奪い取ってやる!


 僕は零巻を取りだし、ぺージを開く。

 第11の黒歴史ノートに、驚いたように目を見開く彼女らを無視し。

 聞き覚えのある単語が、僕らの間に響き渡った。



【使用者を確認。これより試練を開始します】



 僕らの姿は、一瞬でその場から掻き消える。


 さようなら、名も知らぬ化け物。

 そして、こんにちは。忌々しい深淵。

 ……まさか、こんなに早く戻ってくるとは思わなかったけど、な。


「こ、ここは、一体――」


 阿久津さんが、周囲を見渡して目を見開く中。

 僕は、零巻を閉じて決意した。


「阿久津さん、ボーナスタイムだ」


 ここにいる間、外の時間は止まっている。

 その間に、あの化け物を返り討ちにできるだけの()()()()()()()

 ポンタは消耗を避けるように元へと戻り。

 驚いたように僕を振り返った阿久津さんへ、僕は言った。



「ここで、逸常の異能を身につける。力を貸してくれ」




次回『芽生え』


現時点において戦力外もいい所な主人公。

そろそろ、覚醒とまでは行かずとも、発芽して欲しいものです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 昨日は感想書いた後でショックの余りに少しぼーっとなってましたが、ふと頭にはポンタの影響でか大○法峠のマスコットキャラ(?)であるパヤたんを思い出したおかげで比較的短時間で復調出来ましたぜぇ……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ