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011『襲撃』

 逸常の異能。

 歴史上、1人しか目覚めなかったとされる力。

 あまり多くのことが現代まで伝わっておらず、ほぼ全てが謎に包まれていると言っても過言ではない。

 と、そんな雰囲気でとらえていたのだが、どうやら僕の想定は正しかったようだ。さっすが妄想力の化身だね!


「その想力量……どのような種別であろうと大成することは間違いないと思っていたが……まさか、よりにもよって――」

「いっちばん、分からないやつじゃないのよ!」


 六紗が叫び、机を叩いた。


「ちょっとアンタ! なんか、こう……思い出せないわけ!? 逸常の異能とか、ぶっちゃけヤバいわよ! 正直教えられることがもう既に分からないんだけど!」

「そう言われたってなぁ……」


 僕の力……ねぇ。

 僕=解然の闇という捉え方でいいなら、分かるんだよ?

 奴は偶然というか必然というか、7つの能力を持っていた。

 ちょうど、7種類の【異能種別】と同じだ、


 一つ、人外へと姿を変えて身体能力を上げる力。


 一つ、周囲のもの全てを捩じ切る力。


 一つ、攻撃を受ける度にエナジードレインする力。


 一つ、配下全てを強化させ、指揮する力。


 一つ、手で触れたもの全てを即死、崩壊させる力。


 一つ、望む場所に瞬間移動できる力。


 一つ、(ことわり)を略奪する力。


 以上、7つ。

 こうしてみると、弱点はありそうなんだけどなぁ。

 特に、回復能力が無い点とか。

 だが、それを補ってあまりある7つのチート。

 特に7つ目。これはやばい。

 中二病の好きな単語、第1位が【漆黒】、第2位が【偽善】、3位が【理】といっても過言ではないだろう。この7つ目の能力は、その概念を奪う能力だ。


 ちなみに、たぶんこの第1位と第2位は硬い。

 殿堂入りだよ殿堂入り。

 とりあえず中二病には漆黒と偽善の2つの単語を連呼していればいいと思う。きっと中二病はとても喜ぶ。そんな確信がある。


「……理を奪う力」

「……! ご、御仁、今なんと……?」


 試しに口に出してみたら、やっぱり阿久津さんが引っかかった。

 ほらご覧。これが中二病だよ。

 理とか偽善とか漆黒のー、とか言ってたら食いつくんだ。

 もしも『こいつ中二病なんじゃ……』とか迷った時は試してみよう。それっぽい単語を発して反応したら、きっとそいつは中二病だ!


「……いや。気のせいだったかもしれないけど。なんとなく、強奪系の能力を使っていた……気も、しなくもない。ごめん、あまり自信はないんだけど」

「なるほど……強奪か。古今東西、最強の能力は? と聞かれれば【時間停止】【強奪】【即死】と相場は決まっているからな……」


 うん、すごいわかるー。

 中二の僕も、その三つの能力ですごく悩んでいたもの。

 とっても悩んで、悩んで悩んで。

 その果てに【能力発動されるより先に能力自体を奪っちゃえばいいんじゃね?】という真理に達した。その上で設定されたのが、解然の闇の【概念を奪う能力】である。


 まぁ、詳しくは説明しても無駄だと思うし、というか大前提として自分の黒歴史を詳しく説明する気もないため、割愛させてもらう。


「まぁ、何はともあれ、それ以外の――」


 僕は、なんとなしに口を開いて。




 ――次の瞬間、ぞわりと、背筋に寒気が走った。




 ☆☆☆




「――ッ!?」


 僕は目を見開いて立ち上がる。

 だが、その時点で既に二人は戦闘態勢に入っていた。


「【臨界天魔眼】ッ!」


 六紗が僕を背中に庇い。

 阿久津さんが、瞳を金色に変えて魔法陣を展開する。

 その、直後の事だった。



【GOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!】



 巨大な化け物が、僕の家を粉砕し、阿久津さんの眼前へと現れた。

 赤黒い肉体に、3mを超える巨躯。

 妄言使いの使っていたオーガとは、また別種。

 どころか、あの化け物が赤子に見えるほどの、恐怖。

 その光景に、僕は咄嗟に声も出ず、ただ、目を見開くことしか出来なかった。


「……!? な、なんっ――」


 六紗が、大きく目を見開いて。

 次の瞬間、凄まじい衝撃が突き抜けた。

 目を見開けば、化け物の拳が阿久津さんの魔法陣へと叩きつけられている。

 あまりの一撃に、六紗も驚きを隠せない。


 ……だが、阿久津さんは余裕を崩してはいなかった。


 受けたダメージが、そのまま衝撃となって弾き返る。

 彼女の臨界天魔眼の能力は、反射の力。

 化け物の拳から鮮血が溢れ出す。

 肉が潰れて骨が碎ける。

 誰もが、化け物の絶叫を疑わなかった。


 ――しかし、現実は想定の更に上を行った。


【GoaAAAAAAAAAAAA!!】


 化け物は、壊れた拳で、さらに魔法陣を殴りつけた。

 その一撃は、たったそれだけで高層ビルが粉砕するようなものだ。

 下手にレベルを上げたから、理解ができる。

 その一撃が目にも追えなくたって。

 目の前で起きているのが、僕よりもはるか上に佇む二人による【天上の戦い】だってのは、痛いくらいに理解ができる。


 化け物は自分の怪我など気にした様子も見せず、自傷もはばからずに連打連打を叩き込んでくる。

 その度に肉がひしゃげる嫌な音。

 阿久津さんは顔を顰め、両の瞳を輝かせる。


 壊れながら壊そうとする化け物と。

 守りながら壊そうとする阿久津さん。



 二人の攻防は……あまりにも呆気なく、決着した。



「いい加減……諦めろ化け物!」


 阿久津さんの一喝。

 金色が眩いくらいに光り輝き、叩きつけられた衝撃が何十倍にも変わって、化け物の体を吹っ飛ばした。

 僕がその光景に驚くより先に、阿久津さんと六紗は僕を抱えて上空へと飛んだ。


 上空からは、戦闘跡地がよく見える。

 僕は、僕の家のあった場所を見て、戦慄せずには居られなかった。



「秘匿する気……ゼロかよ」



 それは、諦めに近い感情だった。

 僕の家を中心に、化け物の【拳の圧】だけで吹き飛ばされた周囲一帯。

 阿久津さんの反射により、化け物は遠方にまで吹き飛ばされている。

 吹き飛ばされた経路が、住宅街の破壊という形で目に見えている。

 その先へと視線を向ければ、はるか遠く、住宅の瓦礫に埋もれてピクリとも動かない化け物の姿があった。


「ちょっと! なんなのよ悪魔王! あんなの見た事ないわよ!?」

「……ああいった化け物が、何でもかんでも私関連と決めつけるな勇者。私とて……あのような存在は初めて見たさ。おそらく、()()()()()()()()()だ」

「……!?」


 阿久津さんの言葉に、僕は目を見開いた。


「う、嘘だろ……あれが人間かよ!?」

「十中八九、【災躯】タイプの異能ぽよ。正直、あそこまで強いのは完全にイレギュラー。だけど。ありえなくはないぽよ。なんせ、災躯は異能の中で1番の肉体性能を誇る部類ぽよからな」


 六紗の肩に捕まっていたポンタが言った。

 その言葉に、僕は自分の影狼技能を思い出す。

 なるほど……威力も性能も桁外れだが、僕の力の延長線上にある能力なのか。僕の影狼も鍛えまくれば、いつかあんなふうに……って。


「おいおいおい……! あの化け物立ち上がってるぞ!」

「「……っ!?」」


 僕の言葉に、二人は背後を振り返る。

 遠方で、化け物は立っていた。

 瓦礫の山から脱出し、僕らを見据えていた。

 この距離、いくら災躯でも詰められるわけが無い。

 僕は咄嗟にそう思ったわけだが、二人の考えは違ったようだ。


「来るぞ……ッ!」


 阿久津さんが、叫んだ直後。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()


「は、はや――っ」


 僕が口を開いて、阿久津さんが障壁を張る。

 あまりの速さにも驚いたが、阿久津さんがその速さに完璧に対応したことにも、僕は驚いた。

 だけど、それ以上に。


 ――その対応を、いとも容易く【上回った】化け物に驚いた。


 化け物は、その場で空を蹴った。

 そのあとはもう、目にも追えなかった。

 多分、空を蹴って移動したってヤツなんだろうけど。

 気がつけば化け物は背後にまで移動していて。

 振り返った先で見たのは、かかと落としを振り落とす体勢の化け物だった。


「う、そ――だろッ」


 阿久津さんが焦ったように振り返る。

 しかし、化け物の攻撃の方が早かった。

 化け物の一撃は、寸分たがわず僕の鼻先へと落ちてきて――。



 ――次の瞬間、僕らは遠く離れた場所に立っていた。


「……!? こ、これは……」

「はぁっ、はぁ、ッ、逃げるわよ! 何度も使える力じゃないんだから!」


 振り返れば、六紗が身体中から汗を吹き出していた。

 そういえば、彼女の力は【界刻】。

 瞬間移動、あるいは時間停止。ないしはそれに類する力のはずだ。

 彼女の様子を見るに、あまり多用できる力でもないようだが……。


「くっそ……! もうこっちに気づかれてるわね!」


 六紗が叫んだ、次の瞬間。

 上空から、筋肉の塊が落ちてくる。

 真っ赤な瞳に、赤黒い肉体。

 かろうじて人の形を保っているものの、肥大化した筋肉は【醜悪】と呼ばれる寸前だ。怪我をしたはずの両腕は蒸気を上げて回復しており……これだけの身体能力に、回復能力。もはや打つ手が見当たらない。


「どう、すれば……ッ」


 阿久津さんと、六紗が僕の前へと出る。

 考えろ……考えろ!

 どうすりゃいい!

 確かに2人は強いけど、この化け物は規格外だ!

 一体、どうすればこの場を切り抜けて――。


 僕は、必死に頭を回転させる。

 されど、焦りのあまり、まともに頭も働かない。

 この状況を打開できる手段が、浮かんでこない。

 僕は、更に焦る。

 身体中から脂汗が吹き出してきて。


 そして僕は、六紗が笑っていることに気がついた。



「――どうかしら。この状況、アンタはお気に入りだと思うけれど」



 最初、彼女が誰にそう言っているのか、分からなかった。

 だけど、すぐに分かった。

 今まで近くにいた、小さな生物から。

 溢れんばかりの【威圧感】が、溢れ出していたから。


「そうぽよな。まぁ、暇つぶしくらいにはなりそうぽよ」


 ぽよぽよと、いつも通りの変な口調をした、その生き物。

 彼か彼女かも分からない謎生物は、化け物の前へと進みでる。

 それを見た阿久津さんは、疲れたように肩を落として。

 化け物は、目の前の小さな生き物へと、ここにいる誰に対するよりも大きな警戒を向けていた。


【GOAAAA……!】

「あら、野生の勘ってやつかしら」


 六紗が笑う。

 本当は、私たちだけで何とかしたかったんだけど。

 そう、悲しそうに呟いた彼女は、信じられないことを口にした。



「私たちの中でいちばん強いのは、ポンタなのよ」



 ……………………嘘だぁ。

《現時点の強さランキング》

1位『化け物』

能力[???]【不明】

2位『阿久津さん』

能力[臨界天魔眼]【志壁】

3位『妄言使い』

能力[???]【久理】

4位『六紗』

能力[???]【界刻】

5位『主人公』

能力[なし]【逸常】


??『ポンタ』

能力[我、征服の獣なり(ロード・イスカンダル)]【災躯】



次回『征服の獣』

下の☆ボタンを押してくださったら、☆の数だけ頑張ります。

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― 新着の感想 ―
[一言] ええ…ポンタ、お前クソ強そうじゃん…
[一言] ……ふぉあ?え、は??(素) ちょ、ちょっとそれはどゆことなん?確かに何か口調が単なるマスコットキャラにしては変なトコあんなーって思ったけど、『私たちの中でいちばん強いのは、ポンタ』て…………
[気になる点] バリアってどんな感じに展開されてるんですか? 前に説明あったらすみません
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