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あれが私の道標  作者: ぶくっと醤油
9/9

9.昔とこれから

その後、森の中でイチャイチャしていた侯爵兄妹を罠でいたぶり戦意喪失してしまった2人を置いてメルツェルと一緒に勝利宣言をした

あくまで実戦形式、勝利条件も1人になるまで生き残れのデスマッチじゃないから最後に協力関係にあるような事をすれば2人でも3人でも、全員でも勝利扱いになる

その後は授業がないからすっかり自由時間、寮に戻ったり遊びに出たり家に帰ったり自主勉したりと自由自由

そんな私はメルツェルと寮の相部屋で魔法について語り合っていた

固有スキルの合わせ技に魔法の合体技、果ては魔法技術の応用まで

こうしてると昔を思い出す、まだ村にいた頃






「お姉ちゃん、水魔法ってどうすれば強くなるかな?」

「水はとても小さな物体が集まった姿で私達はその小さな物達を大雑把に操作しているだけなの、だから水の中にある小さい物を操作できればもっと強くなれるよ」


お姉ちゃん、孤児院にいたシスターは魔法について何でも教えてくれた

シスターになる前は冒険者として世界を周っていたらしい

冒険者、村人、商人、盗賊、料理人、騎士、魔法士、魔術士、いろんな人と出会った

いろんな魔物と戦った、ドラゴンや最高ランクの魔物とも戦ったらしい

とある遺跡で凄い宝物を見つけたらしい

仲間の冒険者達を率いて大規模な魔物の群れと戦い国を救ったらしい

全ては話でしか聞いてないから本当かは分からないけど彼女にはそれを成せるだけの力があったのは確かだった

彼女は私にあらゆる技と知恵を授けてくれた

それは師が弟子に与えるように、武器、魔法、戦術、雑学と様々

彼女が編み出した我流の技を教えてくれた、魔法の応用から実験中の内容も教えてくれた

戦い方を学び、窮地に陥った時の対策や心得を学び

彼女の知る全てを学び免許皆伝を言い渡された時には村一番の実力者となっていた

狩りで学んだ事を実践して

空いた時に少し研究をして

夕食の前に手合わせをして

寝る前に魔法を語り合って

教わる事は全て教わったはずなのに、数日すれば新しい発見をするお姉ちゃんは、私の憧れだ

だから、村を出る時は寂しかった

また戻れるのに、それでも寂しかった

だけど、お祝いにくれた槍と剣に勇気を貰い、寂しくとも前に進めた

鮮血のように鮮やかな赤い槍と身のない柄だけの無形の剣

冒険者だった頃愛用していた二振りらしい

血の繋がりのないけれど、親愛なる姉兼敬愛なる師から確かな信頼を得ていたと知って、嬉しかった






今もベッドの横に立て掛けてある布に包まれた槍と枕の横にある柄を見てちょっとにやけてしまう


「...ゼロ...聞いてる...?」

「うん、もちのろん」


いけない、今はメルツェルと魔法について語り合っていたんだ

いくら村にいた時が懐かしくてもメルツェルの話は聞くべきだ


「...光魔法って...どういう魔法...なのかな...想像が...出来ない...」


光魔法は文字通り光を扱う魔法だ

闇魔法と同じく特殊性を持つ魔法で他の魔法と比べ高い能力があって同じ初級魔法と言えど中級魔法並の威力があり戦闘において高い優位性がある

だけど闇と同じく他の属性と違い制御するには高度な魔力操作と魔法を発動可能なまでに構築する元となる緻密な設計図、空白のない細かいイメージが必要となる

例えば火魔法なら火種と炎をイメージするだけで簡単に魔法を構築できる

それに比べ光魔法は光という見えても元がなんなのか分からない物だ、それを攻撃、防御に扱うなど想像もつかないだろう

過去の勇者の1人が扱えたらしいが詳しい事は分からず、噂が流れ勇者しか扱えないとまで言われている

そのため誰も扱えず、光魔法は不遇な魔法となり才能を持つ物は偽勇者なんて呼ばれる事もあるのだとか

幸いメルツェルは【聖女】なので偽勇者と呼ばれる事はなくむしろいい方向に捉えられるだろう

だがいつ誰がメルツェルにイチャモン付けるかは分からない、だから教える

お姉ちゃん曰く、エネルギーの1種だという

エネルギーと言っても誰にも理解出来ないだろう、お姉ちゃんの言う科学はこの世界には概念すらない

魔法のおかげ、神様のおかげ、それで完結しているのだから

エネルギーの事を伝えればメルツェルも光を扱えるようになるだろう、だけどそれには少々時間が必要だ

ま、学園生活は始まったばかり、時間はたっぷりあるさ






・・・カールス・・・

急遽親父から呼び出しをくらい王城に出向いていた

王族が住まう城、と言ってもそこまで豪華絢爛な訳では無い

軍もここで働き詰めなため比較的邪魔が少なく建材が高そうな物だと言う以外実用性を重視した武骨な造りが多い

ただし例外がある、王が座す場所、謁見の間だ

金と銀の天井と天井を映す程傷のない大理石の床、明らかに高いだろう絨毯、金の縁にふかふかのクッションを入れた玉座、王には財があると言わんばかりに金をかけた謁見の間には25人の男女と30人の騎士が居る

五大公爵家、三鎧公爵家、魔法士、魔術士、国王、俺

謁見の間の中心には巨大な魔術陣が展開されていた

過去の勇者が残した聖遺物と同じ物を持つ者を召喚するために数十年かけて作成された魔術陣

そこに10人の魔法士が魔力を注ぎ陣を起動する

陣が起動した光を見ながらそっと思考する

理論としては完成している

聖遺物「えろほん」というなんというかそういう事のための本だろうなと思う物を触媒に陣に組み込んだ転移陣にて「えろほん」を転移の門として設定、魔素により勇者の故郷にある同じ「えろほん」を持つ者を召喚するという

なんと言うか、確かに理論上は可能だ、遺跡を巡り入手した過去の遺物から辛うじて得た伝説上の次元魔法を組み込んでいるのだから世界を渡ることも出来るかもしれない

同じ物を持つ存在を召喚するという事からもランダムだが入口が生成されるのは確かだ

だが、言わせてもらおう

ーーーこんな卑猥な本を持つ者なぞまともなのか!?

悲観はしない、学園で【賢者】【聖女】と出会った、なら突然この儀式を行うと言い出した親父は因果によってそう言ったのだとも思う

予感だがこの召喚は成功する、因果からは逃れられない、何故なら因果により成功は保証されている

ただ...召喚された者は不幸だろう、突然こんな世界に召喚させられるなんて、しかもあの本と同じ物を持っていると知られている状態で

男ならばこの場にいる女貴族から軽蔑されるぐらいで済むだろう、充分哀れだが

しかし...ないと思いたいが女だった場合は...尊厳なんてその場でズタボロ、即刻同性愛者疑惑浮上案件だ、男は...中にはそういうのを好む奴もいるが同じ女からどういう目で見られるか...

だからこれから召喚される者へ、因果に抗えない力なき俺達を、許してくれ...すまない!






『残照の〜♪』


狭く薄暗い部屋、静かな部屋に響く歌、窓から差し込む西日が唯一の光源

そんな部屋の隅に寄り添うようにして集まる3人の影


「デュフフ、兄者から借り受けた我らが聖書、如何ですかな?」

「ヌフフ...いい趣味してますなぁぐっちゃん殿」

「えっと...バレないようにね...?」


小太りの男が持つ本を見て怪しい笑みを浮かべる女とそれを諌める?男

ダンボールが積み重なっている中で済に寄り本を読む3人は見るからに怪しい...

現代日本の闇が、今そこに、存在している!


「軍平も暁良ちゃんも程々にしてよ...?」

「勿論ですとも光灯殿、拙者も公の場で晒すような愚か者ではありませんからな」

「そうですとも、ただでさえ立場の無い我らもこれ以上の醜態は晒せませんからな」


俺は中村 光灯(なかむら ありあ)、光る灯と書いて「ありあ」と読む、男らしくないね

そこの本を持った小太りの男は幼馴染の足軽 軍平(あしがる ぐんぺい)、先祖が戦国武将に仕えていた兵の一族だと言う、足軽っていう苗字から位は最低だと思うけど

そしてこの中で場違いな女の子の智恵 暁良(ともえ あきら)、軍平と入学初日から意気投合し流れで仲良くなった唯一の女の子

何処にでもいる...かは分からないけど平凡な3人組だ

そして今は部活中、ん?サボってるだろって?いやいや、これが部活なんだよ

その名も読書部、いろんな本を読んで知識を付けましょうという部活だ

俺達が厳選した本を並べてるので質でいえば校内の図書室よりも上、たまに教員が利用することもある

壁に並んだ本棚には専門書から辞典、教科書、伝記、漫画、ラノベ、薄い本、etc...種類豊富

だが部室の陰険さから近寄ってくる生徒はおらず、たまに来てもチャラい生徒だけで難しい本より薄い本やラノベに目が行くのかオタクオタクと五月蝿いったらありゃしない、そもそもグッズは集めてないからまだオタクじゃない!

まあそんな訳でこの部員3人は生徒間ではオタク3人組と罵られて立場がない

と見せかけて教員間での立場はかなりにある

なんせここには専門書がズラっと並べてあるのだ、嫌でも知識が付かない訳が無い

そのためテストでは3人とも毎月トップ10に入るからこんな部活でも存続が許されているしそれなりの部費を頂いている


「ヌッフッフ、では我からも先日入手した逸品を見せてあげよう...我が祖母が先祖より受け継ぎし本、魔導書であるぞ」

「ッヌ!?魔導書ですと...これは厨二病の血が騒ぎますぞ!」

「た...確かに...」


俺達はそう...所謂厨二病患者、高校2年になってなお厨二病を引き摺る重症者だ

治っていない原因としては厨二病3人が半ば密室の中で日頃から悪化させているから...かな


「ぐっちゃん殿の人の営みを促す聖典も素晴らしいがこちらも素晴らしいぞ...?」

「勿論閲覧しますとも!魔導書と聞いて滾らなければ男が廃る!」

「お...俺も見る...」


軍平が持つエロ本と比べ分厚く所々禿げた表紙に日焼けしたのか変色している紙が年季を感じさせる

これほど変化した本は初めて見た、魔導書と聞いて信じてみたくもなる


「「「おお...!」」」


表紙を開けば丁寧に目次のような物があった、変色していて読みにくいが英語みたいだ

訳すことは出来るが如何せん濃く変色しているからかなり時間がかかるだろう

流し読みしていくとアニメでよく見る魔法陣みたいな物があった、大きな円の中によく分からない文字や幾何学的図形が所狭しと並んでいる

これが世に聞く魔術なのか...本物だとしたら凄いぞ...


「凄い情報量だったねこれ...」

「う...うむ...そうでしたな」

「所々面白そうな事が書いてあったね」


3人揃って分厚い表紙を見て頷く、流し読みだけでも満足なのだ暁良ちゃんの口調が戻るくらいには


「入るぞー、ってーまた隅っこに固まって読んでるのか...」

「あ、先生」

「もう5時だ5時だ、下校時間だぞ?さっさと帰れよ〜」


そっか、もう下校時間なのか

窓の外を見れば明るい西日だったのが夕焼けに変わっていた、もう秋も終わりに近いから夕焼けを見るのも後何回か...


「帰るか」

「そだね、そうだ、専門書いくつか借りるね」

「何を読むの?」

「ふっふっふ、妹が薬学部のある学校に行きたいみたいだから薬学と医学、私用に熱力学と設計」


あれ?妹いたんだ...


「確か暁良殿の志望は設計士でしたな、とすれば熱力学は何故?」

「なんとなく」

「なんとなく...」


そう、この部屋はなんでもござれ、専門書は数学、化学、医学、薬学、熱力学、電気学、哲学となんでもござれ、知識の宝箱だ

現代科学に適応する為に必要なことは何でも分かる、就職に必要なことも何でも分かる

だからこの部屋は、学園八不思議の1つ、別名知識怪物の巣窟と呼ばれている

この学校だけの、不思議とは言い難い不思議だ

...ん?


「む?この揺れ...なんでしょう?」

「地震かな」


確かに小さいが揺れている、にしては変だ、ずっと同じ大きさの揺れは地震ではありえない


「うわ!?なんだ!」

「こ...これって...」

「まさか...まさかですな!?」


突如部屋の床に描かれていく謎の円

中心に向かってさっきの魔導書で見たような幾何学模様が刻まれていく

そして中心には大きな三角形、それが大きく発光する

なんか異世界物のラノベで見たぞこんな光景!?


「間違いないですぞ!これは異世か...


軍平の言葉を最後まで聞くことも無く、視界が黒く染

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