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あれが私の道標  作者: ぶくっと醤油
7/9

7.よく分からない王女

固有術式、それは決してステータスに載る事のない個人の技

魔力の質によって決まるのが固有スキルであるなら固有術式は個人を形成する本質群の現れ

固有スキルと同じく千差万別であるが性能で言えば固有スキルの何倍ものスペックだ

性格、価値観、経験、思想、願望、あらゆる個人を作る意志が生み出すその人間の本質が固有術式


猛進的に善に固執する者には裁きの力を


悪に染まり堕ちた者には扇動の力を


鋼の心で意志を抱く者には守護の力を


心を無くした絶望者には破壊の力を


一人一人の個性を表した力は正に己の魂その物であり決して他人に発現することの無い自身の象徴

そしてそれには得手不得手がある

攻撃は当然、防御、速度、予知、創造、制御、洗脳、改造、数多の固有術式が存在し自身に合う固有術式が誕生、または発現するのだ

私の固有術式の種類は察知、他人の感情の変化や考えを瞳の色として視覚出来る固有術式

正確性には欠けるが不確定要素が交じる分相手から警戒されにくい固有術式だ

そしてこの固有術式が読み取ったライラス王女の瞳に映る感情

すっかり桃色に染まっている瞳は私とメルツェルを交互に見てはまた濃く深く桃色に染める

見つめられた瞬間に感じる悪寒は欲望に忠実な狼達に狙われた時に感じたものと一緒

私がメルツェルに感じる物より根暗く、粘質で欲望だらけのこの視線は間違いない...

この王女...


ーーー幼い顔して野郎(女好き)だ!


瞳に他の感情が映らないほど深い深度まで感情が堕ちているとなるとそれはもう感情でも性格でもない


ーーー心だ


これを偽りだと言うのならこの王女はとんだ化け物だ

ここまで深い感情を偽れるとは到底思えない

けれど油断は禁物、私の固有術式といえど欺ける物はある

それは勿論同じ固有術式、外交官だけでなく貴族や商人では他人を欺く固有術式を有する者は沢山いる

心を読む固有術式、逆に心を閉ざし読ませない固有術式、心を入れ替える固有術式、心を変質させる固有術式などなど

この国の貴族や大手商会会頭などの偉い人にはほぼ全員心に関する固有術式が備わっているらしい

かく言う現国王もその1人、メルツェル曰く心を読む固有術式だそうだ

そんな国王すら欺き、さらには言葉が武器である外交官のトップだとすれば固有術式も相当強力なはず

まったくもって油断できない


「ふふ、そんなに頬を引き攣らせてどうなされたのですか?ゼロライト様」

「い、いえ!何でもない...です...」


ダメだ、表情を変えれば瞬く間に見抜かれる、付け込まれる隙を作ってしまう

相対するは王女だが今は敵、そう...私の今後を脅かす敵だ

村にいた頃の獣被害で森中の害獣達を狩り尽くしてしまった時を思い出せ、あの時私はどうだった?

早く休みたいという欲望に従い心を無に、されど冷静に冷酷に獣の首を、手足を刈り取った時の表情を模倣しろ


「...ゼロ、ちょっと怖いよ?」

「あらら、逆鱗に触れてしまったのかしら...」


そうではない...けれど用心するに越したことはない

備えあれど憂いなし、こうすれば「騎士団にスカウトするために来たのではありませんよ?」.....ダメだ、見抜かれた!?


「なら何故平民である私にお話を?」

「そうね...メルツェルが貴女とは楽しそうにお話していたからどんな人なのか気になったという所ね」

「お、王女殿下...」


どうやらメルツェルは昔から人と会話が苦手で家族とすらあまり会話をしないらしい

気が弱くコミュ障という事がいつの間にか知れ渡り家族や使用人からはそれを肴に可愛がられたがメルツェル本人の会話能力が向上する事は一向にないとの事

月日は流れ社交界デビューすることになったメルツェルは初めて出会ったライラス王女に話しかけられると何故かスラスラと言葉が出たそうだ

他の王族とも同様に長年の友人かのように言葉が出てくるわ出てくるわ

しっかり喋れていることに驚きながらも楽しそうに会話しているメルツェルなのだが王族以外となると持ち前のコミュ障が発現したどたどしくなる

以降も不満気な会話しかしていなかったメルツェルがたどたどしい口調で話しているのに楽しそうなのが気になりメルツェルの信頼を得ている私がどんな人物なのか気になったそう...以上、王女談


「い、言わないでくださいよ王女殿下ぁ...」

「あ、あれ、言ってなかったの?そう...ごめんなさいね」


既にメルツェルの両親から知らされているとも知らずに過去の自分の様子をなんの躊躇いもなくぶっちゃけたライラス王女の胸をぽかぽか叩き始めるメルツェル

女の子としては少々背が高く、その顔付きからカッコイイと呼ばれそうな感じだが今の状況では何をどうしても可愛いと呼んでしまいそうなぐらい愛くるしい

ほら見ろ、その証拠にこの言葉の魔王の瞳には真っピンクのハートマークが映っている

とは言え警戒の余り狭量になっていたのは間違いない


「そ...そういう事だったんですね...」

「ごめんなさい、【賢者】狙いだと思われたのなら謝罪するわ」

「もう謝ってますよ、王女殿下」


しかしこれでさっきの自己紹介の時に目を輝かせていた理由が分かった

程度は違えど...いや、程度と呼べる程小さな差ではないけど私とライラス王女は同士なのだ

さっきまで警戒心しか湧いてこなかったはずなのに今では親近感ばかり湧いてくる

おのれライラス・ラクス・レンブルス...!

これが策だというのなら、とんだヤベー奴だな!!






魔法、それは世の神秘である

いやね、突然何言ってるか分かんないだろうけどそうなのよ

魔術の原点であり世界の根幹から生まれる魔法はこの世の事象そのもの

だからこれは神秘なのである、誰がなんと言おうと神秘なのである!!!


「おいゼロライト、何一人で頷いてんだ気持ち悪ぃぞ」

「あ、すんません」


反射的に謝ってしまった

この公爵先生に何か言われる度にビクッってしてしまうのに加え謝るのもセットになってしまっている

それはそうとちょっとした軽食を済ませてからやってきたここは演習場

広大な敷地を誇る学院の3分の1を丸ごと使用した各フィールドからなる訓練場だ

草原、森、岩場、山、海岸の5つのフィールドが存在するこの演習場は人の手が加えられ自然の物より脅威の少なすぎる物になっているが自然に囲まれた状態で訓練出来るのはありがたい

この魔法の授業は武器も使った対人や獣との実戦形式の授業

広大な演習場全体を丸ごと扱うため授業時間も2時間分設定されているのだ


「この授業は演習場全体で戦闘を行うため2時間分あるぞ、だから食事の持ち込みが許可されている、お前達には学院からの入口にある転移陣で1人ずつランダムに演習場内に散らばって各々遭遇戦をしてもらうからな、気を引き締めていけ」


そう、この授業は先生自らが魔法を教えるのではなく自身の知識と技術を総動員し演習場内を駆け巡ることで遭遇するクラスメイト達と戦闘を行う授業なのだ!

結託するもよし、裏切るもよし、横槍もよし、スルーもよし、ぼっちよし、やさしいせかいよしといろんな戦法を駆使する必要がある


「お前達の行動はこっちで見てるからなんかあっても安心して気絶しな、敷地内なら好きな場所に転移出来るしな...やばい攻撃もさっき渡した魔道具とかそこらじゅうに散らばってる魔道具が対処してくれるから安心して上級魔法ぶっぱしたりされたりしろよ、死なねぇのは俺が体張って実証済みだ、てなわけで準備出来たらじゃんじゃん転移陣から飛んでくれ」


説明は大雑把だが理解できるから問題ないが最後の体張ってが不穏だ、先生はなんてことやってたんだ...?




まぁそれはそれとして

平民が先に武器を取るとあーだこーだ言われそうだから公爵家の面々が先に取るまで待つ

侯爵兄妹は盾と杖、公爵家面々は杖一択、カールス王子は長剣でライラス王女が何故か鎖鎌

メルツェルは剣二本を持って転移陣から飛んで行った

必然的に最後になった私は迷わず槍、剣、弓を取る


「おいおいゼロライト、いくらなんでも3つは持ちすぎじゃないか?」

「村にいた頃はこれが普通だったので問題ないですよ」

「そうか...」


凡そ理解出来ないと顔を顰める先生

けれどこの装備で日々を生きてきたのだから仕方ないでしょう

背中に弓、腰に矢衾、太ももに剣で右手に槍を持って転移陣から演習場に飛ぶ

一瞬の発光の後、目の前に広がるのは一面の海、海、砂浜!!

遅れて塩の匂いが鼻にくる


『全員配置に着いたな?んじゃ手短に、戦闘開始!』


拡声用の魔術道具により飛んでくる開始の合図と共に後ろの崖の上にある森の方から爆煙と共に鳥達が飛び立つ

血の気の多いこった、私も移動しよう

太腿の剣はブロードソードと違い片刃で細身の剣、刀だから動きにそこまで支障はない

崖を6歳の頃から鍛えた自慢の脚力と身体強化の魔法で駆け上がる

平民が貴族に森で負けるなんて無様は晒さない、森は庭なのだから

気を鎮め森の様子と同調させ気配を薄く、魔力を薄く、広く伸ばし地形を把握

後は今まで通り、死角から極限まで相手に接近し必殺の一撃を加えるだけ

これは戦いじゃない、狩りだ






森はいい、静かで、心地よくて、命に溢れている

けれどこの森は意図的に生物を追い出すことで言うほど命に溢れていない

だがそのおかげで獲物を探すのは楽だ、なんせ不純物を探ればいいだけだから

人は自然にとっての不純物だ、生態系からはみ出た自然に溶け込めない種族

自然に入るだけで周囲に大きな影響を与える

森の中で不自然に気配が乱れている場所、その中心には必ず敵がいる

森と同調し景色に溶け込みながら静かに、焦らず、速く、突き進む

木々の枝から枝に飛び移り続けてようやく見えた獲物の姿

枝から幹に飛び移り三角飛びの要領で幹から幹へと飛び移る

まったく気づく様子のない獲物、背後をまったく気にしない油断

後1回幹から飛べば攻撃出来る極限の距離

力いっぱい蹴った音でようやく振り向いた獲物は私を見た途端目を見開く

けれどもう遅い、私の狩りは極限まで近づき必殺の一撃を加えるだけ

見られてから約0.8秒、腿に佩いた刀、居合斬りで首チョンパ☆

森の中で周囲を警戒しなかった、それが彼の敗因だ

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