3.入学
とうとう今日が入学当日
少ない時間ながらメルツェルとも会っていて今日は一緒に学校に歩いてきた
入学式という事で親同伴であり、勿論メルツェルの両親も一緒にいた
メルツェルの母親である妾のモーリス、父親でありリバンス家当主のマークス、既に入学しているメルツェルの兄の母であり正妻のジェンヌ
武家にしては3人ともメルツェルに甘々で親馬鹿が行き過ぎている面が多々見受けられた
メルツェルが笑っている時の表情は恍惚と表現出来るぐらいに幸せそうな表情だ
ーーー最近メルツェルがよく笑ってくれるの...
とモーリスが語った時にはそれこそ一生分の幸せを味わっているかのような至福の顔だった
にしても宿のおじちゃんの話に出てきていた傲慢貴族誕生例の最もな感じなのにこの環境で物腰の低い性格になったメルツェルは少々不思議だ
まあ、そんなことも会話していれば忘れてしまう訳で少し雑談をするつもりが10分もかかる学園敷地内の移動があっという間に感じられるほど夢中になってしまっていた
気がつけば既に巨大な校舎の玄関を通った先のエントランスにいたことに驚いたのは内緒だ
まず大講堂で学園長から新入生歓迎の話があるからその大講堂に向かわなければならない
けど道に関してはエントランスを左側にある通路を真っ直ぐ進めばすぐそこだから問題ない
付き添いの親は別の場所にある中規模の講堂で今後の大まかな予定や寮に関して聞かされるらしく一足先に別れた
通路を進んで既に開かれている大扉を潜ればそこは既に大講堂
質素な感じで木材の香りが漂うとても落ち着いた感じの巨大な空間だった
確かここで新入生は貴族と平民で別れて席に座るのが規則らしい
一旦メルツェルと別れて胸元に貴族の証である紋様のない生徒達の後を追い空いている席を適当に選んで座った
「少ない...かな?」
メルツェルがいる貴族席には明らかにレンブルス王国の総貴族数以上の大人数が密集していて皆暑苦しそうな表情をしている
それに比べてこちらの平民席は空席だらけでスッカスカだ
用意されている席は多いのに肝心な人はおらず、何となく寂しさを覚える
この魔術学園に入るための筆記試験をクリア出来なかった人達なのは確実だ
「ええ、これよりリーフ・マクレッタ学園長からお言葉を頂戴します、お話中はお静かに」
講堂内に響く男性の声が無くなると講堂奥の壇上に幾何学模様の魔術陣が展開され発光すると同時に1人の老人が現れた
「あぁ...と...ようこそ新入生諸君、儂はリーフ・マクレッタじゃ...貴族ではないがこの学園で理事長を務めておる、ああ、まずこの学園の成り立ちじゃが...」
ーーーあぁ...これ長くなるやつだ...
学園の成り立ちなんて話しても誰も興味ないだろう
こんな話を最初にするとしたら後もあまり面白い話ではないと思う
聞くだけ無駄だ...寝よう...
椅子だから寝心地は悪いが...宿のベッドも硬く寝にくいから慣れてしまったのだろう、すぐに意識が途絶えた
学園...と言えば学び舎である事が当然なのだが貴族からするとそうでもないらしい
同年代の男女が集まるわけだから貴族達はより位の高い相手と関係を持ち、高位の貴族は選り取りみどりの中堂々と未来の半身探しをする
それには当然中位の貴族であるメルツェルも含まれているわけで男爵家や準貴族である子爵家、家の功績やその愛らしい姿から高位貴族からも仲を持とうと擦り寄ってくる連中が多い
今だって...何故平民が貴族と...なんて声が聞こえて来そうな視線が四方から突き刺さっている
あまり好意的とはいえない視線が集中すれば隣にいる人もそれに気づくわけで...
ーーー私何かしました...!?
と心の声が聞こえて来そうなほど挙動不審な様子で居心地悪そうにしているメルツェルには少々申し訳ないと思っている
そんな状況でも彼らの意識が別のとこに向く場合はある
その1つが見事入学を果たした新入生には必ず行われるスキルチェックだ
本来専用の魔術道具が必要で材料がとても希少なことから生産数も少なく世界に百もない貴重な魔術道具を無償で扱える、国がどれだけ学園に期待しているのかが伺える
そんな貴重な魔術道具を扱える体験は人生に数回ある程度で今回は自身の能力であるスキルを確認出来るという事から皆の意識はスキルチェック集中している
それにしても既に何人かは終えているようだようだ...早い
将来有望なスキルの持ち主は大々的に発表されるようでスキルチェックを行う場所である運動場でスキルが公開されている
おっと、また1人将来有望なスキルの持ち主が発表された
ピエーラ・ロラン
職業スキル:【騎士】
固有スキル:【聖気】【金剛】
通常スキル:【土魔法】【剣術】【盾術】
【騎士】...国防を担う者としては確かに将来有望なスキル達だ
スキルは自身の魔力の特性の表れであり当然得手不得手がある
固有スキルは自身の魔力の性質が色濃く現れた正に自分だけの能力でその効果は強大だ
通常スキルは魔力の性質上自身にあった魔法や武術などの才能を表す部分と言える、自身の才能なので活かすか殺すかは自分次第だが中にはとんでもない才能を有する場合がある
職業スキルに関してはこれといった効果はなく、固有スキルと通常スキルを合わせた結果自身が1番活躍できる職業を表しているだけだ、肉屋、管理人、農民、漁師などの商業系に剣士や斥候、弓士などの戦闘職、果てには囮、遊び人、浮浪者なんて者もあったりする
このスキルの把握は重要でこれだけで自分の人生が決定する時もあるし別の道を歩む可能性もある
自分に1番適した将来を把握出来るという事でもあるしでスキルのチェックは結構重要なのだ
けどスキルチェックは専用の魔術道具を扱うため高額な対価を払う必要があり一般的にはそこまでしなくてもいいという事で自身のスキルを把握していない者がほとんどだ
っと...どうやらメルツェルがスキルチェックをするみたい
有名な武家の出という事で周りからは当然戦闘系スキルが沢山あるんだろうと注目が集まる
ーーーみないでぇ...そんなにみないでぇ!
とやはり居心地悪そうに体を揺すりながら教員の指示に従って魔術道具を自身の左胸に当て待つこと数秒
まぁ名門の武家の出なら職業スキルはやっぱり将軍辺り...
メルツェル・リバンス
職業スキル:【聖女】
固有スキル:【ケセド】【リジェネレーション】【魔素吸収】【霊素変換】【第六感】
通常スキル:【回復魔法】【光魔法】【風魔法】【補助魔法】【剣術】【双剣術】
聖女?聖女...あぁ...
なんだか妙に納得した気分だ
とある学者が提唱したスキルの説に「人の性格は職業スキルに近いものとなる」という仮説があった
研究とは言えないが同じ職業スキルの者達を比べると多くの共通点が見られるという結果があると本で見た気がする
メルツェルの話ではリバンスの家系は【将軍】【騎士】の職業スキルを持つ者が多く男女問わず皆が忠誠深く堂々とした人達だと聞いていた
なのにメルツェルに関してはそんな感じはない、逆に戦士としては頼りないのでは?と思えるほど
なるほど...戦闘とは無縁な聖職者系の職業スキルなら戦士らしくないというのも納得だ
それと見慣れない固有スキルもある、【リジェネレーション】は代々聖女の職業スキルを持つ者が所持するスキルで俗に再生魔法と呼ばれている
死していなければどんな怪我でも元通りにしてしまうスキル
だがそれよりも目を引くのは【ケセド】だ
「【ケセド】だと...」
「なんということだ!?」
強力な固有スキル所持者の貴族の生徒達も驚きの様子
それもそのはず、【ケセド】は私の【シェリダー】と同じく古き神々のスキルなのだから
その意味は慈悲、不幸な者に少ないながらも幸福を与える美徳
【聖女】という職業スキルと合わさってそのインパクトは強い
「静まれ!今はスキルチェックの時間だ、終了したものは教室棟行きの大通路で自身の教室を確認し着席するのだ!」
腰に日本の短剣を下げている左腕のない隻腕の男性が声を張り上げ催促をしている
確かこの魔術学園の教頭で戦闘と魔術に長けた人物だったはず
名前は...覚えてないや
学園の教頭が相手という事で生徒達は大人しく運動場を離れていく
数が少なくなり生徒も疎らにになってきた頃にようやく私の番がきた
私自身も古き神のスキルである【シェリダー】を所持している
生徒の数が少ない今はいいタイミングだろう
それに私はスキルチェックを受けたことがないからどんな固有スキルがるのか楽しみだ
【シェリダー】に関しては魔法の練習中に感じた違和感を頼りに自身の魔力を探って発動した時に知ったから自分のスキルを知っているわけではない
果たして何が出るかな〜
ゼロライト
職業スキル:【賢者】
固有スキル:【シェリダー】【ビナー】【デモリッション】【影操作】【魔力操作】【霊体化】
通常スキル:【核撃魔法】【重力魔法】【闇魔法】【水魔法】【槍術】【剣術】
ーーー嘘ぉ!?
悲鳴が轟いた
誰のかって?私のだよ
悲鳴に続いて運動場全体に生徒達の絶叫が響く
そりゃそうだ、なんせ古き神のスキルが2つもあるのだから
拒絶を意味する【シェリダー】と理解を意味する【ビナー】
そして本来は魔素が収縮し思念体に変化した精神体である精霊のみが持つ【霊体化】
前の戦争の時から高位魔人族にしか確認されていなかった【核撃魔法】の才能
前例のないイレギュラーは周囲に圧倒的な驚きを与えた
良い意味でも、悪い意味でも