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企む令嬢 アン・ロマーナ 

「分かりました。お手柔らかに、お願いします」


「安心しなさい」


 すると、彼女は詠唱を始め魔法を放つ。私は、それが迫ると倒れた振りをする。私は地面に伏せ目を閉じている。


「アンドゥー! 起き上がりなさい!」


「さすが! アン様です」


「私、当ててないわよ! 寸前で消したもの」


「……」


「嘘は、もういいわ。私は知っているのよ」


「どうして……」


「猛獣に襲われた日があったでしょ。あの時過って、あなたに私の攻撃が当たったのよ。それでも、平然と立っていたわ、あなたは」


 まさか、そんなことがあったとは思いもしなかった。どうりで断言していたのか。


「……」


「観念して認めたらどう?」


「はい、そうです」


「それで頼みが、あるのだけれど?」


「何ですか」


「私の新技を受けて欲しいの」


「ご趣味が良くないと思いますが?」


「そんなことは百も承知よ。しかし、何もない所に放っても威力が増しているか実感がないの。もちろんただとは言わないわ」


「それは?」


「あなたの肩の傷を治してあげるわよ」


「……」


「何か思うとこが、あるような顔してるわね。もしかして、治癒が不完全だったことが不満だったのかしら?」


「いえ」


 そんなことは露にも思っていない。ようやく、ユリアの実験台から解放されて、二度とあんな惨めな事は味わいたくないと思っていた。


 そんなこと考えるのは、ユリア以外この世に存在するわけがない思った。しかし、目の前に実在している。私は、その存在に打ちひしがれている。


「どうかしら? 私は無理強いをしたりしないわ」


 その言葉は、ある人物から聞いた覚えがある。自己中心的な人の常套文句なのだろうか。その言葉には、私のお願いを拒絶するなど許されないという裏の意味が隠されている。最初から私は、彼女の掌で転がされていたのである。


「お受け致します」


「それは良かったわ。安心していいわ。ユリアさんと同じ方法で治してあげるわよ。その際には、ニコラを連れてきてもらうことになるわよ」


「どうしてですか?」


「でないと無理だからよ」


「はぁ……」


「今度の休日、メリーチ家の果樹園で待ってるわ。絶対来るのよ」


 アン様は私の予定など気になさらないようだ。まぁ幸いなことに、その日は予定がない。ユリア様が気まぐれを発症しなければという条件付きである。


「畏まりました」


 すると、私の目の前には信じられない光景が広がっている。アン様は鞄をお開けになり、ひっくり返して中身をお出しになられている。そして、散乱した教科書をお拾いになられていらっしゃる。なぜか、彼女は鞄を私の足元に放り投げた。


「ナニヲサレテイルンデスカ」


「中身を出しただけよ。あなた、目はないの? 今日は、使用する教科書が少なくて助かったわよ。一冊、一冊が重いから」



 その言葉も名詞が違うだけで聞き覚えがある。御令嬢の思考は似通っているようだ。それは、生まれつきなのか、育っていくにつれて形成されるのであろうか。ユリア様の幼少期は、人見知りで塞ぎ込んでいたと聞いている。後者の方が濃厚なのかもしれない。


 彼女は拾い終えると、部屋から出て行こうとしている。


「アン様、鞄をお忘れです」


「それ、あなたにプレゼントするわ」


「どうしてです?」


「汚れたもの」


「とてもお綺麗です」


「あら、ありがとう。いや、あなたに触れてしまったもの」


「……」


「絶対に置いて帰らないでね! 私は、汚染物を返されても困るから」


 彼女は、そう言い残して戻っていった。私は呆然として立ちすくんでいる。しばらくしてから、私は足が動くか確認する。私は、その鞄を拾い上げ教室へと向かう。その途中、クリスティーナと出会う。私の気分は最悪である。


「アンドゥー、おはよう。あら、その鞄どうしたの?」


「ここへ来る途中に校庭で拾ったんだ」


「私、この鞄に見覚えがあるわ。もしかしたらアンの物じゃないかしら?」


「そうなんだ」


「私が届けてあげるわよ?」


 彼女の優しい心遣いに胸が締め付けられる。捨てられた、いや貰った物であるので、させられない。もしも彼女に届けてもらった時のことを想像する。確実にアン様の用いれる総ての手段で、私を彼女と学院から排除することであろう。


 アンから貰ったと言ったら、彼女は心の底から喜んでくれるであろう。しかし、彼女にアンとの関係を変な意味で捉えられるのは、絶対に耐えられない。彼女は決して思いもしないだろうが、そう思ってしまう自分が居る。


「悪いよ、僕が届けに行くよ」


「分かったわ。困ってると思うから一刻も早く届けてあげてね。じゃあ、また昼食時間に会いましょう」


「わかった」


 私は教室の後ろの扉から入ると、一目散に専用の戸棚に向かうと鞄をしまう。席に座ろうとすると、ソフィアと目が合う。彼女は即座に目を逸らせる。見られてしまったかもしれない。


「おはようございます、ソフィアさん」


「アンドゥーさん、おはようございます」


 彼女は俯いて顔を上げてはくれない。私は朝から憂鬱である。放課後まで乗り切ることが出来るのか心配になっている。

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