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惨めな二人の屑

 うつぶせで寝ていた私は目覚める。いつも私の視界には、天井の木目が入ってくる。しかし、今日は白い景色を見ている。


 起き上がると直ぐに服を脱ぎ捨て、鏡の前に立つ。そして、傷の具合を確かめている。一朝一夕で治っているはずもないが、私は良くなっていると自身に言い聞かせている。薬草を塗り込み、口に出し一日も早く治れと祈る。


 私は着替えて食堂へ向かい朝食を摂る。ニコラが横で食べているが、食べ物が口の周りに付いているので拭いてあげる。彼女は恥じらいを見せている。その姿が愛くるしい。


 私は彼女に別れを告げて門へ向かい、ユリアを待っている。彼女の馬車が通り過ぎると、その後を歩く。昨日はレッスンに呼ばれることはなかった。


 学院へ向かっていると前方から怒号が聞こえてくる。それは国家警備隊の取り調べ所からである。その横の柵で囲われた場所に早朝であるが人が十人ほど集まっている。


 何事だろうと視線をやると、柱に人が括り付けられている。それは、アルフォンソとジェーンである。


「金返せ! この人でなし」

「人の旦那寝とりやがって! 女狐」

「これまで散々俺を見下しやがって」

「おばさん、私の顔忘れたとは言わせないわよ」


 その他にも、口汚い言葉が飛び交っている。立て札が立っている。そこには罪名が書かれているはずである。しかし、コイツらの処分に興味など微塵もない。


 すると、その中の一人が石を投げつける。堰を切ったように、周りの者も投げつけている。コイツらの阿鼻叫喚の声が聞こえている。


「アンデジュゥぢやないが、ゆでゅしでおぐれ。だじゅげて」


 何か言っているようである、それは言葉の意味をなしていない。昨日までは、あんなに息巻いていた。悪いがコイツらには、哀れみの感情は湧いてこない。それ程、虐げられていた。


 ユリアは、どう思っているのかと馬車の横に早歩きでつけている。その窓は布で覆われている。彼女は気にも留めていないようだ。


 その横を通り過ぎたが、前方からは人が続々と集まってきている。奴らには、更なる地獄が待っているのだろう。


 私はユリアの教室に来ている。エリーザが彼女に挨拶している。彼女は、ここ最近は何か言いたげに私に視線を送る。私は、それに気付いて顔を背けている。


「ユリア様、それでは失礼します」


 彼女は無言のまま頷く。私は逃げるように、その場を離れる。私は歩きながら溜め息を付く。すると、前方にアンの姿が確認できる。出来ることなら、窓から中庭に出たい。流石に、周りの生徒たちの目が気になるので出来ない。


 私は、彼女に一礼して通り過ぎる。どうやら、やり過ごすことが出来たようだ。


「アンドゥー、待ちなさいよ!」


「何でしょか? アン様」


「ちょっと、付いてきてくれるかしら?」


「授業がありますので」


「まだ時間は、あるわ。嫌なの?」


「……いやぁ」


「クリスティーナに打ち明けるわよ。ニコラが攫われたこと」


「脅すんですか?」


「何を勘違いしているの? 私は丁寧に御願いしているんだけど?」


「何用でしょうか?」


「ここで叫んでも良いの? ユリアさんに聞こえるわよ」


「ここで大声出せますか?」


「五月蠅いわよ。どうするの?」


「わかりました」


 私は彼女に付いていく。ある部屋の前まで来る。中に入ると備品が置かれている。下級コースと違って、どれもが高価そうである。


「ご用件は?」


「後ろを向いてくれる?」


 私は言われたとおりにする。すると、右肩に衝撃を受け激痛が走る。耐えきれず片膝をつく。何事かと振り向くと、彼女は両手でカバンを持って笑みを浮かべている。


「何をするんです! アン様」


「やはりね。あなた、怪我してるでしょ? そんなにユリアさんに構って欲しいのかしらね」


「……どうして? そんなことはありません」


「いつもと微妙に歩き方が変だったし」


「そんな所まで見ているんですか?」


「その言い方は何よ! あなたに何か興味ないわよ! 私の癖よ」


「はぁ……」


「私の前で溜め息なんか付かないでもらえる?」


「すみません。もう戻っても宜しいですか?」


「もう少し居てもらおうかしら。話があるの?」


「何でしょうか?」


「あなた、治癒魔法効かないのよね?」


「そうですが」


「攻撃魔法も効かないわよね」


 咄嗟に危険を察知する。何を企んでいるかは分からない。私が選択すべき回答は一つしかない。


「そんなことはありません。私は治癒魔法のみ効かない特異体質なのです」


「そうなの? では、確認させてもらってもいい?」


「まさか……」


「そうよ。私の攻撃魔法を受けてもらうの」


「死んでしまいます」


「心配しなくても良いわ。その辺はわきまえているわ。一時的に気を失う程度よ」


「酷すぎます」


「安心していいわ。直ぐに起こしてあげるから」


「お断りします」


「大声出すわよ? 駆けつけた人は何と思うでしょうね? 受け取り方によっては停学、いや除籍処分かしらね」


「……」


 それを知ったからって、彼女には何の得もないはずである。もしかしたら一生脅すための取引材料にするつもりなのかもしれない。しかし、彼女の要求を飲むことにする。気絶した振りをすれば誤魔化せると言い聞かせる。

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