懲りない屑たち
私は治療を終えて、屋敷に向かっている。ヨハンさんの操縦している荷馬車の荷台に、私は乗って揺られている。幸いなことに傷は大したことない。鏡で確かめてみたが、剣先が少し刺さった程度である。
とは言っても、刺し傷であるので痛みはある。問題なのは、利き手側の右肩を負傷してしまったことである。歩く分には、多少痛みがある程度である。しかし、右手を動かすと、かなり痛みがある。
ヨハンさんからは大会の選手変更を告げられた。私は諦めきれないので、大会の一週間前まで待てないかと頼んだ。彼は了承してくれた。しかし、自分が私を追い込んでしまっているのではないかと、心を痛めているているようだ。その姿を見て、私は自分自身を攻めずには、いられなくなっている。
処方された薬と余っているクリスティーナたちから貰った薬草で、私は一刻も早く治そうと心に誓っている。何としても出場して、ヨハンさんの胸のつかえを取り除いてあげたい。
ユリアに例のことは内密にすることを決めた。それなので、彼女に治癒して欲しい何て言えるはずもない。いや、そのつもりは微塵もない。何とかしてみせると己に言い聞かせている。
馬車に揺れと先程の疲れと相まって、私は眠気を催している。ヨハンさんが私の為に操縦してくれている。それなのに、私が寝るなんて失礼である。私は、それを吹き飛ばすために左手で頬を叩く。彼が、どうしたのかと振り返っている。
しばらく街が眺めていると、前方から騎兵の一団が向かってきている。何だろうと見てみると、先頭の騎馬に乗っている者に見覚えがある。王都警備隊の隊長だ。
馬車は、彼らを通り過ぎようとしている。その後方に、顔を見るのも嫌な奴らが歩いている。アルフォンソとジェーンである。私が顔を背けようとすると、男と目が合う。
「アンドゥー。てめぇ、ぶっ殺してやるからな」
奴らの横を通過しようとしたとき、男に唾を吐きかけられる。それは私の服に付いた。コイツのせいで大会参加が危ぶまれている。怒りが込み上げてきて拳を握る。私は、もう一発お見舞いしてやろうと荷台から降りようとする。
「坊ちゃん!!」
その言葉が、頭に血が上りきっていた私を我に返した。私は、跨ごうとしていた右足を荷台に戻す。
「こんな人間に構うのは愚か者がすることだよ! 坊ちゃんは、そんな人間ではない。それは私が一番理解しているつもりだよ。さぁ、深呼吸をしなさい」
「なんだと! 下っ端が!」
「そうよ。私はメイド長よ! 謝りなさい」
コイツらは、両手を縛られ腰縄でつながれている。そして、足枷をはめられていて大きな鉄球が繋がれている。コイツらは、こちらに向かって来ようとしていたが、その鉄球に阻まれる。
「お前たちは、もはやメリーチ家のものでない。だだの罪人だ!!」
「何を!」
コイツは、歩兵により地面に顔を擦りつけられる。それでも喚いているので猿ぐつわをされる。そして、無理矢理立たされる。
ヨハンさんの元に隊長が馬を進めている。
「ヨハン殿、お久しぶりです」
「これは隊長殿、あの時以来ですな」
「ご苦労でしたな。よもや、この様な下衆がメリーチ家に仕えていたとは。心中お察し申し上げます」
「見抜けなかったのは、お恥ずかしい限りです」
「善人ぶった奴ほど面の皮が厚いものです。お気を落とさずに」
「痛み入ります」
「私たちは参ります。またご縁があれば」
「そうですな。お気を付けて」
「出発だ!」
ヨハンさんは、屋敷に着くまで言葉を発さなかった。私は、守衛兵よりユリアの部屋へ行くよう言われる。私はヨハンさんに謝罪して、そこへ向かっている。彼は私の肩を軽く叩くだけであった。
ユリアはベットの上で腰を下ろしている。五人衛兵がその周りを警護している。
「ユリア様、お怪我はありませんか?」
「頭を打ったみたいだけど大丈夫よ」
「それは安心致しました」
「目覚めたばかりなの。私が気を失った後どうなったのかしら?」
「あの後ヨハンさんがドアを蹴破って、衛兵の皆さんと協力して二人を取り押さえました」
「あなたは何をしていたの?」
「私は、その様子を見てました、突然の出来事でしたので」
「あら、そう。いざという時に役に立たないのね」
「返す言葉もありません。申し訳ありません」
「あなたに期待なんかしてないわ。もう下がって良いわよ」
「失礼致しました」
私は部屋に戻ると薬草を引き出しから取り出す。私は鏡に背を向けながら、薬草を塗ろうとしている。鏡を見ていると扉が少し開く。その隙間からニコラが顔を出していて、鏡越しに目が合う。私は急いで服を着て、薬草をしまう。
「お兄ちゃん、何してるの?」
「鏡を見ているんだよ、ニコラ」
「ふ~ん、ヘンなの」
「どうしたんだい?」
「ご本を読んでもらいたいの」
「わかった、おいで」
どうやら気付かれていなようだ。私は椅子に腰掛け、彼女を膝に乗せて読み聞かせている。しばらくすると彼女は、うとうとして眠ってしまった。私は彼女を抱きかかえて、夕食までベッドで寝かせることにする




