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正真正銘の屑たち

 彼女がドアノブを握ろうとした瞬間、ジェーンが彼女に体当たりをする。ユリアは地面に崩れ落ちる。彼女は地面に強く頭を打ちつける。起き上がってくる様子はないので、気を失っているようである。


「何てことするんだ!! 謝ったのは嘘なのか!」


「黙れ!! 小僧」


 思いもかけない展開に動揺は隠せていない。私は振り向きアルフォンソの動向を確認する。彼は手にペーパーナイフを持っている。


 机に近寄って行ったのは、そういうことだったのだ。まさか、ここまで、しようとするなんて想像もしていなかった。ふつふつと怒りがこみ上げている。


「何をするつもりだ! アルフォンソ」


「アルフォンソだと。お前のようなゴミ屑に呼び捨てにされるとわな。アルフォンソ様だろ!」


「お前は、それで十分だ!」


「ぶっ殺してやるからな! そして、てめぇは、この嬢ちゃんを殺して自害したことにしてやるよ」


「人間の屑が!!」


「今のうちに喚いていろ」


 すると、屑はナイフを振り上げ向かってくる。私は剣の柄で思い切り胸を突く。怯んだところ剣を投げ捨てると、屑の右手を掴み捻り挙げる。そして、馬乗りになり顔面を力の限り殴打すると泡を吹いて気絶した。


 私は立ち上がると、ペーパーナイフを窓から投げ捨てる。私は投げ捨てた剣を拾おうと探すが見当たらない。部屋を見渡すと、なんとジェーンが、剣先を下にして握りしめている。


「ユリアお嬢様どうなさいました? ドアを蹴破りますぞ!!」


 ヨハンさんの声がする。これで大丈夫だと安堵感に包まれている。


「何をする気だ! 観念しろ!」


「この小娘を殺して、お前が始末したことにするんだよ! 私とゴミ屑なら、どっちを信用すると思うかい! 私は、メイド長様なんだよ!!!!」


 ユリアの元へ足早に歩みを進め、剣を振り上げようとしている。剣を取り上げるのは間に合いそうになく無理だ。私は走り出しユリアに覆い被さる。その瞬間、右肩に激痛が走る。


「お前も、ぶっ殺してやる!!」


 覚悟を決める。その時、ドアが蹴破られる音がする。


「おい! 何をしている!」


 私が、その方向をみあげると女が剣を振り回している。しかし、あっという間にヨハンさんに地面に押さえつけられ制圧される。


 彼の背後に控えている衛兵が女の両脇を、しっかりと掴んで立たせる。抵抗をしているが屈強な彼らに、なすすべ無く大人しくなる。


「何があったんだ? 坊ちゃん」


「ユリア様を一刻も早く退避させてください」


「わかった。そこの衛兵、すまんがユリア様を部屋に運んでくれ」


「私ですか? お触れしても宜しいんでしょうか?」


「今そんなことを考えている場合か! 緊急時だ! 誰も咎めたりはせん」


「申し訳ありませんでした」


 その命をうけたのは、ニコラを馬に乗せた若い衛兵である。私がたちあがると、彼は慎重に彼女を抱え上げているが、その額からは汗が流れ落ちている。彼の心中を察する。


 私は事の経緯を詳しく説明する。話が進むごとに、彼は眉間にしわを寄せて表情が険しきなってきている。


「ジェーンさん、坊ちゃんの言っている事は真実ですか?」


「ヨハン、こんなクソガキの言うことを信じるのかい? コイツがユリア様の首を絞めて亡き者にしようとしていたのを救おうとしたのよ」


「私が入ったとき、そのようには見えなかったが」


「黙りなさい! 一介の使用人風情が、私は、この屋敷に君臨する頂点であるメイド長様なのよ!! お前なんか御主人様に言って首にしてやる」


「好きにするといい。お嬢様が目覚めになれば、真実は明らかにされるであろう」


「……それは」


「これが真実であれば、あなたの命は、ないでしょう」


「ピィヤヤーー!」


 彼女は奇声を発しながら、泣きわめいている。その顔面は崩れていて、よだれも垂れ流している。この期に及んで、みっともない。あれだけ息巻いていた人間だとは思えない。しかも、反省の態度を見せていたので、アルフォンソよりも立ちが悪すぎる。


「ユデシデギュヂャサイ」


 もはや、言葉もろくに発せ無いほど錯乱している。彼女の足下は水分で水溜まりが出来ていて、それが拡がっている。涙と涎が、そこに滴り落ちて混ざっている。いい年した大人が、みっともない。


「もう言い逃れは出来そうに無いようだな。引っ立てろ!!」


「ピィヤヤーー!!」


 女は、足を宙にあげてバタつかせている。みっともなくて言葉も出ない。部屋から出されていったが、女の奇声は聞こえてきて、私の耳は、おかしくなりそうである。


「坊ちゃん、よくユリア様を守ってくれたね」


「いたぁ、当然のことだよ、うっ」


 緊張の糸が途切れたのか、再び激痛が走る。ヨハンさんの顔つきが変る。


「怪我をしてるじゃないか! う~ん、骨に当たって傷は浅いが」


「ユリア様には内緒にしてもらえる?」


「どうしてだい?」


「何となくね」


「わかった。坊ちゃんは優しい子だよ」


「違うよ!」


「違わないさ。さぁ、坊ちゃん、私の背中に乗りなさい」


「大丈夫だよ」


「一刻も早く医者に診せなければ? ユリア様が悲しまれるよ」


「ユリアは、そんなこと思わないよ」


「そうかな?」


 私は彼に背負られている。彼の大きな背中は温かく眠気を誘ってくる。

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