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裸足の令嬢 ユリア・メリーチ

 

  果樹園に着いた。アン様のおかげで体に異変をきたしている。彼女は逃げるように馬から飛び降りる。露骨すぎて精神をやられる。


「お二人とも御助力頂いて、ありがとうございました。お疲れでしょうし、お帰りになられてください」


「ユリアさんを待つわ」

「そうよ! 私たちは他人を思いやること無く、溜め息をつくような自己中心的なアンタじゃないの! 私たちは思慮深いの。分かったかしら? アンドゥー」


 彼女たちに、その言葉をそっくりそのまま返してあげたい。あと、深いじゃなくて浅いの間違えだと思う。


 私は疲労困憊なので木陰で休んでいる。ニコラが近づいてきて私の膝に乗る。私の体を揺すって遊びたがっている。今の私に、それに応える体力は無い。


「ニコラ、こちらへいらしゃい」


 エリーザ様は、お元気のようだ。ニコラは駆けだしていって戯れている。エリーザとの光景は微笑ましいと思えなくなっている。私は心が荒んでいるようだ


私の背後から影が伸びている。振り返るとアンが同じ木に立ったまま、もたれ掛かっている。私は向き直る。


「アンドゥー! あなたの下手な騎乗で、体中が痛いわ」


「……もう訳ありません」


「二度とないから良いけど」


「そうですね」


 もっとキツいことを言われると思ったので意外である。ニコラは元気に走り回っているが、付き合っているエリーザ様は、肩で息をしている。治癒魔法を教えてあげれば良いと思うが助言はしない。


 ニコラは彼女の手を引っ張って、物足りないと主張している。エリーザは膝に手をついて今にも倒れそうだ。彼女が休憩を提案しニコラが渋々了承する。彼女が再び私に膝に乗る。


「アンドゥー! 代わりなさいよ!」


「お兄ちゃんは疲れているからダメなの!」


「分かった、分かったわ。ニコラ」


 彼女なら自分の所へニコラを呼び寄せそうであるが、そうする気配は無い。ニコラを膝の上に乗せるのも、今の彼女には辛いに違いない。私は欠伸をして目を閉じる。時折、吹く風が心地よく眠りに落ちる。


 私は揺さぶられて目を覚ます。その先には、ニコラの顔がある。


「どうしたんだい?」


「エリーザ様が呼んでいるよ」


 ろくな事になりそうにないが、ニコラの手前を進んで彼女の元へ向かう。


「これは何ですか?」


 正方形の一辺が人二人腰掛けられる位の囲いがある。高さはニコラの膝くらいである。私の記憶が確かならば、ここに囲いなど無かった。


「ニコラが暑いっていうから小さな防御壁を出現させたの」


「ここで寝るんですか?」


「……ナニヲイッテルノ? バカ」


「……」


「この中に水を貯めて水浴びするのよ。まったく……」


「アン様に頼めば良いじゃないですか?」


「それは無理よ!」


「どうしてです? あそこに立ってるじゃないですか?」


「寝てるの本当よ! 嘘だと思うなら確認してきなさいよ」


彼女は実際そうしている。エリーザは勝ち誇ったような顔をしている。しかし、よくこの体勢で寝られるものである。相当、お疲れなのだろうか。彼女の頭は上下に動いている。


「アンドゥー、危ないから何とかしなさいよ」


「……起こしたら」


「バカ、アンは疲れているの。起こしたら可哀想だわ」


「……」


 彼女が小声で話す。彼女は気が使える人物らしい。


「安心して言ったりしないわよ。私は口が堅いの。アナタがアンに嫌われすぎてるのは知っているわ」


 最後の一言だけは私の耳元で兄子らに聞こえないように言う。どうやら、本当に気が使えるのに驚く。ニコラが私の服の裾を掴む。逃げることは出来なくなる。


 私は触れないようにアンの太股裏に手を入れる。そして、頭の動きに合わせて首元に手を入れる。次にゆっくり彼女を抱え上げ、そっと地面に降ろし背中を木にもたれかけさせる。


 彼女は睡眠が深いようで起きる気配は無い。私は、ほっと胸をなで下ろす。ニコラが拍手しそうなので、その両手を優しく掴む。エリーザと目が合う。


「中々やるものね。アンドゥーにしては」


 すると、彼女は右手をあげ指さす。その先には井戸がある。流石にこれは察しなくとも理解できる。私はラバーナ家の使用人では無い。ニコラが期待に目を輝かせている。


 私は仕方なく動き出すが、早くして欲しいのか彼女に手を引かれている。私は水を汲み上げて桶に移し替えて、囲いの中に流し込む。


 井戸とそこまでの距離もあるし、桶もそれ程大きいわけでは無い。何十往復もしなければならなく、時間がかかりそうである。


 ニコラは早く水浴びしたいのか、それとも私を思ってくれてか、小さな桶を持ってきて水を入れるように促す。そうすると、両手でしっかり抱えて慎重に歩いている。その姿は愛くるしいが転ばないか心配である。


 エリーザ様は腕組みして平然としている。手助けなさる気は、さらさら無いようだ。彼女には始めから期待などしてないので、ここに存在しない者だと思う。


「エリーザ様は、お手伝いしないの? じゃあ、水浴びできないね」


「……ニコラ、どうすれば早く出来るか、考えていたのよ。アンドゥー! 退きなさいよ!」


 彼女は奪い取るように汲み上げを始めた。持ち運ぶのが嫌でそうしたのであろうが、慣れないのか辛そうである。その先の展開が安易に想像出来る。それは、そう遠くないはずだ。私たちは気にせず続けている。


「アンドゥー! 運ぶの遅いわよ! 代わってあげるわ」


 彼女は思ったより早く根を上げる。私は、ため息を付く。その意図を知らないニコラは、嬉しそうである。代わると順調に進めてくださっている。汲み上げよりは、お役に立ちそうである。


「ため息つくんじゃないわよ! アンドゥー!」


 私は無視を決めこむ。ようやく後数往復で完了しそうである。その時、馬の蹄の音がする。そこには衛兵に厳重に警護されているユリアがいる。彼女が馬から降りるのを見ているが、私は我が目を失う。


 なんと彼女は裸足である。


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