怒れる三令嬢
私は勢いよく飛び降りたので、地面を転がっている。その中で前方を見ると、ニコラを託している衛兵を他の衛兵が取り囲んでいる。これで、ニコラの安全は保障されたも同然である。
ユリアの護衛に当たる彼らは、この国で一番の練度と忠誠を誇るといわれている。彼らは、選抜精鋭兵養成学校を優秀な成績を修め卒業した者が殆どである。それ故、上官から疎まれ、いわれの無い理由で貶められ失意のまま除隊させられたという。
荒んだ彼らの中には、やむを得ず盗賊へ身を落としそうになった者もいたそうだ。ウィリアム卿が、国への忠誠誓い各戦線で叙勲級の働きを見せた日の目の当たらない彼らを拾い上げた。
後は彼らが突撃し制圧する手はずになっている。私は立ち上がり、剣を抜き奴らの警戒に当たる。玄関から二人の男が出てきて、私に襲いかかろうとしている。
ユリアの衛兵には、国一、二位を争う弓の名手がいる。不測の事態の場合、その者が男たちを仕留める事になっている。
すると、私と男たちの間に壁が地面から廃屋を包囲するよう出現し始めている。作戦になかった事なので何事かと振り向く。私のすぐ背後には三令嬢がお立ちになられている。
「……これは……」
「あなたにしては上出来よ」
「そうですわね、ユリアさん」
「そうそう」
「どういうことでしょうか?」
「気がかわったのよ。衛兵には伝えてあるわよ」
「はぁ」
「ユリアさんにそんな口聞くんじゃないわよ! アンドゥー」
「気になさらないで、エリーザさん」
私は思わずため息を付く。体を張ってニコラを救出した緊張の糸が切れてしまったからなのか、彼女たちの言動に対してなのか、分からなくなっている。急に倦怠感に襲われる。
「あなたため息つくの趣味なの? 人を不快にするから止めた方がいいわよ!」
「アンドゥーさんには荷が重かったのよ」
「アンドゥー、あなたの役目は終了よ。早くニコラに無事な姿を見せてくると良いわ」
私はその言動に複雑な気分になる。彼女の所へ早く言ってあげたいのは山々であるが、彼女に恐怖を味あわせた奴らをこの手で捕まえたい。
「私にも、やらせてください!」
「珍しく威勢がいいわね。足手まといにならないと良いけど。まあ、あなたは立ってるだけで良いわ、アンドゥー」
彼女なりの思いやりだと受け取ることにする。そうでも思わなければ、冷静では居られない。今は、それが一番大事である。壁は一階部分が隠れている。
「アンさん、お願い出来るかしら?」
「もちろんです」
彼女の目つきが険しくなって詠唱を始めている。
「総てを飲み込め青蛇!!」
すると、彼女の突き出した両手から、蛇の姿をした水が空高く打ち上がっている。その内部では渦を巻いている。
彼女が思いきり両手を下げると、それは廃屋に向かってもの凄い速度で迫り、直撃している。それは、すぐに壁から溢れ出し、男が二人流れ出してきて地面に倒れている。起き上がる様子はなく気を失っているようだ。
私は奴らを捕縛しようと駆け出す。周囲で警戒していた衛兵も塀を乗り越え向かっている。二階に居る男たちは、水に飛び込み込む。
「下がりなさい!」
彼女の迫力に私たちは足を止める。何事だと思いユリアを見てみると、右手を空にかざして詠唱している。その表情は怒りに満ちあふれている。彼女にしては大変珍しいことである。
すると、上空に赤い光が煌めいている。バチバチと音を立てている。それは次第に大きくなる。
「轟き貫け赤雷」
彼女が詠唱を終えると、それは閃光し轟音をたてて枝分かれし壁の内部に向かっている。到達すると爆音がした後、水しぶきが廃屋の高さの何倍にも上がっている。それは豪雨のごとく地上に降り注いでいる。
「エリーザさん、お願い出来るかしら?」
「はい」
彼女は地面に両手をつけて、口元を動かしているが聞き取れない。壁が瞬時に消えて廃屋は柱しか残ってない。廃屋の周辺に生い茂っていた雑草は、消え去っていて地面は干からびている。そこには男が三人倒れている。
「終わりましたね。アンさん、エリーザさん」
「そうですね」
「流石ですわ、ユリアさん」
「衛兵、建物の前のものを回収しなさい。アンドゥーには、そこの二人をお願いするわ」
「……ぁはい」
私は、その言葉に戦慄が走っている。




