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狼狽える令嬢 アン・ロマーナ

 あれから、初めての休日である。あの授業の帰りにユリアに医者に連れて行ってもらったが、傷口の治りは悪く痛みが引かない。眠るときは、うつ伏せで何回も痛みで起きてしまう。


 ヨハンさんからは傷の回復次第では、四貴族剣術大会には他の者に出てもらうことになると言われた。せっかく選抜してもらって、あの警護主任に雪辱を果たす機会を作ってもらったのに歯がゆい気持ちで一杯だ。何とか傷を回復させたい。


 彼は、痛みで仕事が捗らない自分の仕事を代わりにやってくれている。私は感謝しながらも心苦しい。感覚を忘れにように毎日欠かさず剣を振っている。


 ニコラは私が寝ているときに呻き声をあげていると、心配して扉をこっそり開けて見ている。声を掛ける事はしない。それは私を思ってくれてのことだと思う。その優しさが逆に辛い。


 朝の仕事を終えて、ニコラと共に果樹園に来ている。すると、そこには見慣れた馬車がある。私は素通りするが彼女に服を掴まれる。彼女は、どうしてという顔をしている。仕方ないので馬車の前に立つが、一向に降りてこないので彼女の手を握り移動する。


 彼女は、いつものように果物を籠にいれて、せっせと洞窟の中に運んでいる。それを何往復が続けて私の元に来る。彼女は籠の中の果物を私に手渡す。


 私は彼女を膝の上に乗せ、一緒にそれを食べている。私は馬車を見るが降りてくる様子はない。食べ終わると眠気が襲ってきたので彼女と共に昼寝することにする。


 私が目を覚ますと彼女がいない。見回してみると彼女はアン様と戯れている。彼女は馬車の中から様子を窺っていたのだ。私と顔を合わせるのも会話するのも嫌なのだ。彼女は根気強い性格なのだろうか。


 ニコラが私に気付いて手を振っている。一瞬、躊躇ったが振り返す。案の定アン様は、お気に召さないようだ。


 しかし、クリスティーナとローレンスは、どうしたのだろう。もう来ててもいい頃である。彼女に聞きたいが、そうしたところで絶対教えてくれないので諦める。


 私は、やることが無いので、治癒魔法書読んでいる。もう何周読んだだろう。どのページに何が書かれているか覚えているので、目次を見る必要はなくなっている。ユリアに別の魔法書でも貸してもらおうかと考えている。


 ふと、彼女たちに目をやるとアンが魔法を教えている。ニコラが詠唱を終えるが変化は見られない。あんなに懸命に頑張っている見て複雑な気持ちになる。早く魔法を使えるようになって欲しい。


 アンがこちらを見たので、本で顔を隠し読み込んでいる振りをする。そうしながら見ているが、何度試みても魔法の兆しは見られない。私は魔法を使えないことを歯がゆく思う。私は、しばらく目を閉じることにする。


 目を開けると私に影が差している。その先を見上げると、アンがニコラを抱えて立っている。私はニコラに視線を固定する。


「どうしたんだい?」


「お兄ちゃん、本貸して欲しいの」


 私は立ち上がり手渡そうとすると、アンがそれを強引に奪おうとしたため引っ張られて地面に倒れる。私は両手をついて直撃は回避したが、背中に激痛が走り維持できず胸を強打する。


 私は、この状態でため息をつく。アンが、この場を立ち去るまで寝ることにする。草の青臭さを嗅いでいる。私は、この匂いが好きだ。草の感触も良い。ゆっくり目を閉じる。


「アン様がイジワルするから、お兄ちゃんが死んじゃった」


 彼女は泣きわめいている。私は素早く起き上がり近づく。私の顔を見た彼女は、さらに大声を上げ泣いている。私は、彼女の背中をさすり落ち着かせようとする。しかし、収まりそうにない。


 アンは彼女に頬ずりしている。ニコラは両手で引き離そうとしている。彼女の端麗な顔が、ニコラの行為によって変形している。その顔を見て思わず吹き出しそうになる。彼女はニコラに気を取られて気付いていない。


 ニコラは引き離した後でも泣き続けている。アン様は、大変困ったような表情を浮かべてなさる。彼女は、何とかしてくれという目で私を見ている。私は明後日の方向を見る。


「もう、アン様キライ。おろしてよ」


 彼女は素直に応じそうすると、ニコラが私の胸に飛び込んでくる。私は抱き上げてアンを見るが、彼女は私の胸に顔を埋めたままである。


 私は背中をさすりながら、大丈夫かと声を掛ける。彼女は胸の中で頷く。アン様が近づいてきて来られて、声をおかけになられている。ニコラは無視を決め込んでいる。彼女は、アン様が肩にお触れになると手で振り払う。


「もうアン様とは、あそばないし、マホウもおしえてもらわない。エリーザ様からならう」


「ニコラ、どうしてよ? なぜエリーザの名前が出てくるのよ!」


 彼女は膝から崩れ落ちうなだれている。しばらくして、顔を上げるが目が潤んでいる。

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