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退かない令嬢 ユリア・メリーチ

「あら、エリーザさん。大変だわ」


 ユリアはメイドを呼び布巾を持ってこさせると、エリーザのスカートを拭いている。


「……ごめんなさい。ユリアさん」


「お気になさらないで」


 彼女は申し訳なさそうにしている。目の焦点が合っていない。余程ユリアの言葉に動揺しているのだろう。


「エリーザさん。このままでは、いけないわ。私の服をお貸しするわ」


「申し訳ないわ、ユリアさん」


「遠慮なさらないで」


 彼女はエリーザの腕を強引に掴むと、自分の部屋に連れて行く。しばらくすると、ユリアは着替えたエリーザと共に戻ってきた。


「ユリアさん。私そろそろ、おいとましますね」


「あら、そう準備させるわね」


 ユリアには最早、彼女の意図を汲む気はないようだ。


「アンドゥーさんに送っていただきます」


「アンドゥーに任せるなんて出来ないわ。エリーザさんに何かあってわいけないもの。採寸を済ませてから、そのままお送りするわ」


「……」


 エリーザは私に助けを求めるような目をしている。しかし、ユリアの性格を知っている私には、どうすることも出来ない。彼女のことが気の毒でならない。


 ユリアは彼女の手を取り立たせている。もう、彼女も諦めたようだ。しかし、その足取りは重い。


「アンドゥー、あなたも付いてきなさい!」


 ニコラがユリアを見上げている。


「ニコラも行きたいの?」


 彼女が頷く。すると、ユリアは彼女たちに見られないように、私を睨みつけている。


「アンドゥー。本来なら徒歩だけど、ニコラが疲れるでしょうから馬を使いなさい!」


 彼女の優しいお心遣いに感謝しないといけないんだろうかと思う。私は厩舎へ行き、ニコラを馬に乗せてあげる。彼女はご満悦のようだ。


 衛兵は隊列を組んだままでいた。この暑い中、ユリアに振り回されて大変だなと思う。私は後方について、後に続く。


 ユリアに無理矢理一緒に乗せられているエリーザは、どのような心境なのだろう。まぁ、良い心地ではないのは断言できる。


 そういえば、ここに来てから街へ行くのは、ニコラは初めてではないかと思う。彼女は嬉しそうに見回している。


 彼女は私に指さしながら、何のお店と聞いてくる。私は、それに答えてあげる。一軒一軒尋ねてくるので疲れるが、彼女の新鮮な気持ちを害してはいけないので続けている。


 すると前方から、騎兵の一団がこちらに向かってくるのが見える。王都警備隊である。


 その前を息絶え絶えに走っている男が見える。それは、エリーザを襲っていた小太りの男だ。今日のこれまでの元凶だ。私は怒りがこみ上げてきた。


 しかし、ニコラがいる。彼女を危険に晒すわけにはいかない。


 すると、隊列の中からヨハンさんが馬を走らせる。素早く馬から降り、あっという間にそいつを取り押さえる。そこに駆けつけてきた警備隊に引き渡す。


 私は、そいつがエリーザを襲った賊であると報告した。ヨハンさんにも。そうした。彼は自分を見失わず、冷静な判断が出来たと言ってくれた。


 もうすぐ、服の仕立て屋につくそうだ。後は彼女たちの採寸が済んで、エリーザを送り届けさえすれば解放される。もう少しの我慢である。


 ようやく店に到着した。すると、店の前に馬車が二台停まっている。一台は見たくもない馬車であったが、もう一台も見覚えがある。


 私が溜め息をつくと、ニコラが、どうしたのという表情を浮かべている。


「なんでもないよ。ここで待っていればいいだけ」


「ふーん」


 ユリアが、エリーザと馬車から降りてきた。彼女が二台の馬車を確認すると動きが止まった。そして、振り返り私と目が合う。嫌な予感しかない。


「ニコラ、一緒に行きたい?」


 彼女は満面の笑みを浮かべて頷いている。ユリアの優しい一面を見る。私は胸をなで下ろす。彼女を誤解していたようだ。


「アンドゥーに一緒に来てくれるか聞いてごらんなさい?」


「お兄ちゃん、ニコラと行ってくれる?」


 彼女の純真な瞳で見つめられては、決して嫌とは言えない。いや、言ってはいけない。


 しかし、ユリアは機転が利くというか卑怯というか、どっちかと考える。先程の彼女に対する思いを頭の中から消去する。


「行こうか? ニコラ」


「うん」


 私たちは二人の後に店に入る。そこには、予想通りマチルダとアンがいた。私は目眩がする。

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