少年の抗議に言い訳する令嬢 マチルダ・オテーヌ 震える令嬢 エリーザ・ラバーナ
彼らは互いに一礼し握手を交している。その表情は対照的である。エドワードは、高らかに手を挙げ観衆の賞賛に応えている。
一方、ローレンスは握手の時こそ顔を上げていたが、それ以降は終始俯いたままである。剣を持っていない左手は、強く握られている。その姿から悔しさを垣間見れる。
試合を終えた二人は控え室へと向かって行く。運営委員より休憩が告げられた。
私は立ち上がり、マチルダの所に駆け上がる。すると、監視兵に羽交い締めにされる。どうにか振りほどこうとすると、もう一人きて押さえつけられる。
「そこの監視兵さん、あなた方が取り押さえているのはメリーチ家の者よ。放して頂いてよろしいかしら?」
ユリアがそう言うと、彼らは即座に、そうしたので私はマチルダの元へ駆けよった。周囲が少しざわつき始める。
「マチルダ様お話よろしいでしょうか?」
「あら、アンドゥーさん。たしか今朝、私に話すことなんてないとおっしゃっていたと記憶してますわ」
「お話ししたいことが出来まして、よろしいでしょうか?」
「お話とは何かしら?」
「この場で言ってもよろしいんでしょうか?」
「アンドゥーさん……」
「マチルダ様、確認します。言ってもよろしいんですね?」
「私に、やましいことなんてあると思って」
「では、言わせていただきます」
「ちょっと……」
下級コースの者が上級コースの者に、このようことをすることだけても異例なことである。周囲の者は騒ぎはじめている。さらに、私のこの言葉で、それが大きくなっている。
「マチルダ様!」
「アンドゥ-!! 周りの皆さんのご迷惑よ。マチルダさん、エリーザさん場所をかえて話すのはどうかしら?」
二人が同意し移動する。人通りのない通路奥まで来ている。
「アンドゥーさん、お話ってなにかしら? 手短に済ませていただけません? お兄様の試合を観戦したいものですからね」
「ローレンスに手鏡を使って光を当ててましたよね?」
彼女はユリアがいるからなのか、疚しさからなのか俯きがちである。
「あら、私は鏡を見ていただけよ」
「鏡の部分を競技場に向けていただけじゃないですか!」
「私の手鏡は両面鏡なの! いくら、ご友人が負けたからって、言い掛かりは止めていただきたいものですわ」
「しかし……」
「証拠はあるのかしら? あるなら提示してくださるかしら? 私は、あなたに気づかれてから鏡は見てなくってよ」
「今、何とおっしゃいました?」
「あら、いやだ、アンドゥーさん。今のは言葉の綾よ」
「もう、よろしいかしら?」
私は、これ以上何も言うことができず、この場に立ちすくむ。唇を噛むことしか出来ないでいる。
「エリーザさん」
「あぁ、はい。ユリアさん」
「あなた、競技場を熱心に見ながら、マチルダさんから手渡された手鏡をに動かしていたけど、あれは一体どういうことなのかしらね? とても鏡を見てるようには思えなかったのだけども」
「……」
彼女の体は小刻みに揺れ始め、目は大きく見開き一点を見つめている。彼女はマチルダを見る。マチルダは顔を背けた。沈黙が続いている。
「ユリアさん、あのぅ……」
「エリーザさん! 何をおっしゃるつもりかしら?」
エリーザは腰を抜かしてしまったのだろう。その場に崩れ、うなだれている。
「立ち上がりなさい、エリーザ! これじゃ……」
彼女はエリーザを起き上がらせようとしている。全身の力が抜けているであろう彼女を、そうすることが出来ないでいる。
「そういうことなのでしょうね」
「ユリアさん……」
「安心して良いですわ。私から言うようなことはしません。証拠は、ありませんしね」
「ありがとうございます」
「でも、アンドゥーは言うでしょうね。まぁ、彼が言ったところで取り合ってもらえないでしょうけどね。でも、見てる人は見てるわよ。後は、あなた方の判断にお任せするわ」
「それは他に見ていた人が存在するってことでしょうか?」
「さぁ、どうかしら? アンドゥー、戻りましょう」
私は彼女の言葉に頷くと、その後に続く。
彼女とは会話を交すことはなく席にもどると、ローレンスが座っている。私は、その横に腰掛ける。
「何処へ行っていたんだい? アンドゥー」
「ローレンス……」
「負けてしまったよ」
「あぁ」
「最後の一撃に移ろうとしたとき、日差しが入ってきたよ」
私は、その経緯を彼に話した。彼は驚いた様子だが、それは私が思っていたのとは違っている。
「そうだったのかい? 気が付かなかったよ」
「君は悔しくないのかい?」
「もちろん悔しいさ! 控え室でずっと考えこんでいたよ」
「何をだい?」
「君が教えてくれた光が当たらなければ、僕は勝っていたってね」
「実際そうじゃないか!」
「でもね、アンドゥー。僕は冷静にあの瞬間を分析したんだ。エドワード様の体は思っていたより低かったんだよ」
「それは君が思っていたより、体が流れていたってことかい」
「違うんだよ。彼は、あの体が流れて倒れてしまうかも知れない状況で、自らさらに限界までそうしたんだ」
「そんな危険なことするかい?」
「実際したんだよ。彼は危険な賭けをね! 勝ちを確信し慢心していたのかも知れない。そのつもりは、勿論なかったけどね。彼の勝ちへの執念が僕のそれを上回っていたんだと」
私は彼にかける言葉が見つからない。
「アンドゥー、彼の試合が始まるよ」
「あぁ……」
王国歌が吹奏し始められている。




