すれ違い
ローレンスとは街に入る前に別れた。衛兵は半分はこちらについてきている。
私は街に入ったのでもう安全だろうと、衛兵に警護は不要であると伝える。しかし、アンから屋敷まで送るよう堅く言われているという。
それに加え、私たちがメリーチ家の使用人であることを一言付け加えたという。彼らたちにとっては、私たちがどうなろうが知ったことではないはずである。
しかし、アンの要請に加え、使用人とはいえメリーチ家に関わる者に何かあったとなっては、彼らの衛兵としての身分は危ういことになってしまうのであろう。
私のことは、お構いなしであろう。アンはニコラのことを気にかけてくれてらっしゃるので、彼らに釘を刺したのだろう。
屋敷に着き衛兵に礼を告げていると、ユリアの馬車が入ってくる。なんとも間が悪いとしか言い様がない。
彼女は窓を開け一見すると、屋敷の玄関の方へと向かって行く。私たちは、門と屋敷の中間地点にある噴水で涼むとこにした。
彼女は足をばたつかせている。地面に足がつかないので落ち着かないのかもしれない。
今日はダンスの見学は止めておいたらと言ったのだけど、行くというのでアンのことは内緒にしておいてくれとお願いする。
「私に、ありがとうって言ってくれたよ」
「それは良かったね」
「お兄ちゃんも言ってもらった?」
「あぁ、うぅん」
ホールでユリアを待っていると、扉が開いた。
「アンドゥー、何をしでかしてくれたのかしら? それとも護衛がつくほど偉くなったのかしらね」
天井を見上げると、シャンデリアが眩しく目を閉じる。
「私を無視するとは本当に偉くなったようね」
「いえいえ、とんでもありません。少し考え事をしておりまして」
彼女には賊に襲われたろところを助けてもらい、どこから来たのかを尋ねらた。そして、メリーチ家の屋敷から来たと伝えたら、なぜか屋敷まで護衛してもらえることになったと説明した。
「無様ね」
「おっしゃるとおりです」
ダンスを始めるが彼女の動きはぎこちなく、何度も足を踏まれている。それを指摘すると、その痛みを遙かに超える言葉を浴びせられそうなので我慢している。
「少し休憩しましょう。アナタのその顔見てると気が散るのよ」
どうやら私の顔は、生理的に受け付けられなくなってしまたらしい。彼女は広いホールに備え付けられてあるソファに腰掛け水を飲み始めている。
ニコラは眠そうにして目をこすっている。それを見たユリアは、彼女の名を呼びソファを叩いている。ニコラはその横に座る。
すると、ニコラの髪をときはじめている。彼女が急にそうしはじめたので、ニコラは緊張した面持ちで私をみつめている。何度が頷いて大丈夫であると合図する。
「あのう、お願いがあるのですが」
「なにかしら?」
「治癒魔法の専門書があれば、お借りしたいとおもいまして」
「もう読み終えたのかしら? 結構な量の本だったはずだけど」
「ニコラが治癒魔法に興味があるようでして」
「なら良いわよ。衛兵にアルフォンソに持ってこさせるよう伝えなさい」
彼女は、髪をとくのに夢中なご様子である。しばらくすると、アルフォンソが、それを持ってきて帰り際に睨みつけられた。
ニコラは彼女からそれを手渡されると、嬉しそうにそれをめくって私の方を見る。早くと読み聞かせしてほしいのだ。さっきまでは、あれほど眠そうな目をしてたのが嘘のようである。
レッスンを再開するが相変わらずで、もう少しで完成しかかっていたのに、元に戻るんじゃないかと不安になってくる。足の痛みが蓄積されて限界が近づいている。
彼女の私の手を握る力が次第に強くなってきていて、苛立っているのが手に取るように分かる。しばらくして、その手は私から離れた。
「今日はここまでにしましょう」
彼女は足早にホールを去って行った。まだ本を眺めているニコラらの前に立つと、彼女は私を見上げる。
「いけない、拍手するの忘れちゃった」
「今日はしなくても良かったんじゃないかな」
その言葉に不思議そうな顔をしている。その後、彼女は自らの右頬を指さしている。
「どうしたんだい?」
「鏡みてみて」
確認してみると、私の右頬は赤く腫れ上がっている。痛みを感じなかったので、こんなに腫れているなんて思いもしなかった。




