不運の令嬢 アン・ロマーナ
ユリアが会場を去って行った後、急に会場は騒がしくなる。興奮冷めやらぬだったり、あの光景を思いだして泣き出したり、気を失って運ばれていく者までいる始末だ。
それほど衝撃的な試合だったのである。中には自慢げに戦いを分析して友人に語り出している者さえいる。そして、自分ならあの時こうやれば勝てていたという身の程知らずさえいる。
あの後、暫くしてから審判団より、アンの状態について報告が行われた。全身打撲ではあるが骨折などはなく、目を覚ましたという。
予定では、午前中は上級科の試合で埋まっていた。しかし、予定外の辞退者が多数出たので、二試合しか行われなかった。それで昼食休憩まで、かなり時間が余っている。
それで、実行委員会の間で協議が行われている。かなり難航している様子だ。
その間に競技場では、二人の試合で荒れた地面の整備が行われいる。そこには無数の窪みがある。ユリアが最後に放った技の跡は、広範囲に抉れている。
そこを整備員が急いで穴埋め整地している。彼らだけでは足りないので、学院職員と先生方も駆り出されている。
私はローレンスと会話している。彼が言うには、これほどまで競技場が荒れるのを初めてみたという。
彼はアンの魔法力にも大変驚いていた。彼女は去年試合を見たときより凄まじい成長を遂げていたそうだ。当時のユリアの魔法力を遙かに超えていたという。血のにじむ努力をしたんだろうと彼は言った。
あの巨大魔法陣を見た時、目を奪われ身震いしたという。魔法の威力と芸術的な魔法陣を出現させた感覚共に才能の塊と言わざるを得ないという。
唯々、残念なのは、同学年にユリアという彼女を凌駕する存在その一点に尽きるという。ユリアを除けば全学年の生徒の中でも一番だそうだ。彼女の実力は、高学年の各一位の者とは次元が違うらしい。
ユリアの最後の魔法の威力を目の当たりした時、彼は全身の力が抜けていくのを感じて、何も考えることが出来なかったという。その後に、今まで経験したことのない戦慄を感じたそうである。
ふと思ったことを、私は彼に尋ねてみる。アンが何度も立ち上がってきたことだ。理解はできるが何かが引っかかっている。
是が非でもユリアに勝つという執念だと、彼は推測する。気力だけが彼女の支えだったのだろうと付け加えた。でも、最後のユリアの攻撃を受けて立ち上がったのには、疑問が残るという。
彼女ほどの実力者なら、あの一撃を受けて自分に勝ち目はないと理解していたはずであると。もし最後の一撃を喰らっていれば、彼女は生命の危機に陥っていたかもしれないそうだ。
彼女が気を失っていなくても、あの状況なら審判が止めていたはずである。しかし、それが少しでも遅れていたらとも言う。
この間、彼女とユリアが話していたのを私は思い出す。彼女たちの会話の内容が、今更ながら気になった。私は、ユリアに聞いておけば良かったと後悔している。たとえ、教えてもらえなくてでもある。
実行委員会より協議の結果が発表される。もうすぐ整備が終わるそうだ。終了次第、中級科の試合を始めるとのことである。




