寡黙な令嬢 アン・ロマーナ
時計台についたが、先程のことがあり約束の時間より十五分早かった程度ある。しばらくしてローレンス、その後クリスティーナが姿をみせた。
彼女の屋敷に向かう途中で、彼女たちにあの美しい剣士のことを話している。彼女は目を輝かせて聞いてくれ、彼は女性の剣士なんて聞いたことがないと言い、ぜひ会ってみたいものだといっている。
私も彼の話を聞いて、もう一度会ってみたいと思ったが、もうその機会はないだろうと諦めている。私は街をめったに訪れることはないからである。
彼女が屋敷に着いたら、私がきっと喜んでくれることがあるという。気になって何度かきいてみるが、喜びが半減してしまうからと教えてくれない。
ローレンスに聞いてみるが知らないという。
彼女が林を抜けた先にある建物を指さした。それが彼女の屋敷だそうだ。しばらく歩くと、そこに着いた。
ユリアの屋敷と比べると広くはないが歴史を感じさせる立派な建物だ。これまでは気にしたことはなかった。やはり、彼女も貴族の令嬢だということを思い知らされ気が引けている。
彼女は笑顔で中へと招き入れてくれる。玄関から少し離れた所に立派な馬車が待機しているのが見える。それは彼女の両親の物なんだろうと思う。
屋敷の中へ入ると彼女の両親が迎えてくれている。先にローレンスが挨拶を済ませ、後に続いた。反応が気になったが、笑顔で迎え入れられ安心する。内心では私に対して良い印象を待っていないのではないかと、何度も考えたことがある。その態度からは、その様子は感じられなかった。
彼らは、これから用があるそうで、ゆっくりしていってという言葉を添えて屋敷を後にしていく。
彼女に案内され応接間の前まで来ると、私とローレンスに目をつぶるよう嬉しそうに促した。それに応じ待っていると扉の開く音がした。彼女が絶対に目を開けないでと念押しした後、彼女が背中を押して中に案内してくれている。
十数歩進んだ所で止まるよう言われたが、まだそのままでいるよう指示される。
「お二人とも目を開いていいわよ」
期待に胸を膨らませながらそうした。しかし、目の前に広がる光景に自分の目を疑っている。あり得ない人物が見えている。とっさに視線をはずしローレンスを見てみる。
彼も驚いているようだが、こちらを見て微笑みかけてきている。これは一体どういうことなんだろう。間違いであってくれともう一度見てみるが、やはりそうである。
その先に見えているのは
アン=ロマーナである。
彼女は、そっぽを向いた。
「アンドゥー、ほら挨拶して」
「クリスティーナ、あの確認なんですけど、こちらの方はアン=ロマーナ様でしょうか?」
「そうよ何を言っているの? ユリア様の教室に伺うときに何度も見てるでしょ!」
「ええ、まぁもう一度確認するけど本人様ですよね」
「だから、そう言っているじゃない」
「ですよね」
冷静になるために深く深呼吸をいている。あまりの動揺に心臓の鼓動が、なかなか治まらない。それに数分を要している。何とか治まったので、私は思いきって挨拶する。
「えぇ、初めましてで宜しいのでしょうか、初めましてアン様。アンドゥーと申します。よろしくお願いします」
彼女は横を向いたままで、こちらを見て下さる様子はない。どうやら無視を決め込んだようである。
クリスティーナは、その様子に気が付いたようで彼女に話しかけている。彼女の話を聞いていると、どうやら自分と同じようにこの事は内緒にしてたみたいだ。彼女が、このような態度をとるのも理解できる。完全に拗ねているご様子である。
彼女に一通り説明し終えると、クリスティーナは、こちらにきて説明をはじめる。彼女とアンの父親同士が親交ががあり、いわゆる幼馴染だそうだ。
アンはダンスが、とても得意なので、誰かは伏せてダンスのアドバイスをして欲しいとお願いしたそうだ。唯一の救いが幼馴染がマチルダたちでなかったことだ。もし、あの二人ならクリスティーナに断りをいれて帰っていたはずである。
「あぁ、そうだわ。ローレンスを紹介するのを忘れていたわ。ローレンスお願い」
「はじめましてアン様。ローレンスと申します。よろしくお願いします」
「はじめましてローレンス。アンですよろしく」
初めて彼女の声を聞く。か細い声である。
何かがおかしいよな。そうだローレンスには、きちんと挨拶をしている。この差はなんなんだ。やっぱり蔑まされていると思うと気分が落ち込んでくる。
そんな私の様子を察したのかクリスティーナが、さっそくダンスを披露してくれるという。
ローレンスと手を取り合いダンスを始める。二人のその姿は、とても優雅でお似合いである。ユリアとのダンスを俯瞰で想像してしてみると恥ずかしくなってくる。それほど二人のダンスは素晴らしい。
それが終わるとアンが拍手を始めた。私もそれに倣う。クリスティーナは照れくさそうに笑っているが、ローレンスは堂々としている。
彼女が私に指導してくれるというので、準備に入ろうとしいる。すると、彼女がアンに手招きされ、耳元でなにか囁かれている。
「ごめんなさいアンドゥー。ローレンスと踊ってくれるかしら? アンが修正点をみつけるから、それを私に伝えて指導して欲しいようなの。いいかしら?」
もしかしたらローレンスが断ってくれるかもと、彼を見るが笑顔で頷いている。なので愛想笑いで返した。
私は悟る。アンは、この場をぶち壊す気なのだ。よほど私のことが嫌いらしい。ローレンスのことは好きだけど、まさか男性とダンスを踊るなんて夢にも思っていない。しかし、相手は彼だ。気を悪くさせてはいけないので覚悟を決める。
人に見られているのもあって緊張してくる。手が震えてきている。ローレンスが緊張をほぐしてくれている。
私たちはダンスを始めアンの指示の下、クリスティーナが懇切丁寧に指導してくれている。そのかいあって、うまくいっている。ユリアの時とは大違いである。
アンが邪魔しにくるとばかり思っていたので、何か拍子抜けである。この調子であればユリアとのレッスンも、うまくいくという手応えまで感じている。
お礼を言うとローレンスからは筋がいいよ、クリスティーナからは、この調子でいけば習得も時間の問題よと思いのほか高評価をもらう。
アンの前に行きお礼を言う。彼女は、やはり無反応である。
「アンドゥー、今度は私が直接教えてあげるわね」
クリスティーナのその声を聞くと、彼女の表情に、わずかではあるが変化が見られたような気がする。
その後クリスティーナが、紅茶とお菓子をごちそうしてくれている。彼女はアンにかまっていたので、ローレンスと会話を楽しんでいる。そのひとときも終わりを告げ帰ることになった。
クリスティーナが言うには、アンが途中まで送ってくれるという。ぜひお断りしたいが、彼女の手前そうすることが出来ないので了承する。彼女が案内してくれる。アンは、さっさと馬車に乗り込んでいった。玄関の前にあった馬車は彼女のだったようだ。
私は彼女の馬車の馭者の隣に座る。もちろん馬車の中に座れるとは思っていない。
二人に別れを告げると馬車が出発した。しかし、馬車は数百メートル進んだ所で止まり降りるように指示される。そこは道が二手に分かれている。彼女の屋敷は私とは逆の方角だと知らされる。
彼女の意図がわかってきた。すると、彼女は馬車の扉を開けて私を見下ろしている。彼女の口角が少しあがる。それは私に対する冷笑なのか、からかいの表情なのかは読みとれない。確実に私のことをよく思ってないことは感じられる。
私は一応彼女に一礼し歩き始める。




