無茶と詮索
私は彼に言われた屋敷内にある林に着く。すると、ユリアは既に腕組みして立っている。彼女は相変わらず無表情である。
「さぁ始めましょうか? アンドゥー」
「もう止めにしませんか?」
「アナタに断る権利が、あると思っているのかしらね」
「はぁ」
「そう言えば友人のローレンスさん、とても良さそうな方じゃない」
「そう見えましたか? 彼は私にも優しいんです。私には勿体ないくらいです。今日、一緒に帰ってくれました」
「それは良かったじゃない。あなたが笑顔なんて記憶にないわね。私との会話は、つまらなそうにしているのに」
「別に、そんなことはないかと」
「あら、そうかしら? あなたの隣に座っていた女性、なんて名前だったかしら?」
「クリスティーナ……さんです」
「あぁ、そうだったわね。可愛らしい方ね。魔法科だったかしら?」
彼女は憶力がよい。彼女は魔法書を一読しただけで覚えることが出来る。そんな彼女が覚えてないなんて珍しいと私は不思議でならないでいる。
「そうですか」
「贈り物のペンダント見せてくれないかしら?」
「……」
「別に嫌ならかまわないけど」
その言葉は、彼女の場合には絶対見せなさいよという意味だ。長年の付き合いから汲み取れるようになった。なにせ、自分の思い通りならないと気が済まない性格のなのだから。
「どうぞ、これです」
彼女は、それを食い入るように見ている。彼女にとって、高価な物では無いのかもしれない。けれど、私にとっては何ものにも変えられない大切な宝物である。彼女には安物で珍しいのかもしれない。彼女は高価な物ばかりを見たり身につけている。
「あら良いじゃないかしらね。裏に名前が刻印されているのね。ローレンスさんは趣味が良いのね」
「あぁ、はい」
彼女が他人を褒めるなんて珍しいこともあるもんだと思う。私は彼女から貶されてばかりである。
「あっ、そうだ! アンドゥー?」
「はい」
「服を脱いて背中を見せなさい」
「えっ!」
「いいから早く!」
彼女は一度言い出したら聞く耳を持たない。仕方ないので服を脱ぎ背中を見せる。
「もういいわ。早く着なさい」
意外とあっさりしてて拍子抜けする。ただの気まぐれなのだろう。
「さぁ、レッスン始めるわよ。位置につきなさい」
彼女は何十発と打ち込んできたが、やはり魔法が効かない。徐々に彼女の顔色が曇ってきいる。終いには自分の周りに辺り構わず魔法を打ち込んでいる。
「ほら効くのよ。威力も増してるはずなのに。絶対おかしいのよ。本当に魔法を習ってないでしょうね?」
「そんなことは、してませんよ」
突然、ミシミシという音がする。その方向に私が目をやると、自分に向かって木が倒れてくる。
「バカ、避けなさいよ」
私は走り出し避けたが、くぼみで躓いてしまった。すると、腕組みした彼女が近づいてくる。
「無様ね」
元はといえば、ユリアのせいじゃないかと私は一言ってやりたい。しかし、彼女には無意味である。そんなことをしたら、私に何倍にもなって返ってくる。
「怒られるんじゃないですか?」
「薪として利用したら良いじゃない。こうなったのも、あなたのせいじゃない」
「そうですかね」
「それどうしたのよ」
彼女が短剣を拾い眺めている。どうやら、転んだはずみで落ちてしまったようである。
「ヨハンさんから頂きました」
「ヨハンから? 彼は何か言ってた?」
「誕生日だからと」
「あら、良かったじゃない。大切にするといいわよ」
「そうします」
「はい、どうぞ」
彼女に手渡された。何故か、彼女の表情が緩んでいる。私は高価な物に触れることが出来たからなのだろうと思う。
「レッスンは終わりよ。明日からは別のにするわ」
「まだ続けるんですか」
「当然でしょ。私が飽きるまでは付き合ってもらうわよ」
「かしこまりました。ユリア様」
「私をからかうとは、いい度胸ね。二人の時はユリアよ。部屋に戻るわ。おやすみ、アンドゥー」
「お休みなさい、ユリア」
私は彼女の後ろ姿を見送る。彼女の足取りは弾んでいる。