最強之主人公
玉座に座っている青年が後ろから背もたれごと剣に胸を貫かれていた。
剣の先から赤い、紅い血が滴っている。
「く……そっ……死にたくねぇなあ……」
青年は、口端から血を吐き出しながら言う。
「黙れ!! 貴様は、何人もの人間を殺してきただろう!!」
それに怒号を浴びせる後ろから刺した男。
胸を貫かれた青年はそれを聞いて自嘲的な笑みを浮かべながら目を閉じた。
▼ ▼ ▼
気付けば、知らない場所に座っていた。
目の前に続く深紅の絨毯。その先には豪奢な扉が佇んでいる。
見上げれば天井にはきらびやかなシャンデリアがぶら下がっていた。
まるで、漫画やらアニメやらゲームで見る城の謁見の間の様だ。
青年は、ゆっくりと自らが座っている場所を目に入れる。
それは、王が座る玉座であった。
青年は、それを見て、いや、目が覚めた段階で笑みを浮かべていた。
【夢だ。夢を見ているのだ。】
青年は、そう思ったのだ。
確かに、そう思うのが普通だ。
だが、これは現実なのである。
青年は、まだ、それに気付いていない。
いや、気付こうとしていなかった。
青年は、優雅に立ち上がった。
ゆっくりと壁まで歩いてゆき飾ってある剣に手を伸ばす。
それに触れた瞬間、鉄の剣は粉と化した。
剣であった物は指の間からさらさらと溢れていった。
「何なんだ。この夢は」
青年は、独り呟いた。
首をかしげながら豪奢な扉へと足を進める。
扉の前に着き開けようとノブへ手を伸ばす。
が、その願いは打ち砕かれる。
「は? 触れない……」
まるで、ホログラムを触ろうとした時の様な感覚。
通り抜けてしまうのだ。何度試しても。
苛ついた青年は扉に渾身の体当たりをかました。
「グァッ。いってぇ……びくともしねぇ。無理だな」
青年は、諦め他の出口を探し始める。
が、その瞬間、青年はある事に気が付いてしまった。
「痛い……? 夢なのにか?」
青年は、体当たりをした時、妙に現実的な痛みに襲われていた。
青年は、段々と焦燥感に駆られる。
「これ……現実なのか? でも、そしたらあのドアノブはどうなんだよ。さっきの鉄剣は? 大体、ここは何処なんだよ。
あぁ!! 何なんだよ、もう!!
……俺、どうすれば良いんだよ……」
不可思議な事を挙げてゆく内に段々と怒りが込み上げて来て叫んだ瞬間、怒りが恐怖心へと移り変わり震えた声を出した。
青年は、どうしていいか分からなくなり玉座まで戻りそこに座った。
玉座に座り今までの人生を考える。
それなりに楽しい人生だった。
両親にはこの世に産み落としてくれた事を感謝していたし。
気が置けない程の仲の友人もいたし大学のサークルで出会った恋人もいた。
その恋人とは、就職先が決まったら結婚する予定でもあった。
それなりに楽しい人生だった。
そして、これからもそれなりに楽しい人生を歩むつもりだった。
だが、何故、こんな事に。
一通り考えた後、これから死ぬ人間の様な考えだなと青年は思い少し笑みを浮かべた。
青年は、心なしか家族や友人を思い出した事によって気が紛れた。
そして、皆の為にもここを抜け出して帰ろうと決意し立ち上がろうとした時。
「魔王よ!! 貴様を倒しに来た!!」
木の壁に手を叩きつけた様な音と共に怒号を上げながら一人の男が鼻息荒く入って来た。
鎧の上からでも分かる屈強な肉体に身の丈と同じくらいの大剣。 顔は兜を被っていてよく分からないが奥から見えるギラついた精悍な目が青年を見据えていた。
まるで、漫画やゲームに出てくる戦士だ。
だが、青年はその格好ではなく、【言葉】に懐疑心を抱いてしまい思わず質問した。
『ねぇ、君。魔王って俺のこと?』
青年は、そう発音しようと思っていた。
だが、口から出たのは黒板を爪で引っ掻いたような奇怪な音。
「くっ、呪術か。だが、発動する前に……斬る!!」
戦士は、勘違いし大剣を振りかざし青年に向かって突っ込む。
青年は、自分の口から出た音に驚愕し我を忘れている。
巨大な鉄が青年に迫っていた。
巨大な冷たい色をした刃が鈍い光を放ちながら忘我状態の青年に迫っている。
戦士が助走の力を乗せ横一閃に大剣を薙ぐ。
大剣が青年の胴に迫り拳一個分の距離まで迫った時だった。
青年は、我に返り防衛本能で手で防御する。
「何だ……これは……」
大剣は青年の手に触れた瞬間、粉と化していた。
きらきらと輝きながら鉄粉が舞い散る。
何の衝撃もなく剣を失った戦士は前につんのめり青年の手に吸い込まれるように倒れた。
青年の手が戦士の頭に触れる。
戦士の頭の半分が消し飛び脳梁と目玉が溢れ落ちる。
戦士の身体は統率を失い膝から崩れ落ちていった。
黒くて赤い血が紅い絨毯を汚してゆく。
鉄の臭気が酷い。
青年が、気持ち悪いと思った時には既に嘔吐していた。
手で押さえる余裕も無い吐き気が青年を襲う。
吐きながら死体から遠退く。
四つん這いになり気持ちが落ち着くまで吐き続けた。
吐くものが無くなり泡ばかりが口から溢れてきた時、気分がやっと落ち着いてきた。
罪悪感が蝕む脳内で一つの考えが浮かぶ。
死体も触れれば消えるのではないか。
試しに、青年は自らの吐瀉物に触れてみる。
青年の思い通りに吐瀉物は消えていった。
死体を消せば罪悪感も消えるかもしれない。そう考え青年は死体へと向かう。
まだ、温かい生物であったモノに触れる。
強烈な吐き気が襲ってきたが青年は我慢した。
青年が何度も死体に触れる。
「ごめんなさい……」
青年が謝罪の言葉を吐いた時、死体は無くなっていた。
何故か、絨毯にも染みは無くなっている。
青年は、立ち上がり壁へ歩いてゆき触れる。
手に触れたものを粉に、または、消してしまう効果がある事を知り壁も消せるのではないかと青年は思ったのだ。
それに、何かしていないと気がおかしくなりそうだった。
だが、青年の願いとは裏腹に壁は消えなかった。
どうやら、この部屋の玉座、壁、扉は青年の力では消せないようだった。
「くそぉ……くそっくそっくそっくそっくそっ……」
壁を何度も殴り、拳が潰れても殴り続けた。
何度、殴り付けても壁が消える気配は無い。
青年は、消えないと分かっても罪悪感と閉塞感に突き動かされ拳をぶつけ続けた。
気が済むまで殴り続けた後、その場にへたりこむ。 ▼ ▼ ▼
青年は目を開け数回、瞼をぱちぱちと動かす。
どうやら、寝てしまっていた様だった。
青年は、あの状況で寝れた自分を尊敬した。
青年は、立ち上がり脱出方法を探ろうとした。
「魔王よ!! 貴様だけは、許さん!!」
木の壁に手を叩きつけた様な音と共に怒号を上げながら一人の男が鼻息荒く入って来た。
青年は、激しい既視感を覚えた。
入って来た男に目をやる。
その姿は、金髪碧眼に白い肌。
凡そ戦いには不向きであろう細身の身体に長剣。
身に纏う防具は、皮の胸当てとマントのみ。
また、戦士か。
青年は、無駄だと思いながらも声をかける。
「キィィィイキイィ」
やはり、口から出てきたのは可笑しな音。
その声を聞いた戦士は最初の戦士と同様に突っ込んで来た。
戦士が真っ直ぐで、それでいて鋭く速い突きを放ってくる。
青年は、剣の軌道線上に手をかざす。
長剣が粉と化す。
青年は、驚愕の表情を浮かべる戦士の顔にそっと触れる。
戦士が血を撒き散らしながら崩れ落ちる。 ▼ ▼ ▼
青年は、玉座に座り考え込んでいた。
あれから、約1ヶ月が経っていた。
その間、戦いに来た戦士は約40。
1日1人以上の計算だ。
だが、その戦士たちは全て青年によって殺されていた。
青年は、楽なものであった。
戦士たちは皆、例外無く突っ込んで来るからだ。
全員が全員、読みやすい軌道の剣を振るってくるので消した後、頭を軽く触れてやればいい。 その後、死体を触って消せば酷い臭いも無くなる。
青年は、既に【人を殺す】という感覚が麻痺してしまっていた。
それにしても遅い。遅すぎる。いつもであれば、青年の経験則から言って、そろそろ、新たな戦士が現れる筈だ。
青年は、目を閉じ待ち続ける。
青年は、頬に風が当たった様な気がして目を開けた。
いつの間にか、寝ていた。
青年は、緊張感が無くなっている事に苦笑した後、ある事に気付く。
扉が開いている。
青年は、戦士がこの部屋に入ってる事に気付き焦った。
だが、前方を見ても誰も居ない。
ならば、この玉座から見えない場所となると一つ。
青年は、立ち上がり前に飛び込もうと足に力を入れようとする。
青年は、胸が熱くなるのを感じ見下ろした。
自らの胸を剣が貫いている。
恐らく、心臓を貫いているであろう剣は動脈血を吸いルビーの様に紅く綺麗に輝いていた。
「く……そっ……死にたくねぇなあ……」
青年は、口端から血を吐き出しながら言う。
皮肉なものかな。死ぬ直前にだけ普通に喋れた。
「黙れ!! 貴様は、何人もの人間を殺してきただろう!!」
それに怒号を浴びせる後ろから刺した戦士。
胸を貫かれた青年はそれを聞いて自嘲的な笑みを浮かべながら目を閉じた。
戦士は、青年から剣を抜き玉座の後ろから出てくる。
「ふん、この化け物が。死んだからと言ってこれで終わると思うな」
戦士は、そう言うと一度青年から離れた後、助走をつけもう一度青年に刃を突き立てようと剣を構えた。
戦士は、渾身の力で剣を青年に振り抜く。 歴代の戦士たちの憎しみを込めて。
戦士の意識はここで幕を閉じた。
戦士の肉体全てが消し飛んでいた。
青年の身体中から黒い光が発せられる。
その闇に触れた者は全て消えていった。
闇は膨張し玉座も壁も扉も飲み込んでゆく。
闇が城を包み込んだ時、やっと闇が収まる。
城は無くなり、荒れ地と化した。
城であった場所の中心には青年が立ち尽くしていた。
辺りを静寂が包む。
まるで、嵐の前の様に。 剣に貫かれ死んだとき青年は理解した。
この部屋から、この城から出られる方法を。
青年は、戦士たちに【魔王】。そう呼ばれていた。
魔王、それは余りにも強大な力を持った存在。
世界は強大過ぎる力を持った存在が外部から来た場合どうするのだろうか。
簡単だ。
世界は、【能力のズレ】を最小限にするためにそのイレギュラーな存在を一ヶ所に閉じ込め、存在を消そうとする。
戦士が送り込まれたのはその為だろう。
だが、言葉が通じては命乞いをしてしまう。
言葉を封じたのはその為だろう。
ならば、世界の拘束から外れる為にはどうすれば良いか。
こちらも、簡単だ。
世界の拘束力より強大な力を持てば良い。
青年が力を手に入れる事は簡単だった。
魔王、それは闇の権化。
そして、憎しみとは闇そのもの。
強大な憎しみは強大な力を生み出す。
簡単に強大な憎しみを手に入れるには身内が殺されれば良い。
それが、自分であっても。
青年は、晴れて世界の拘束から外れた。
自らの命を代償に。
強大な力は、青年の制御を離れ暴走する。
青年の身体中から再び闇が放たれ周りを、世界を飲み込んでゆく。
憎しみと共に。
もう、色々とごめんなさい。
ワケが分からないところが一杯あると思います。
僕も読んでて意味不明でしたので。
まあ、でも、これ書くの凄い時間が掛かったので消したくなくて……
ごめんなさいっ!!