8 帝国の恋愛事情
ここで、小説の進行からいったん離れて、結婚前も、結婚後も恋愛を自由に楽しみ、十五歳を過ぎてその経験がない女性はほとんどいない、という帝国の恋愛事情について書く。
もちろん、女性だけでなく、男性も同様である。
そのことに関して、帝国民の生活実態はどうなのか、どう営まれているのか、ということである。
それを書くについては、このあと、「性行為」という言葉が頻出することになる。
作者には、その行為そのものを具体的に描写する意図は全くない。が、この言葉が頻出するというのは、はばかられるので、以降は、最終行為という言葉に代えさせていただく。
恋愛を自由に謳歌する帝国民。しかし、最終行為が、誰とでも、のべつまくなしに行われているわけではない。
先の、シュアンが、スオウのもとに赴くときにふれたが、最終行為は、そのことにより、女性が身籠ったとき、自分が父として指名される可能性があるというだけではなく、その相手となる女性が自分以外の男性とも最終行為を行っていれば、他の男性との間にできた可能性の高い子供であっても、自分が父として指名される可能性がある、それを受け入れるだけの覚悟があって、初めて為せる行為だからである。
従って、自由に恋愛を楽しむ、といっても、通常それは、精神的な交流、行為があっても最終行為には至らない形での恋愛なのであった。
ただし、人生における最初の最終行為は、比較的早い時期。
概ね、男女が大人の体になって間もない時期に行われる。
通常の恋愛は、前述したように、行為は、あっても最終行為までは至らないという場合が多いが、この人生における最初の最終行為は、「大人になる」という意味をこめて、文字通り最終行為か行われる。
避妊の正確な知識はないこの世界であっても、経験的に身籠る可能性の低い時期は周知されているので、その時期を選んで、その人生における最初の最終行為は行われる。であっても、その際の行為で身籠る可能性は皆無ではない。
その行為によって、女性が身籠った場合、その年齢の男の子が父となる。女の子が母となるというのは、生活基盤が確りとできていない限り難しい。
したがって、父として引き受けることが可能な、母として引き受けることが可能な、比較的年長者が、最初の最終行為の相手に選ばれることが多い。
この最初の最終行為については、「お手ほどき」と称される。
少年、少女は、このひとであればと願う相手に「お手ほどき」のお相手を務めてほしい旨を、書面で申し入れる。
この「お手ほどき」の相手を申し込まれる、というのは、帝国の民にとって、大変な名誉であり、酒席等での恋愛自慢については、「自分はこれだけの数の少年、少女から「お手ほどき」の相手として申し込まれた」という類いの話が最も多い。もちろん、申し込まれても、子供ができたら困る事情にある場合は、その旨を返信し、丁重にお断りすることになる。
ただ「お手ほどき」を申し込まれて、それを断ることを残念に思う場合は、申し込みを受諾する。
そして最終行為において、身籠る可能性が極めて低くなるよう、放出物を本来の器官では受容しない、受容させないという方法もよく行われたのであった。
(やはり、R15にしないとまずかったかしらん)
が、年少者同士が、最初の最終行為の相手となる場合も、決して少ないわけではない。子供ができた場合、自分の弟妹として、あるいは、自分が自立した生活を営むことが可能になる年齢になるまで、自分の両親に育ててもらうことが可能な境遇にある少年、少女の場合。
もっと多いのは、帝国においては、特に学問が好きでなければ、十二、十三歳くらいから手に職をつけて働き始めるので、年少者であっても、父、母となって、生活を営むことが可能な場合である。
むろん、前述した身籠る可能性が極めて低くなるような方法で行われる場合も多い。
結婚しても、その理由により、配偶者の、他の異性との恋愛を阻むことはできない。
相手にとって、自分が一番大切な存在であり続けるには、魅力のある人間であり続けなければならない。
帝国における恋愛事情は・・・
なかなかに過酷なのであった。