朝起きたら俺の可愛い妹がレストランの店頭によく置いてある食品サンプル(スパゲッティにフォークが刺さっていてそのフォークが宙に浮いてる奴)になっているだなんて
朝。目覚めの時。
俺はいつもの様にリビングでコーヒーを飲んでいた。芳醇な香りは遥か遠くキリマンジャロまで俺を連れていってくれる。生まれ変わったら豆になりたい。
「お兄ちゃん!」
そんな時、ジョゼフィーヌの声が聞こえた。
ジョゼフィーヌは俺の妹。金髪ブロンドにブルーアイ、小柄な俺の可愛い妹だ。
俺は振り向いた。しかしそこにいたのばジョゼフィーヌではなかった。
そこにいたのは巨大なスパゲッティだった。
「お兄ちゃん!知ってる?食品サンプルって古くからは大正時代からあって現在の合成樹脂を使用したものとは違って寒天などから作られていたんだって!」
巨大なスパゲッティは妹の声で喋り続けた。スパゲッティの頭上には巨大なフォークがスパゲッティを巻きつけながら宙に浮いており、それはおおよそ自然の物理法則からはかけ離れた現象だった。しかし今はそんなことはどうでもいい。
「ジョゼフィーヌ、お前いったい・・・」
「お兄ちゃん!知ってる?食品サンプルの起源は白木屋というデパートを起源とする説。京都の模型店を起源とする説。現在多く普及している岩崎さんが製造販売した食品サンプルを起源とする説。があって詳しくは分かっていないんだって!」
妹は何故食品サンプルになってしまったのだろう。
そして妹は自分が食品サンプルになっていることに気づいているのだろうか。
「ジョゼフィーヌ!」
「何?お兄ちゃん?」
「お前、食品・・・いやなんでもない・・」
私は妹に食品サンプルになっていることを告げようとしたがやめた。妹が自らを食品サンプルであると自覚した所で現状が変わるとも思えなかった。
「お兄ちゃん!知ってる?食品サンプルってあまり日本以外では普及してないんだって!これは日本人がレシピ通りの料理を出されることに対する安心感を求めているけど、外国の人はそうではないからなんだって!!」
やはり妹に本当のことを告げるべきだろうか。あの格好では就職や結婚にも支障をきたすだろう。しかし食品サンプルであるからと言って不当な差別を受けるべきではない。社会にきちんとした食品サンプルの受け皿を作るべきだ。受け皿というのは皿の形をした物理的な食品サンプルを乗せるものではなくて、食品サンプルの人権を尊重し、食品サンプルらしく振る舞える場所を提供するということである。食品サンプルが輝やけるのはショーケースの中だけ、そんな時代が終わろうとしているのだ。