リライト2
シャルルくんに押し倒されたが、その後はとくに音沙汰もなく。
沸騰して上手く回らない頭と激しく鼓動を打つ心臓を落ち着けるためにも、今日は自室で寝ることに決めた。
ちなみに普段はシャルルくんの部屋で、しかも一緒のベッドで寝ています、はい。
ですが、みなさんがご期待されている淫らな展開は残念ながらありません。そういうのは、シャルルくんの教育上よくないから、自重しているのよ!
そんなどうでもいい心の会話が続いている途中で、窓の鍵が開けられた音がした。
窓の鍵は内側にあるはずだが、ベッドで寝る体勢になっていた私は当然開けていない。
外側から窓を開けた侵入者がいる――。
「だれ!? 私をシャルル王子の王妃と知りながらの狼藉かしら!」
「知ってるよ。だって、姉さんの妹だもん」
「栗栖、あなたなのね……」
射し込んだ月の光から現れた元気に揺れるツインテールがトレンドマークの女子中学生。着用しているセーラー服は乱れ、そこから小麦色に焼けた艶のある肌が露出している。
自分の妹ながら、痴女JCという言葉がよく似合う。
「今日は、お・た・の・し・み♡ だったみたいだね」
「ふふっ、羨ましいの? 羨ましいでしょう? シャルルくん可愛いものね。あんな可愛い男の子とラブラブできる私は幸せ者だわ」
「シャルルくんが可愛いのは認めるけど、別にー羨ましくはないよ。私、彼氏を自分で選べるくらい可愛いし」
「誰の妹よ、この素直になれない駄妹は。栗栖が可愛いのは周知のことだけれど」
事実、この駄妹は8人もの男と付き合い、飽きたら振って飽きたら振ってを繰り返す悪女。それでも言い寄る男が絶えないのは、栗栖が誰もが認める美少女であるということだろう。
「姉さんは、あたしをべた褒めできるくらいには、ご機嫌なんだね」
「女の喜びを知った乙女は、心が広いのよ。男を取っ替え引っ替えしてる栗栖にはわからないかしら?」
「わからない。でも、機嫌がいい姉さんを見て、自分が苛立ってるのはよくわかる。ウザいなーって。だから、」
――シャルルくんはあたしが貰うね。
その言葉が、耳から入り脳で理解した時には、私の体は実体を失っていた。透明人間になっていたのだ。
「どうして――」
「どうしてこうなったか、って? あたしも一時的にだけど、データを書き換えることができるんだよ。姉さんと同じ能力で、ね」
「嘘……よね? 栗栖もリライトを使えるなんて聞いてないわ」
「言ってないもん。あ、言ってないよね……?」
「ええ、一言も。リライトを使えるってことは、あなたもこの世界のウィルス?」
「正解ーっ! すごいね、パチパチ」
大袈裟に拍手する栗栖。
私を煽っているのがよくわかる。
「って、こんな会話に時間を無駄にしたくないからーっと、」
拍手という名の煽りを中断し、目を瞑る栗栖。
栗栖の体がドット状に崩れ、長い黒髪と大きくクリクリとした瞳が特徴的な小学生くらいの女の子に再構成されていく。
あら、私の気のせいかしら?
最近、この娘を鏡の前で見るんだけど――。
「って、いまの私じゃない!? しかも、なによ! その破廉恥な格好は!」
栗栖が変身した対象は、幼くなった私だった。
しかし、私の普段着となりつつある水色を基調としたエプロンドレスとは違い、私の姿をした栗栖は紫色のネグリジェを着ている。
さらにそのネグリジェは肌の露出した部分が多く、膨らみかけの胸が作った谷間や、腋下、艶のある脚からぷりっとしたお尻にかけて、日頃は部屋着で隠れている部分がよく見えるようになっている。
「でも、ロリロリな私ってこんなにもエロスだったのね。思春期の男の子を煽ってごめんなさい。これから自重します、たぶん」
「別に自重しなくてもいいんだよ? これから姉さんのロリロリエロエロな体で、シャルルくんを堕としにかかるんだから♡」
「はぁ……?」
卑妹の言葉に開いた口が閉まらなくなる。
シャルルくんに限って、ビッチな女の毒牙にヤられるとかないよね? ない、よね……?