"好き"の気持ち
「シャルル王子よ! 可愛いすごく可愛いっ」
「あの馬車にシャルル王子と、その王妃――アリス様がいるのね。どんな方なのかしら」
人混みを割って進む馬車。
その中に私とシャルルくんが乗車している。
現在、不思議の国全域に王妃を紹介するためにパレードしている真っ最中だ。
久しぶりに外に出た身としては太陽の光が眩しいです。
もうヤダ、お城に帰る!
動画配信ができれば、こんな面倒な催しをしなくて済む。しかし、動画を撮るビデオカメラも、それを映すテレビもない以上、足を使うほかない。
テレビがないということは、携帯ゲーム機もないわけで、ひきこもりには暇すぎる生活を送る羽目になっていた。
そのため、シャルルくんを愛でることが唯一の癒し、私のトレンドになっている。
いつか王妃の権力を使って、自分好みのゲーム製作したい、そう思うひきこもり姫だった。
「ねえ、ずっと気になっていたことがあるんだけど、質問していい?」
「なんでも質問していいよ。ボクのこと? それともこれからの日取り? 婚約の儀はいつにしようか」
「シャルルくん気が早いわ。そんなことよりこの国の建物についてよ」
「そんなこと……」
落ち込んだ様子のシャルルくんを尻目に言葉を続ける。
「なんでお菓子でできているの?」
アップルパイのドーム、板チョコを四方に固めたマンション、プリンのお家などなど、お菓子でできた建物が、ここが現実世界ではないことを主張している。
どのような原理で建物の役目を果たしているのか。
それが不思議で不思議でしょうがない。
「それがわからないんだ。いつの間にかそれがあったから、それがボクたちの現実になっている。だから、誰も疑問に思うことはないし、誰も疑わない」
「不思議ねぇ……」
「まあ建物として成り立っているから、安全性に問題ないよ。そこは安心して欲しいな」
「そういう問題なのかしら……。絶対、なんらかの隠された秘密があると思うんだけど」
先日、城内の書物を漁って、不思議の国は謎が多いことがわかった。
お菓子でできた不思議の国に関してもだが、シャルルくんのような年端もいかない男の子が王子として即位された理由、一度も姿を見せないシャルルくんの父母の存在、シャルルくんと私以外に城内には人の気配がないーーというより私とシャルルくん以外には人間が存在していない不可思議な状況。
それにパレードを見守る人々や、馬車を運転するお兄さんは、ケーキの飾りに乗っているメレンゲドールでできているし……。
異世界だからといって、わからないことが多すぎはしないだろうか。
「もうわけわかんない」
「ほんとに? 姉さんなら、わかるんじゃないかなぁ……ここが何の世界か」
「栗、栖……?」
耳にタコができるほど聞き慣れた甘ったるい声。
活発に揺れる天真爛漫なツインテールと誰をも虜にしてやまない可愛らしい童顔。
私の妹ーー藤宮栗栖だ。
「なんで異世界に栗栖が!?」
「異世界? あたしたちからすれば、異世界であることに間違えはないけど……。まあ、二重丸をあげられる解答ではないよね、っと!」
栗栖から投げられた粉末。
白くて、和菓子などに使われる片栗粉が視界を奪う。
「アリスお姉ちゃん!」
シャルルくんが、私が誰かと会話していたことに気づいたときには、栗栖にさらわれた後だった。