不思議の国の王子2
シャルル王子の住まうウェディングケーキの城――その一室。
「にしても暇ね、することがないっていうのは。また寝ちゃいそう」
スポンジの柔らかさと弾力のあるベッドの心地よさにやられて、4度寝をしてしまいそうになる。
これは人を堕落させる魔具だ。
決して、私が駄目人間だから、寝てしまうわけではない。頑張りたい気持ちは一応ある――あるはず。
「不思議の国、ひきこもりの私が王妃……なんてタイトルの乙女ゲーよ」
乙女ゲーム――いいや、私が飛ばされたここは、不思議の国と呼ばれる異世界ではないだろうか。
お菓子を材料にして作られた建物や家具、16歳だった私が10歳に若返るなど、現実離れした摩訶不思議なできごとが起きている。
それが現実であるはずがない。
現実を敵視する私としては、異世界と解釈する方が都合に丁度いい。
「ボクの部屋にきてまでダラダラして……アリスお姉ちゃんには困ったものだよ。可愛い寝顔を眺められるのは嬉しいけどね」
「私だって、シャルルくんの仕事姿を見れるのは嬉しいのよ? かっこいいし、可愛いし」
「え、えと……か、可愛いは余計じゃないかな!? うぅ……」
赤みが差した頬を手で覆うシャルルくん。
褒められると照れる。
王子でも、年齢相応の反応してくれたことに安心した。
「ふふふ……」
「なにがおかしいの? 」
「べっつにー」
「なら、いいけど。ふんだっ」
シャルルはそっぽを向くように仕事に意識を戻した。
怒らせたかもしれないと思ったが、鼻歌を口ずさみながら仕事を進めるシャルルくんを見て、それはないと察する。
一際は目立つ金色の髪、吸い込まれそうになるほど綺麗な青い瞳、クリームのように白い肌――シャルルくんの容姿は外国人のそれだ。
まあ、異世界である以上、日本人又は外国人という固定的な考えはないのだろう。
現に私の容姿を見ても驚くことはなかったし、異世界にも日本人のような容姿をした人間もいるのではないだろうか。
「あ、アリスお姉ちゃん……?」
私の視線に気づいたシャルルくん。
熱のこもった眼差しで見つめすぎたか。
だって、シャルルくんって小さいし、反応が可愛いから、からかいがいがあるし、私の理想のショタを体現したような存在なんだもの。見つめてしまうのはしょうがないことなのよ。
天は、ショタコンに優しすぎた。
ありがとう。
「シャルルくんをいやらしい目で見てた。抱き枕にしたいなーって」
「あれはもうごめんだからね!? アリスお姉ちゃんの胸大きいから、その……あ」
「なにに気づいたのかしら? ねえ、シャルルくん」
「ええと、言わなくちゃだめかな?」
「駄目! 言わないとお仕置きするわ」
「言ってもお仕置きするよね!?」
「お仕置きされるようなことを考えていたのね。仕事を一時中断して、こちらにきなさい」
「は、はい……」
シャルルくんをベッドに招き入れ、そのまま抱き締めた。脚を絡ませ、膨らみかけの胸を押し当てる。
「もうお仕置きされたんだから、正直に話しなさいな」
「胸が小さくなっちゃったから、その……」
「意識しないって思ったんでしょう。それで密着してみた感想は?」
「柔らかい……です……」
シャルルくんの色白な肌が目に見えて赤く染まる。
私の未成熟な体に興奮してくれている証拠だ。
「うふふ、ありがとう。嬉しいわぁ」
思春期真っ盛りの男の子には、嬉しいような、辛いような、お仕置き。
でも、それをやめようと思う気は一切起きず、そのまま4度目の睡眠に突入した。