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不思議の国の王子

「お姉ちゃん、お姉ちゃんっ!」


「んっ、んん……」


 目をこすり、ゆっくりと重いまぶたを開く。


 私の肩に触れているか細い手の主――金色の髪に青い瞳が目を惹く可愛らしい男の子が、体を揺さぶってくれたおかげで、意識が戻ってきたようだ。

 後頭部には優しく受け止めてくれる枕があり、これでもかというほどのスッキリな目覚めを演出してくれる。


「やっと起きてくれたんだね」


「ん、ごめん……」


「ぁ……っ」


 上体を起こそうとすると、寝心地のいい枕に手が触れる。

 その瞬間、男の子が甲高い声を響かせた。


「なになに、ぇ……」


 何事かと男の子と視線を合わせようとするも、男の子の華奢な体が目と鼻の先に――。


 くんくん、ハーブの匂いがする。

 すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……。現実疲れが抜けていくぅ……。


 男の子に膝枕されていることに気づいた私は、それを受け入れて、そのまままどろみに落ちていった。



☆☆☆☆☆



「お姉ちゃん、ごめんなさい」


 二度寝から目覚めた私に対する男の子の第一声は、謝罪だった。

 寝起きなこともあり、謝罪の理由が全くわからない。クエスチョンマークがてんこ盛りだ。


「ごめんなさい? なんで謝罪をするの? 私は助けられたのよ? 私がありがとう、って感謝するべきじゃないかしら」


「それが、ね。お姉ちゃん、自分の体を確認して見て」


「? わ、わかったわ……」


 ベッドの上で横になっていた体を起こし、自分の体に視線を動かす。

 しかし、先に目に入ったのは、いままで私が寝かされていたケーキのスポンジのようにふかふかなベッドや、クッキーで覆われた壁だった。さらに私の頭を支えていた枕はマシュマロ、布団は綿アメでできているみたいだ。


「これお菓子なのね。どれも美味しそう……」


「お、お姉ちゃん? まずは自分の体を見て欲しいんだけどな……」


「なによ? 寝ている間に、私の体に手を出したの? やだもう、やんちゃなんだから……」


「ボクのこと抱き枕にして寝てたお姉ちゃんに言われたくないよっ!?」


 私は男の子に膝枕をしてもらうだけでは飽き足らず、抱き枕にもしていたのか。

 小さい男の子の目の前にして、私のショタラブなリビドーが隠しきれなかったようだ。


「それで、私の体がなに……。……え?」


 ピエロと会うまでは部屋着を着ていたはずのに、現在は水色のドレスに白のエプロンを重ね着したエプロンドレスを身につけていた。

 その格好は、まるで私の名前の由来である『不思議の国のアリス』の主人公――。


 いやいや、ツッコミどころはそこじゃない。


「ごめんなさい。お姉ちゃんが寝言で喉が渇いたって言ってたから、お姉ちゃんの近くに転がってた瓶の中身を飲ませたんだけど……」


「私の体が小さくなってる!?」


 手と脚が短く小さくなり、唯一自信のあった大きな胸も膨らみかけのサイズにまで萎んでいた。身長も私を助けてくれた男の子とほぼ同じ高さになっていて、全身が幼くなっている。


「なんでこんなことに……。そもそもここはどこなのよ」


「ここは不思議の国だよ。ボクはその王子――シャルル・ルマール」


「歳を聞いても、失礼に当たらないかしら……?」


「昨日の誕生日で10歳になったばかりだよ」


「10歳……いまの私もそれくらいなのよね、たぶん。というか、いままでの態度が失礼に当るわよね!? ほんとごめんなさい!」


「ううん、気にする必要はないから。ボクがお姉ちゃんを助けなければ、お姉ちゃんが小さくなることはなかったし……でも、ボクがお姉ちゃんを助けていなかったら」


「死んでたと思うわ、ええ」


 倒れたいたところを一国の王子に助けられるなんて――まるで乙女ゲームの展開みたいね。

 これから王子に求婚されて、王妃として暮らしていくことになったりして……ないない。


「でも、お姉ちゃんを小さくさせてしまったのはボクが原因だ。だから、ボクにお姉ちゃんのお世話をさせて欲しい。いいや、本音を話すとお姉ちゃんの背中まである美しい黒髪、澄んだ大きな瞳――お姉ちゃんの全部に一目惚れしたんだ。不思議の国の王妃になってくれないかな?」


 ありえたあああああぁぁぁぁぁぁ!!


「……はい」


 私はたしかにそう頷いていた。


 ってことは今日からシャルルくんの王妃ってことよね……?


 王妃になった以上、可愛らしい王子――シャルルくんの足を引っ張るわけにはいかない。

 やることはやる。ひきこもり姫として過ごした日々とは、さよならバイバイする。


 私、これからシャルルくんの王妃として、頑張ります!

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