藤宮姉妹のお茶会3
会話が弾むお茶会で、なにかを思い出したかのように険しい顔を浮かべる栗栖。私たちに反応してもらいたいのか、わざと顔にシワを作り、大袈裟に溜め息をついた。
「ちょっと、ちょっとちょっと! なによ、栗栖。ブサイクな顔をされても、言葉にしてくれなきゃわからないわ。私たちは姉妹であって、双子じゃないんだから」
「つっまんなー。姉さんのギャグ古すぎるよ。流行りのネタも知らないなんて、ひきこもり歴7年の経歴は伊達じゃないね」
「それ褒めてないわよね!?」
「うん、褒めてないもん。貶してる……かな。うん、貶してる」
「この愚妹は……! 大事な妹が悩んでるから、話くらいは聞いてあげようと思った、姉の優しさを返しなさい!」
「妹を見捨てて、ひきこもった人が姉気取りですかそうですか。別に姉さんの優しさなんて、今更必要ないもんねーだ」
「姉からの忠告だけど、構ってちゃんとかやめた方がいいわよ? 家族から見えてもうざいんだから、他人からだとなおさら……ねぇ」
「2人とも、ドー、ドー」
「「私たちは猛牛か!」」
シャルルくんの仲裁に私と栗栖のツッコミが重なる。さすが姉妹。息がぴったり。
姉妹喧嘩は一時中断。シャルルくんにお茶菓子も没取され、おやつタイムも終了。
栗栖が私とシャルルくんをお茶会に誘った理由――本題に移っていく。
「姉さんの節穴でも、不思議の国に異常現象が起きてるってのはわかるよね?」
「真面目な話のときくらい、人を煽るのはやめなさいよ、もう……。ええ、私の節穴でもわかるわ」
わかってはいても、病み上がりの私が不思議の国全域にリライトを使えば、書き換える効果が私の体や不思議の国にどのように左右するかわからない。もしかしたら、制御が上手くいかず、『ひきこもり姫2』を破壊に追い込んでしまう可能性も――そのため、私の力では現状を打破できない。
栗栖もリライトを行使できるようだが、ある一定の時間が経過すると自分の意思とは関係なく効果が切れるようだ。シャルルくんNTR事件で見せたものが、彼女のリライトの限界であるならば、世界を完璧に書き換えることはできないだろう。
うーん、難しいわね。
「シャルルくんも、いまの状況は変だなーって思うよね?」
「もちろん。お菓子が腐るのは、不思議の国では異常事態だもん。この庭園はなにも問題はないみたいだけど」
「お、その言葉を待ってたんだー。お姉ちゃんの意図を汲み取ってくれるなんて偉いね、偉い偉い」
「えへへ」
「栗栖! 私とシャルルくんとで対応が全く違うわよね!?」
栗栖のなでなでに身を委ねるシャルルくん。
女の子に慣れていないシャルルくんが我が妹に懐いてくれるのは嬉しい。でも、だからといって、好きな人が他の女の子を甘える姿を見るのは、胸が締めつけられて痛い。
――これが嫉妬?
「そんなバカな。ふふ、ありえないわ」
「そう、修正パッチのおかげで、この庭園内はゾンビがあふれ出てくる前の不思議の国に戻すことができた。まあ、修正パッチが機能するかの実験で、偶然成功しただけなんだけどね――って、あたしに話させておいて、姉さんは耳と心を傾けるつもりはあるの!?」
「傾けてる傾けてる。ここだけは普段の不思議の国と似ていると思っていたけど、そういうことだったのね」
「修正パッチ……? その修正パッチっていうのを使って、不思議の国を元通りにすることってできないの、クリスお姉ちゃん」
「修正パッチは容量がすごく重いから、不思議の国全域――『ひきこもり姫2』に適応されるまで、かなりの時間がかかっちゃうんだよね」
と口にしながらも、勝ち誇ったようにほくそ笑む栗栖。
私もそれを見て、勝利を確信した。仲直りした藤宮姉妹に敵はいない。仲直りした藤宮姉妹にコンテニューなどありえない。
だから、栗栖に軽口で絡むことができる。
「でも、すぐにこのゾンビであふれた不思議の国を叩き割る方法くらい考えてあるんでしょう、天才・藤宮栗栖。でなきゃ、あなたから顔を出さないものね」
「当然! その代わり、姉さんには、ゾンビであふれた不思議の国をクリアしてもらうから」
「シャルルくんとの将来のためなら、どんなクエストもノーミスクリア。シャルルくんが攻略対象のイチャイチャ新婚生活√に突入してやるわ」
妹の前でも無遠慮にお花畑な頭の中をさらけ出す。演じてハスキーな低音ボイスを発し、ドヤ顔だからこそ、なお痛々しい。
でも、主人公みたいでカッコイイでしょう?




