藤宮姉妹のお茶会
私とシャルルくんは、追いかけてくるゾンビの群れを振り払い、私たちが暮らしているウェディングケーキの城からそう遠くない距離に位置する庭園にたどり着いた。
庭園内は、不気味な雰囲気が漂う外の世界とは違い、花々をかたどったマフィンやマドレーヌが美しく咲き乱れ、香ばしく甘い匂いが充満している。視覚的にも、聴覚的にも、初期化中断前の不思議の国と類似していて、とても居心地の良い場所だ。
「ずっと思ってたんだけど、不思議の国って色んなものがお菓子でできてるじゃない? 口に含んでもお腹を壊したりしないのかしら」
「形が特徴的なだけで、味は普通のお菓子と一緒だよ。でも、食べても食べても減らないから、糖分を摂取しすぎて糖尿病にならないでね。運動をいっぱいすれば、大丈夫だと思うけど」
「ひきこもり歴7年のか弱い女の子に運動を強いるなんて、なんて酷なことを言うのよ!? 甘いものが口の届く範囲にあるのに食べられない。いままでぐーたらな生活を送っていた自分が憎い……!」
「これからは少しずつ体を動かしていこうね、アリスお姉ちゃん」
「はい」
私の将来を考えてくれているシャルルくんに喜びを覚えるも、お菓子をお腹いっぱいに食べれないのは辛い。現実世界では、ベッドで横になりながら、携帯ゲーム機を片手にお菓子を貪り食べていたから。いまの状況がとても辛い。
でも、シャルルくんとお菓子、どっちが大事かと問われれば、やっぱりシャルルくんと答えるので我慢することにします。
庭園の中央付近に差し掛かったところで、お茶菓子が所狭しに並べられた大きなテーブルを発見した。
グー……。
お菓子の中には、私の大好物であるポテチ。さらにテーブルに敷かれた赤色のテーブルクロスは食欲を掻き立てて、さきほどの決意が鈍りそうになる。
「少し休憩していくのはどうかな? ボクがちゃんと監視をすれば、食べすぎることもないだろうしね」
空腹を知らせる音を聞いたシャルルくんが、意図を汲み取ってそのような申し出をしてくれる。
こんなに気配り上手だと、優しさを少し見せただけで他の女の子が勘違いしないか心配である。優しすぎるというのも考えものだと思うひきこもり姫だった。
「アリスお姉ちゃんはリライトを使って体力消費してると思うし、ボクが監視してれば、お菓子を食べすぎることもないでしょ?」
「やっ……タァァァァァァ!」
「でも、止めても食べ続けたら、ボクを抱き枕にするのを禁止するから!」
「私から、抱き心地サイコーの抱き枕を奪うの!? 鬼なの!? 半口食べたら、それで終わりって言うつもりでしょう!?」
「そこまで鬼じゃないからっ! 別にボクもアリスお姉ちゃんの抱き枕になるのは嫌じゃないし……」
すぐに私たちの間で始まるカップル漫才。次から次へと繰り出される言葉の掛け合いを楽しみながら、私たちはイチャイチャしている。
しかし、他者がそれを楽しいと思うはずもなく――。
「長い……長いっ! いつまで私を待たせる気のな!? リア充カップルは爆発してっ! ばーかばーか」
庭園に甲高い叫声が響く。
短いスカートにもかかわらず脚を組む日焼け肌の少女。激しく踊るツインテールが彼女の怒りを表しているようだ。
「クリスお姉ちゃん! またアリスお姉ちゃんを狙って――」
「もうやめたんだよねーそれ。姉さんを消したところであたしの人生が改善されるわけでもないし、シャルルくんは姉さんにメロメロだからつまんないしぃ」
「じゃあ、なにが目的なのかしら?」
「まあまあ。立ち話もなんだから、座って座って。姉さんが好きなポテチも準備したからさ、ゆっくりお茶会でもしよっ?」
栗栖に促され、しぶしぶ大きなテーブルの席に腰掛ける。
栗栖とテーブルを囲んだのはいつ以来だろうか。それが思い出せないほどに私は家族との関わりを絶っていた。
それを挽回するわけではないが、このお茶会は姉妹の仲直りにもってこいな機会だ。シャルルくんが隣にいてくれることも心の支えになっているし、目指せ姉妹仲復元!




