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『ひきこもり姫』

 ほとんどの建物が崩落し、廃墟と化している。外は酷い有様だった。

 お菓子でできた不思議の国から、いまにも幽霊が飛びそうなホラーゲームの世界に迷い込んでしまったようだった。


 リライトで世界を書き換えれば、この状況を打開できるかもしれない。あらゆるものがお菓子で構成された不思議の国に戻せるかもしれない。

 けれど、初期化を無理矢理中断したことによる1週間の昏睡――まだ本調子ではない私を心配したシャルルくんにリライトの行使を極力避けるよう釘を刺されている。


「シャルルくん、怖くない? 大丈夫?」


「こ、怖くないよっ! アリスお姉ちゃんこそ、怖くないの……? ゆ、幽霊とか……」


 いまにも幽霊が出てきそうな不穏な空気。

 シャルルくんは、それを肌で感じているのか、体が小刻みに震えていた。


「怖くないわ。だって、私の隣にはシャルル王子がいてくれるんですもの。王子は王妃を守ってくれるものでしょう?」


「もちろんだよ。ボ、ボクに任せて」


 涙目を浮かべながらも、シャルルくんは強がる姿勢を崩さない。

 怖いのが見え見えで隠しきれてないからこそ可愛い。すごく可愛い。「大丈夫? おっぱい揉む?」とつい甘やかしてしまいそうになるが、ここはグッと堪える。


 まあ一度甘やかすと、止まらなくなっちゃうから。

 自制心の強い自分が憎い……!


「あれ、あれって……?」


「ん? どうしたの、シャルルくん。怖がりすぎて変なものでも見えたの?」


 シャルルくんの視線を追って、そちらに目を向ける。

 そこには、錆びれた屋敷を背景に3人の男の姿があった。


 1人目は、騎士の装いをした、金髪碧眼の正統派イケメン。西洋風の甲冑を纏い、金色に輝く剣を腰に下げていた。


 2人目は、笑顔が愛くるしい美男子。2房に結ったツインテールと着用しているメイド服が合わさって女の子と見間違いそうになるが、骨格や肉付きからたぶん男性である。


 3人目は、私やシャルルくんとほぼ同じ身長の男の子。いかにも大人を見下していそうな鋭い目つきをしている。


「う、ううん?どこかで見たことがあるような……?」


 彼らから既視感を覚える。

 しかし、彼らのような神が贔屓して作り出したのではないかと疑ってしまうほどのイケメンを現実で目にしたことはない。


 ゲームのパッケージイラストや携帯ゲーム機の画面であれば話は別だが、


「あ……。あァ!?」


「うわっ……アリスお姉ちゃん、どうしたの!?」


「私、思い出したのよ。あのイケメンたちの正体に!」


「イケメン……。ボク、アリスお姉ちゃんの王子なのに一度もそんな褒め方されたことないよ? なのに、他人のことは簡単に口にできちゃうんだね……」


 後半になるにつれて声のボリュームが小さくなり、眉間にしわ寄せるシャルルくん。むすっとしていては、可愛い顔が台無しだ。


 シャルルくんはカッコイイよりも可愛いが売りの男の子だと思っているので、なかなかイケメンと褒める機会がなかった。

 でも、シャルルくんがそれを望むのであれば、叶えてあげるのがお姉ちゃんの役目である。

 シャルルくんには、命を助けられたり、ピンチを救われるなどカッコイイ場面を何度も見てきた。またそのような場面に出くわすことがあれば、イケメンと口にできる日はそう遠くないはずだ。

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