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リライト4

 シャルルくんの部屋には、私とシャルルくん、そして栗栖がいた。


 ちなみに栗栖は、シャルルくんに夜這いをしかけるも失敗に終わっている。栗栖のお子様な色気では、シャルルくんを籠絡できなかったようだ。


「何で偽者だってわかったの?」


「私も気になる。教えてくれるかしら、シャルルくん」


 シャルルくんは、私に瓜二つの容姿で演技も完璧だった栗栖を私ではないとなぜ言い当てることができたのか。それを追求している最中だった。


「ええと、それはね――」


 ごくりと唾を飲み込む。


 乙女な私としては、例え直感だとしても愛の力を理由にしてくれたら、喜びの舞を奉納することだろう。


「愛の力って言いたいところだけど、そうじゃなくて」


「違うの!? なによ、いまのフェイントは! ぬか喜びさせないでよ、もう……」


「あっ……あはは、ごめんね?」


「はぁ……そうやって2人だけの空間を作ってさぁ……イチャイチャされると話が進まないから、姉さんは静かにしててもらっていいかな? 」


「うぅ……」


 栗栖に正論を吐かれ、しくしく口を閉ざす。


「それで理由はね、アリスお姉ちゃんはちょっと強引なところはあるんだけど」


「あの姉さんがショタ相手にちょっと……?」


「アリスお姉ちゃんは、ボクがいいよって言うまで待ってくれるんだ。お仕置きするからって脅されたこともあったけど、やっぱりボクがそれ受け入れるまでなにもしなかった」


「あれ、そうだったかしら? まあ、シャルルくんが言うならそうよね!」


「でも、あなたは有無を言わさずにボクを襲った。それが別人だって気づくことができた理由。――アリスお姉ちゃんは、ボクの嫌がることをしない」


 たしかに栗栖はシャルルくんに選択の余地を与えることなく、実力行使に出た。私も強引な部分があると自覚しているが、栗栖の場合はそれ以上ではないだろうか。


「まさか姉さんがそこまで奥手だったなんてね。ふあ……また失敗失敗」


「これで終わりね、栗栖。さあ、私のことは諦めて、現実世界に戻ってくれると助かるんだけど」


「姉さんが助かることを進んでやってあげるほど、あたしはできた妹じゃない。それは姉さんがよく知ってるよね……!?」


「く、栗栖……? あなた何をするつもりなの……」


 その刹那、世界が歪んだ――。


 シャルルくんの部屋に転がっていた、私がリライトで作製した携帯ゲーム機が消えた。


 自室から持ってきた私物が見当たらない。


 私が不思議の国に飛ばされて、シャルルくんと出会ってから積み上げてきたものが消滅していく。


 ということは、私が生み出したシャルルくんも――。


「栗栖、それはダメよ! やめてッ!」


「これはあたしのとっておき。ごめんね、姉さん。――初期化」


 初期化(フォーマット)――データを削除し、最初の状態に戻すこと。


 栗栖は自分をも巻き込んで、私やシャルルくんをこのゲームの世界から消すつもりだ。


 それは『ひきこもり姫2』にとっては、最善の選択である。初期化されることによって、本来、存在してはならない私たちが消え、本来いなくてはならない主人公の女の子や攻略対象の男性陣が復活するのだから。


 でも、私たちにとっては、それはbadエンドでしかない。

 もう『ひきこもり姫2』は、私たちの世界だから。

私とシャルルくんの"好き"を育むことができる唯一の世界なのだから。


 だから、妹の愚行は許さない。姉である私が止める。


「――リライト」


 脳がかち割れるような痛みが走る。

 痛い、すごく痛い、ちょー痛い。


 この激痛は、私のリライトに反応している対ウィルスアプリmk2が原因。

 私にピンポイント過ぎる効果だ。栗栖が私のことをどれだけ嫌いなのかよくわかる。

 でも、嫌われているからといって、私は妹を見捨てられない。


「あたしは姉さんが嫌い。姉さんがひきこもったせいで、あたしが姉さんの分まで親の理想を背負うことになった。勉学も首席を期待されて、それに沿うように努力した。あたしに選択権なんてなかったから。でも、1つだけ……交友関係には一切口出しをしてこなかった。たぶん、姉さんがひきこもりになった原因は、友達がいないことにあるって考えたからだろうね。だから、男を手玉にとって好きなように遊んだ。相手の心を虜にするのは、すごく優越感があって――楽しくなっちゃった♡ なのに、なのに!」


「ごめ、ね……シャルルくんは、私にぞっこんだから……」


「ほんっとーに、姉さんはあたしの楽しみの邪魔ばかりするね……! そして、今度は――」


「妹が自殺紛いのことをしてて、それを止めない姉がいると思う……?」


「くっ……。そういうときだけ姉さんぶって。普段からそうやってくれたら、あたしは姉さんを嫌いになることなんてなかったのにっ!」


 妹の素直な気持ち。

 嫌いになることなんてなかったということは、"好き"になれる可能性があるということ。

 これからは妹とも"好き"を繋ぎたい。


 そのためにも――。


「リライトリライトリライトリライトリライトリライトリライトリライトリライトリライトリライトリライトリライトリライトリライトリライトリライトリライトリライトリライトリライトリライトリライトリライト。ァ、がァッ……!」


「アリスお姉ちゃんッ! そんな無理をしたら、アリスお姉ちゃんも消えちゃうよ!? だから、ボクを頼ってよ。1人じゃできないことでも、2人なら……!」


 意識が遠のく寸前でシャルルくんに支えられる。


「シャルル、くん……?」


「ここはボクたちの国だよ。なら、王妃だけに国を背負わせるわけにはいかないでしょ?」


 腰に手を回され、抱き合うような体勢になる。

 私が倒れないように強く。

 しかし、私を気遣う優しさを忘れない。

 幸せが心から溢れてくるような心地よさ。


「ありがとう、シャルルくん。私、あなたを"好き"になってよかったわ……」


「ボクもアリスお姉ちゃんと過ごした日々は、短い人生の中でも一番楽しかったよ! 好き! 大好き!」


 さあ、2人の世界を始めよう。


「「――リライト」」


 私とシャルルくんが紡いだ言葉。

 それはゲームの世界を書き換える魔法の言葉。

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