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第六章 魔術師ノロロと消えたキンド

「星の谷なら知っていますよ」

と言う人にタクミは初めて出会った。旅に出てちょうど一ヶ月になったときだ。その人は国境地帯の宿屋で出会った人で、いつも右脇に本を大事そうにかかえている優しそうなお兄さんだった。その宿屋は繁盛して部屋が足りなかったのでタクミはその人と相部屋になったのだ。その人はひまだったのかタクミに話しかけてきた。

「君はどこに向かっているんですか?」

「星の谷です」

とタクミが答えるとその人は驚いたように言った。

「ほほう、それはすごい」

星の谷と聞いてそんな反応を見せた人をタクミは初めて見た。だからタクミはたずねてみた。何かのきかっけになるかもしれないからだ。

「あなたは星の谷を知っているんですか?」

するとその人は答えた。

「もちろん、星の谷なら知っていますよ。ボノ国からフォルタ帝国を通ればもう星の谷の領域です。しかしあそこを目指すとは、すごいですね。いえいえ、もうそろそろ、その時期でしょうか?ここであなたとお知り会えて光栄です。私の名前はノロロと言います」

相手が自己紹介したのでタクミも名乗った。

「申し遅れました。僕はタクミといいます。ノロロさんも星の谷へ行ったことがあるんですか?」

するとその人は笑いながら首を横にふった。そんなことはあるはずはない、と言いたげなそぶりだった。

「私には資格がありませんから」

「資格?」

「そうです、資格です。あなたは誰かにそこに行け、と言われたから行くのではないですか?」

タクミはエグーロのことを思い出しながら答えた。

「はい、そうです」

「それが資格です。あなたはその人に選ばれたのです」

タクミはなんだか、良いことを聞いたような気がした。

「そうなんですか、ありがとうございます。ところでノロロさんはどこを目指しているんですか?」

ノロロは言いにくそうに言った。

「私はどこかを目指しているんです。でもどこを目指しているのかを忘れてしまいました」

「ではどこから来たんですか?」

ノロロは前と同じように言いにくそうに答えた。

「どこから来たのかも忘れてしまいましたよ」

「そうなのですか」

少し間があった。その後でノロロはタクミに聞いてきた。

「あなたの右の耳穴に蟻がいますよ」

タクミは、なんだ、という顔をして答えた。

「あ、これは僕の使い魔です」

それを聞くとまた、ノロロは感心したように言った。

「ほう、蟻の使い魔とは珍しい。私もそんな律儀な使い魔が欲しいものです。」

タクミは驚いた。使い魔を持てるのは魔法を使える人だけだからだ。

「ということは、あなたは魔法使いなんですか?」

するとノロロは力なく笑った。

「どうでしょう、魔法使いなんてものじゃありませんよ。魔術師くらいなものです」

そう言うとノロロは眠ってしまった。キンドもこの話に加わらなかったのでもう眠ってしまったようだった。誰も話し相手がいなくなったので、タクミも眠ってしまった。ノロロの目がどんな目だったかはすっかり忘れてしまった。

 翌朝、目覚めるともうノロロはいなかった。かわりに部屋に警察官がいて部屋の中をうろうろしていた。何をしているのだろう。ねぼけまなこでそう思っていると警察官は目覚めたタクミに気づいて聞いてきた。

「私はエスペラント王国の警察官だ。ノロロと名乗る男がどこに行ったのか、君は知っているかね?」

タクミは正直に答えた。

「いえ知りません。昨晩まで同じ部屋でしたが、起きたらノロロさんじゃなくてあなたがいました」

警察官は残念そうな顔をした。

「そうか、もしノロロを見つけたら私に連絡してくれ」

そう言うと警察官と名乗る男はタクミに名刺を渡してどこかに行ってしまった。警察官はまじめそうな目をしていた。悪い人じゃなさそうだ。彼に渡された名刺には

「エスペラント王国三等警察官

     グルコ・グリコ

 どんな事件も解決します」

と書かれていた。これじゃ、ノロロを見つけてもどこに連絡すればいいのかわからない。

「警察に追われているってことは、ノロロさんって犯罪者なのかな」

とタクミはキンドに聞いてみた。しかしキンドからの返事は無かった。

「眠っているのか?五本足?」

ティッシュを細く丸めて右の耳穴につっこんでもそこにキンドはいなかった。シャツをたくしあげてへそ穴を見てもそこにキンドはいなかった。

 キンドがいなくなってしまった。使い魔がいなくなるなんて聞いたことがない。しかも置手紙もないなんて。ちょっとさびしすぎるじゃないか。タクミは右手の小指を見てみた。そこにはもう星の印はなかった。タクミはフォルミコの言葉を思い出した。

「タクミがこいつを必要としている間はずっとこいつがそばにいます」

ということは、タクミはもうキンドを必要としていないのだろうか。

(そんなことはない)

とタクミは思った。

(まだ僕にはキンドが必要だよ)

タクミはだまって何も書かれていない右手の小指を口にいれてちゅぱちゅぱした。

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