20.サラマンダー覚醒
――kyoji
ネットを組む。……コイツァ便利な技術だ。
Salamanderでは、Dragonの迎撃には、タイミングを合わせて焼き払うしかなかった。
だが。Walkyrieの防壁・或いは場合によってはジュンナのAegisも使える。
使うタイミングは限られるが、『出来ない』のと『条件付で出来る』との差はデカイ。
逆に、攻撃にもタイミングが限られることがデメリットが生じそうだが、攻撃は一瞬の発動さえ出来ればいいのだから、ほとんど影響が無い。
俺は、今回の出撃、ほとんど危うげなく、次々にCVのヤンキー共を狩っていった。
数度、帰還してエネルギーも補充し、日が傾くまでに、200や300はCVを墜としたと思う。
だからか。
心のどこかに慢心があったのだろう。今、俺は一人で50人ほどのCVに囲まれ、絶体絶命のピンチに陥っていた。
援軍要請はしている。だが、徐々に遠くの敵を狙っていた俺は、他の仲間と、かなりの距離を作ってしまっていた。
ああ、死亡フラグって本当だったんだなぁ、などと思いながら、一人でも多くのCVを道連れにしようと、捨て身で暴れていた。
ゴメン、ジュンナ。俺、帰れそうにねぇ……。
心が弱った、その一瞬の隙だった。
ドクンッと、心臓が強く脈打った気がした。
『力が欲しいか?』
心の中で、そんな声が聞こえた気がした。
『ああ、欲しいね!こんなトコで死にたくねぇ……』
心の中で、そう返した。
『ならば、支配権を譲ることを許可せよ。
さすれば、絶大な力を発揮して見せよう!!』
『何だか分からんが、助かるなら、幾らでも許可するぜ!
頼むよ、俺を助けてくれよ!』
『承知した!』
直後、意識がフッと遠のいた。
ああ、俺、死ぬのかなと思った。
次に気付いた時、俺は、自分の目で見た視界でありながら、どこか第三者が俯瞰で見ているように、その光景を眺めていた。
即ち――絶大な力を発揮して、俺が50人のCVを手玉にとって、次々に仕留めていく様を。
「次!」
俺の口が俺の意の外でそんな声を発した。
「『流星弾』!」
巨大な火の玉が、何人ものCVを飲み込んで、一撃で消し炭にしてしまう。俺の使うSalamanderでは、そんなに高い威力は発揮できない。一人を飲み込む程度の威力がせいぜいだ。
ついでに言えば、敵の攻撃は、俺の纏う炎のオーラに触れた瞬間、燃え上がって消え去ってゆく。なのに、その炎は俺の身を焼くことは無い。
そのうち、何人かがDragonの制御するエネルギーを槍状にして突いてきた。ああ、あれは厄介なんだ。簡単に燃やせないから、避ける必要がある。
こちらが避けるのを見て、それが有効な攻撃である可能性に気付いたのか、CVの連中は次々に槍を構えて間合いを詰め、俺を追い詰めようとする。……それが、罠であることにも気付かず。
「『インフェルノ』!!」
拳を掲げ、地面に向かって叩きつける。炎が爆発したかのような勢いで激しく燃え広がる。随分と威力の高い炎なのか、槍状のエネルギーも焼き払い、当然――攻撃を受けた連中は、一瞬にして燃え尽きる。残ったCVは数えるほどしかいなく、俺を操っている何者かにとって、もはや脅威となる敵ではなかった。
敵を一掃すると、俺の意識を乗っ取っていた何者かは、俺に意識を返して、意識の中でこう言った。
『この程度には、我を使いこなしてもらわなければ困るぞ、マスター。
我は、エネルギー制御のサイコソフトの炎属性。全身からエネルギーを集めれば、この程度の芸当はマスターにも出来るはず。
マスターは我の、S超過適性者なのだからな』
『……何だか分からんが、ありがとうよ。おかげで助かった』
「さて」
一瞬、膝が笑う。全身からエネルギーを集めればという話は、例え話ではなかったのだろう。すぐにでも、エネルギーを補充する必要がある。
テレパスで連絡を入れてから、テレポート帰還の用意をする。
敵は、あとどのくらいいるのだろうか……。
一人で100や200仕留めた程度では、焼け石に水という気もするが、それでも、コツコツと撃破していかなければならない。
「ただ……」
意識を乗っ取られて、思うところはある。
「アイツに頼らずに戦えるようにならんとな」
キョウジは、再び糖分補給のために帰還した。