17.ネット
しばらくエルサレムで、三人で無言のままパフェを食べていた。
僕から、話を切り出さなければならないだろうか?
恐らく、カエデちゃんの秘匿してる情報は、今、必要であるものがある程度含まれている。
「あの……」
「何?」
反応したのは、エルザさんだった。
「いや、カエデちゃんに聞きたいことが……」
「……私はどうでもいいっていうこと?」
「いや、そうじゃないですが……」
……事態は深刻のはず。
エルザさんは気にせずカエデちゃんに話を聞こう。
「カエデちゃん、ちょっといいかな?」
「……何?」
「もしかして、何か隠してない?」
「うん。……色々」
「……この状況で、役に立つ情報も隠してない?」
「うん」
ここは、素直に聞く一手だろう。
「ちょっと、教えてくれないかな?」
「いいよ」
いいよとは言うが、カエデちゃんは僕から離れて、店内にいるクルセイダーの一人に声をかけに行った。
「お姉さん、人数が欲しいんだけど。出来ればテレパシストで」
「なぁに、お嬢ちゃん。何か悪いことでも企んでいるの?」
「そう。面白いことをしようと思って」
「何人ぐらいいればいいの?5人?10人?」
「うん。実験には丁度いい人数だね。
10人、すぐに集められる?」
「いいわよ、集めてあげる」
何をするのだろう……テレパシストなどを集めて、何の意味が?
「これは、式城紗斗里の発見した、秘密の技術だよ」
「……ヒミツなのに、教えていいのかい?」
「活用しなければ、どんな優れた技術も存在しないと同じ」
間もなく、10人ほどのテレパシストが集まった。……女性が多い。男性で使えそうなのは戦闘に連れて行かれているからだそうだが。
「難しい原理は分からない。
でも、僕と同じようにテレパシーを繋いでみて。
このコツを覚えると、人と超能力を使う才能の共有が出来るから」
「……どういうこと?」
「例えば、この10人でこのコツを覚えてテレパシーのネットを組むと、10人の才能を合計した値の超能力を、使いたい人が重複しない限り誰でも使えるようになる。
足した値の半分ずつを2人が使ったり、とか。
相当便利なはずだけど?ソフトは1つ繋がっていれば大丈夫だし」
中々、意味が伝わらなかったが、30分後には、それがとんでもない技術だと判明した。
「『Walkyrie』が1つで全員が戦闘力になる!!」
女性専用軍事用サイコソフト、『Walkyrie』。今現在、戦闘参加者以外が所有する唯一の戦えるサイコソフトだが、それ1つで、いきなり10人以上の戦力が発生したのだ。テレパシーを使う才能も共有されるため、いくらでも人をそのネットに組み込むことが出来、同時に使える能力には制限があっても、一時的には、その全員が戦闘に参加できる。テレパシーを繋いでいるのだから、連絡はすぐに取れるし、今、女性はよほど強力なジュンナみたいな戦力以外は、戦闘から外されているから、女性用のそのサイコソフト1つが戦況に与える影響力は大きい。仲間を見つけたら順次ネットに組み込めば、その全員の戦闘能力が向上する。
「……こんな情報、教えちゃって大丈夫だったの?」
「事態がこんな状況でなければ、教えなかった。
この状況を打破するには、このくらいの秘密兵器が必要だと思ったから」
「ありがとう、カエデちゃん!」
『ネットを組む』。カエデちゃんは、この技術のことをこう呼んだ。
……世界に、インターネットが登場した時並みの破壊力だ。
「僕らは、リョウ君を掴まえに行こうよ。
怪我人を治せるなら、この状況、より有利になるでしょう?」
「そうだね。
エルザさん、護衛として一緒に来てもらえますか?」
「いいけど……危険じゃないの?」
「この際、今、日本にいて、安全の保証のある場所は存在しないでしょう」
「……そうね。じゃ、行ってきましょうか」
これで、状況が改善されれば良いのだが。
超能力を封じる能力しかない僕に、手助けなんて出来ない。
それなのに、この状況に陥った原因の一端を僕が持っていることが、申し訳なくてならなかった。
自分の無力さを感じる……。
何か、力になれることがあればと、思わずにはいられなかった。