16.エルサレム
都心にある喫茶店、『エルサレム』。
……もとい。
『パフェ専門店・クルセイダー御用達の店』、『エルサレム』。
着いてすぐに、メニューを見せられて、「どのパフェにする?」と言われて、とりあえず30種ほどもあるパフェのメニュー中からそれぞれ1つずつ選ぶまで待たされた。
「何しろ、脳にエネルギーを必要とするからよ。ちなみに、砂糖の代わりに全てブドウ糖を使ってるんだぜ!」
僕はコーヒーパフェ、カエデちゃんはフルーツパフェ、エルザさんはトマトパフェだ。
値段は安い。1つ300円だ。……と思ったら、あまり大きくないパフェが出てきた。
「お代わりは1つ100円な。
一人三杯は食べる計算で量を調整されてあるから、気にせずお代わりしろ。違うパフェでもお代わりオーケーだぜ」
チョコレートパフェを豪快に30秒ほどで消費するキョウジ。お代わりはイチゴパフェだ。
「……食わんのか?」
「とりあえず、情報交換を。
あなたがキョウジさんで、そちらがジュンナさんで間違いないかな?」
「ああ。
そういや、名前すら聞いてなかったな」
「僕がハヤト。この子がカエデ。そっちがエルザさんです」
「よろしく頼むわ。
いや、こないだはスマンカッタ」
あっさりと頭を下げるキョウジ。心の中にあった蟠りが、少し軽くなった。
「緊急時だ、まぁ、これで手を組もうや。
制圧されたのは、テレビ局全局だけではない。代表的なところで、国会議事堂とか、な。
主要な駅も、制圧されようとしている。
……奴らの主目的は、『Hanuman』の奪回だ」
「……そんなに大事なものなのか?」
キョウジはジュンナに合図する。
「あちらのお偉いさんが、不老長寿の手段に、ご執心のようでね」
「……ホントに、そういう代物なのか?」
「さぁね。他に可能性が無いだけ。
でも、あちらさんは見逃すつもりは無さそうよ」
「……そうでしょうね」
サイコソフト1つのために、Yamato制圧かよ……とは思うが、話を聞くと、『CV(セレスティアル・ヴィジタント』という連中は、相当ヤバいキラーチームらしい。キラーチームという呼称も、元は彼らを指すために作られた言葉で、他のキラーチームにとってはいい迷惑らしい。何しろ、結成初期から殺人が当たり前の集団だったというのだから……。
「Athene使いさんには、戦力として期待したいが……戦いたくないというなら、断られても仕方ないとは思っている」
「もちろん、戦いますけどね!」
あまりの即断即決に、キョウジが怯む。
「そ、そうか……。それは心強い。
いやぁ……何しろ、戦闘用のサイコソフトが足りなくてな。
まぁ、そんなものが簡単にゴロゴロと手に入る、っていう社会だったら、それはそれで問題だろうが。
――人数では負けない!
だが、戦力では、負けるかも知れん」
「ふぅん……」
フルーツパフェを食べていたカエデちゃんが、何か言いたげだった。が、それを言わせて巻き込みたくない。今さらという話もあるが、子供を戦争に駆り出すのはどうかと思う。
「……僕は、役立たずなのかな?」
「ああ……そうだな。『Hanuman』を奪われるとマズいし、護らせていただこう。
何故、何の手段も講じずにESP系の探査に引っかかってないのかは謎だが……。
まぁ、問題ないだろう!」
「……別に、向こうの識別する手段を誤魔化してしまえばいい」
「……」
カエデちゃんの呟きがイチイチ気になるが、まぁ、気にしたら負けだ!
「……それで?」
「あ、ああ……。
――敵は幸い、分散している。
各個撃破を狙いたい。
Athene使い、アンタ、名はエルザだったか?」
「はい。よろしく!」
「そうか。
エルザさん。アンタは、俺と一緒に来てくれ!」
「えー!!
私はハヤトを護ります!」
「……」
キョウジが、僕の耳元に口を寄せる。
「……さっき、戦うって言ったよな?」
「……気にしたら負けですよ」
「……。
そうか」
どうやら、諦めてくれたようだ。ジュンナさんと仲が良さそうだし、女性というものへの対応に、多少は慣れているのだろうか。
理詰めで話しても、女性は理解してくれない。直感と気分で生きる生き物だからだ。その代わり感情で勝負する恋愛とかなら、男では太刀打ちが出来ない。
「……じゃあ、俺ら、ちょっくら連中にひと勝負、仕掛けて来るわ」
さて。彼らは一度、この場を去ってくれるようだ。
僕は、カエデちゃんに、確認したいことが幾つかあった。
恐らく、カエデちゃんを見た目相当の年齢と考えない方が良い。
何らかの情報を握っていることは、ほぼ確実だった。