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14.お泊り

 泊めてくれ――


 その提案に、頭がクラクラした。

 とりあえず、終電は逃した。

 それは分かる。


 とりあえず、「タクシー代」と言って万券を一枚差し出した。

 エルザさんは、「もったいない」と言った。


 とりあえず、30分ほどかかって駆け引きで年上の女性には敵わないことを思い知ってから、エルザさんと僕の自宅に戻った。


「どうしたの?」


 カエデちゃん。そうなるよね?


「泊めてもらうの♪」


 ……何故に楽しそう!?

 若い男の家だぞ!?襲われる可能性は考えないのか!?


「一緒に寝ようね、カエデちゃん♪」


 ……そういうことなら安心だ。

 ただ……僕が眠れるかどうかが不安だ。


「……僕はソファーで眠るよ」

「ちょっと!幾ら何でも……そんな寂しい眠り方……」

「イイデスカラ。オヤスミナサイ……」


 どうせ眠れないんデス。関係アリマセン。


「……どうする?」

「……眠らせる」


 エルザさんの問いかけに対するカエデちゃんの発言を不穏に思ったのも束の間。一瞬の後には、僕の意識は失われていた――


 ――翌朝。


 ベッドで眠る僕。暖かい布団と……腕に触れる、暖かくて柔らかいもの……。


「ふぉぉぉぉ!!」


 布団から跳ね起きた。……何故にエルザさんと一緒の布団で僕は眠っていたんだ!?


「うん……寒い……。

 ……あ、おはよう」


 エルザさんは何事も無かったかのように、布団を僕の手から奪い、再びの眠りに落ちた。


「……カエデちゃんが朝ごはん作ってるから。

 出来たら起こして……」


 そういう問題か!?

 ヤベェ……。記憶には無いが、「手を出された。責任を取って」と言われたら、反論が出来ない……。

 経済的には、十分な余裕はあるが……。

 いっそ、手を出した記憶が残っている方がマシだった。


 コンコンッとノックの音。


「朝ごはん、出来たから」

「はぁ~い」


 ゴソゴソと起き出すエルザさん。


「……着替えるから、ちょっと、出ててくれるかな?」

「……その前に、確認したいことがあります。

 その……僕たちは、昨晩、何かあったのでしょうか……?」

「ううん。何も。

 ……何かあった方が良かったの?」

「いえいえいえいえ!

 じゃ、出て行きますんで!」


 そういえば、エルザさん、僕の予備のパジャマを着ていたけど……。

 ……刺激が強すぎる……。


「先に食べてて~」


 とりあえず、朝食を食べていたら、エルザさんも着替えを終えて一緒に食べたのだが。


「ねぇ。私たち、付き合っていることにしない?」


 ブーッ!!


 口の中のものを吐き出してしまい、慌ててティッシュで拭き取る。


「な……なんてことを言うんですか!」

「だって……その方が、このことがバレた時に、周囲に与える印象がいいと思うよ?」


 ……ま、まぁ、確かに、付き合ってもいない男女が、一夜を共にしたという噂が流れるよりは。

 どうしよう……。『ことにする』だけだが、僕の人生で初のカノジョだ。


「抜け駆けするの、エルザさん?」

「抜け駆けだなんて、人聞きの悪い。

 私は、自分の立場を利用してズルい手段を使ったアプローチはしていないわ。

 真正面からぶつかって、運良く、断られなかっただけ。

 ちゃんとリスクも背負ってるわ。

 それをズルいと言われたら、私にアプローチを諦めなさいというのと同義。そんな条件には従えないわ。

 何なら、カエデちゃんもアプローチしたらいいのよ。

 ま、ハヤトがロリコンででもなければ――」

「本当にアプローチしていいんだね?」


 エルザさんの言葉を遮って、カエデちゃんが言う。


「本当にアプローチしていいんだね?」


 大事なことなのだろうか?2回、確認するように言った。


「ええ。私にそれを止める権利は無いわ」

「……ちょっと待ってて」


 カエデちゃんが寝室に消える。約10分。僕の食事の終わる頃だった。


「お待たせ」


 寝室から現れたのは、ドレスを着た、超絶美人のオネーサン!!

 どことなく、カエデちゃんの面影があるし、声もそんなにかけ離れてはいないが、この美人さんは誰!?


「あ、あの……」

「……何でしょう?

 あ、食事が終わったら、お話がありますので」

「――どちら様ですか?」

「……?

 カエデ、ですけど?」

「ちょっと待って、カエデちゃん!!」


 エルザさんが慌ててカエデちゃんを連れて寝室に向かう。……それが、本当にカエデちゃんならば、だが。

 しばらく、言い争う声が聞こえる。

 とりあえず、食卓を少し片付けて待つ。


 ……。


 遅いな……。


 やがて、カエデちゃんは元の姿で、エルザさんはゲッソリとした顔をして、2人揃って戻ってきた。


「ゴメンナサイ……。とりあえず、付き合っているっていう話は、無かったことにして。

 今回の件は、三人だけの秘密ということでお願いします……」

「え!?」

「あと……カエデちゃんに手を出さないでね」

「……えーと。

 何故?カエデちゃん、まだ子供だよ!?」


 まぁ……僕も未成年だが。


「さっきの姿のカエデちゃんでも、手を出さないって保証は無いでしょう!?」

「えーと……さっきのが、カエデちゃんなら」

「あの姿にはならないって、約束させたから!

 ……若干、不安が大きいけど。

 と、とにかく!

 今回の件は、隠し通しましょう!

 でないと……。

 ――同居されてたら、流石に勝てないわ」

「うーん……。

 ヨクワカラナイケドワカリマシタ」


 どう考えても、突っ込んで聞くのはよろしくない気配。

 ここは、分からないことにして回避だろう!


 だが、そんなささやかな平和な時間も、僕がテレビをつけてすぐに、脆くも崩れ去ってしまうのだった――

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