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11.Athene

「会社に連れて行って」


 その日は、カエデがそう言って聞かなかった。


「だから、遊びに行っているわけじゃないの!」

「緊急事態だから」


 そろそろ、出かけなければならない時間だ。準備は済んだが、このままでは着いて来そうだ。


「来ちゃダメだからね!?」

「じゃあ、エルザさんと会わせて。口説いてデートに誘って、そこに僕を連れて行って。それなら、ついていかないから」

「で……出来るわけないじゃないか!」


 要するに、エルザさんに会いたいだけなのだろうか?だけど、何故!?


「とにかく!留守番していること!

 僕はもう、行かなくちゃならないからね!」


 電車がギリギリの時刻だ。カエデは置いて出てきたのだが。


 会社に着くと、入り口でカエデが待っていた。


「……どうやって?」

「テレポート」


 どう説得しようか、悩んでいた時だった。


「おはよう、ハヤト君」


 ……エルザさんが、挨拶をしてきた。


「あ、おはようございます」

「……何、その子?」

「ええと……僕の従妹です」

「それは知ってるわ。前に会った子でしょ?

 ふぅん……。連れて来たの?」


 ……そうか。エルザさんは前に会っていたか。……ああ、そういえばと、僕も思い出した。


「いいえ、ついて来たいと言い出しまして。勝手について来てしまって……」

「職場に入れてあげたら?そんなにうるさくは言われないと思うわよ」

「……いいんですか?」

「いいんじゃない?

 ゲストの申請手続き、手伝ってあげるわ」


 ゲストの申請手続きも、本人と保護責任者の個人認証が行われる程度で、あっさりと手続きは済んでしまった。それで良いのだろうか?と思うぐらいに呆気ない。


「おはようございます」

「おはよ~」


 エルザさんとのようなやり取りがあった後、カエデには椅子を1つ与え、大人しく座っているように伝えた。とりあえず、仕事中は大人しくしていて欲しいものだ。


「エルザさん。これ、あげる」


 ……と思っていたのに。

 始業前だが、カエデはエルザさんに声をかけた。


「なぁに?

 ……サイコソフトじゃない。どうしたの?」

「おねーさんには、S超過適性があるはずのソフトだから」

「……『エスチョウカテキセイ』?」

「とりあえず、つけていて。1つソケットに余裕もあるでしょう?」

「……とりあえず、分かったわ。ありがとう」


 早速、そのサイコソフトをソケットに装着するエルザさん。……でも、その直後、様子がおかしくなった。数秒、虚ろな目をしていた。……すぐに治ったが。


「……ありがとう。『Athene』、ね、戦女神のサイコソフト。

 で?悪魔でも目覚めたのかしら?」

「……風の悪魔『Zephyr』。存在は知っていたけれど、S適性者が見つかった。

 本来は、西風の神様の名前だけど……軍事用として開発されたアレは、悪魔のサイコソフトと言っていいと思う」

「アタシだって軍事用じゃない。

 いざという時は、アタシに声をかけて。……そうね。ハヤトにメアドでも教えておくわ」


 ……思わぬところで、女性のメアドをゲットである。


「それで?ハヤトを捜して出会ったのでしょう?

 何のために、ハヤトが必要だったの?」

「……『Nu-e』と『Hanuman』の同時S超過適性。

 要は、『Hanuman』の保管の最適任者。

 アレは、不老長寿のサイコソフトという誤解があるから……。

 確かに、全くの不可能ではないけれど」

「……あなたの身は安全なの?」

「いざとなったら。

 でも、それまではハヤトに保護してもらう」

「そう。

 ……じゃあ、アタシはエルザの意識の深層に眠らせていただくわ。

 必要になったら、アタシを呼びなさい。

 相手がたとえ魔王であろうが、アタシが討って差し上げますわ」


 その発言の直後、一瞬にして目の色が変わった。……震えている。でも、こっちが本来のエルザさんのようだ。


「……何だったの、今の?」

「……ゴメン。

 サイコソフトは、本来、必要であれば、意識を乗っ取れるんだ。

 彼女は特別な存在だから、僕と会話をすることを選択したんだ。

 ……でも、身の危険が迫らない限り、滅多に意識を乗っ取ったりはしないから。


 それに、あなたは彼女の能力の全てを発揮することも出来る。

 本来、絶対防御壁『Aegis』と最強の矛『Gungnir』の同時使用を可能とさせるサイコソフトを作る過程から作られたサイコソフトだから、その気になれば、一対一で戦車と戦っても勝てる。


 ……あなたの細胞の、軍事利用を考えている組織がある。

 絶対に、負けないで。

 髪の毛一本渡さないなんてことは不可能だけど。

 あなたそのものが彼らの手に渡らなければいい。

 細胞が手に渡るだけなら、ちょっと強力な兵器の開発に使われるだけで済むから。


 ……自由自在に『Athene』の性能を使いこなす人材を手に入れられることに比べれば、被害は極めて小さいと言っていい。


 それに――


 何より、あなたが不幸になるのは目に見えている。

 あなたの身を護る力にはなるはずだから。

 

 ……そろそろ、仕事だよね。

 また、会いに来る。

 じゃあ、気をつけて」

「……うん。よく分からないけど、分かった。

 もう、帰るの?」

「うん。

 帰って、ハヤトが帰るまでに晩ご飯を作っておかないと」

「ちょっと待って!」


 エルザさんがカエデの両肩をガシッと掴む。


「……私にも手伝わせて」

「……いいけど」

「というわけで。

 ハヤト君。私は今日、あなたの家に遊びに行かせてもらいます。

 ……ちょっと、カエデちゃんと話をして、事態を正確に把握しておかないとならないし」

「……えっ!?」


 ……何だろう、この急展開。

 事態を頭の中で整理してみる。

 ちょ待っ!家に、夜、妙齢の女の人が遊びに来る!?

 ……落ち着け。まだ、慌てるような事態ではない。

 いざとなったら、責任を取れるだけの貯金もある。


 いや、待て待て!


「えっ!?」


 もう一回言ってみた。


「……何?何か不満でも?」

「いや……別に……」

「じゃあ、カエデちゃん。勝手に料理を作り始めてたりしないでよね。

 従妹のフリしているからって、抜け駆けは許さないわよ?」

「……分かった」


 何か良く分からない事態になりつつあるが。

 ……とりあえず、頭の中はキャパシティオーバーである。


 この日、仕事には全く身が入らなかった。

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