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第九十三話 エロシン領・バロシュ領攻略戦⑦

 俺がレフ達と合流したときには、すでに戦闘が終了していた。


 進軍しながら戦闘の様子を眺めていたのだが、彼女の強さは圧巻だった。

 曲がりなりにも四将の一人である、ダミアン=ピアジンスキーを軽くあしらってしたのだから。


 ついでにフローラの相手もしてやったみたいだし、リリ一人で中軍の戦局を打破したようなものだ。


 だだし、エミーリアという女将軍の状況判断には、目を見張るべきものがあった。

 彼女の援護射撃がなければ、ダミアンを討ち取れていたかもしれない。

 絶妙なタイミングで、リリに向い一斉射撃を行ったことで、まんまとダミアンが逃げる隙を作られてしまった。


 そして現在、殿を引き受けているエミーリアは、軽騎兵三十騎を組み分けして、リリに攻撃する時間を与えぬよう交代交代で、射撃を繰り返しながら退却をしている。


「ううむ、見事な手腕だ。それに彼女の射撃の腕も素晴らしい……」

「ええ……」


 俺が、つい独り言を発すると、隣にいたレフも同意をしてきた。

 

「リリの弱点といったら、強いてあげるとすれば弓だからな……」


 飛行ユニットの弱点は弓だろう。

 なんかのゲームでもそんな設定だったし……、ではなくて、実際に羽を貫かれたら上手く飛べなくなるはずだ。

 

「そうですね。また敵が放つ矢の何本かは、鉄の矢ではありませんね」 

「ああ……」


 いくらリリの弱点が弓であったとしても、鉄の矢程度では、彼女の体に大きなダメージを与えることはできないだろう。

 だが、リリが飛来する弓を丁寧に捌いているところを見ると、おそらく特殊な素材で作られている矢が混じっているのだろう。

 思いついたものを挙げてみると、鋼・黒曜石・銀・金・ミスリル・オリハルコンくらいだろうか。

 もしミスリルとかになれば、流石のリリにも結構なダメージが入るだろう。

 あとで矢を拾い、矢じりの成分を分析するしよう。


「あの女将軍のことだ。ここで深追いすると反撃を食らうかもしれん。ここはピアジンスキーの騎兵は諦め、足の遅い歩兵を追撃しよう」


 エミーリアは、ダミアンを逃がすことで精一杯の様子だ。

 そのため、他の歩兵を気に掛ける余裕はないだろう。


「ではリリさんには、このままエミーリアの相手をしてもらいましょう。そのあいだに、我々は敵歩兵に追撃をかけてはどうですか?」


 レフの提案は理に敵っていると思ったので、俺は首肯した。


「リリのことだから、俺達が歩兵に攻撃を加えればその意図を理解し上手くやるだろう……。話は決まりだ。逃げられる前に叩かないとな! 歩兵の指揮は任せたぞ!」

「ははっ!」


 俺はレフにそう声を掛けると、一人全速力で走り出した。

 目標は中軍中央のエロシン軍とバロシュ軍である。

 俺はここで両軍に、壊滅的な打撃を与えることを画策した。 

 ついでに、両家の大将を討つなり捕縛できればなおよろしい。


 そして、駆けること二分ほどで、エロシン・バロシュ軍の最後尾へと追いついた。

 両軍は総大将であるダミアンが退却したことを受けて、すでに蜘蛛の子を撒き散らすように退却を始めていた。

 もちろんウラディミーラ率いるチェルニー・チュルノフ軍は、遠慮なく彼らを追撃している。

 特に彼女が率いる精鋭部隊は、バロシュ軍の大将を狙っているようだ。

 よし、バロシュは彼女に任せるとして……、俺はエロシン軍の大将首を狙おう。


 俺は蜂蜜を片手に魔力を回復させながら、敵将を探す。

 すると、敵後方で、いち早く退却をしている馬上の少年が目に入っていた。

 彼の周りには馬廻りと見られる者が何人か付いているので、間違いないだろう。


 俺は炎の矢を十本形成し、それらを周囲に浮かべながら、確実に魔法が命中する距離まで接近する。

 そして、射出。

 できることなら生け捕りたいので、狙うは騎馬と馬廻りだ。


「ぐわぁ!」

「ぎゃー!」

「ブヒヒーン!」


 炎の矢は見事命中し、大将以外の戦力を無力化した。

 俺は、馬から放り出された男の下へと向い身柄を拘束する。

 するとその少年はバタバタと暴れ、抵抗してきた。


「離せ! 僕を誰だと思ってるんだ!」

「だまれ!」


 俺はうるさいガキの頬を殴り、黙らせてから話しかける。

 

「お前がバシーリエか?」

「そっそうだ! 僕はエロシン家当主バシーリエだ。名を名乗れ無礼者が!」


 戦場で無礼もくそもないだろうに……、この坊ちゃんは頭の中がお花畑なのかね。


「では名乗ろう。俺は松永秀雄だ! 殺されたくなければ大人しくしていろ」


 するとバシーリエは、松永という単語を聞くと表情が一変し、ガクガクと震え出した。


「うっ、嘘だ。当主が単身で乗り込んでくるはずがない! お前は影武者だな!?」

「んなわけねーだろ!」


 バシーリエの話にこれ以上付き合っていられないので、俺は奴の両足を縛ると、周囲に炎の壁を作りそのまま放置しておくことにした。

 味方が後方から見ているはずなので、炎の壁が消える頃には回収してくれるだろう。

 

「じゃあな。俺はまだやることがあるんだ」


 俺はこれから、バロシュ軍の大将を討たなければならないのだ。

 そう思い、状況を確認するためにウラディミーラのほうに視線送ると、すでに彼女たちは敵将を捕らえていた。

 

「あっ、事情が変わった」


 優秀なチェルニー軍の精鋭のお陰で、早くも目標を達成してしまった。

 今から敵騎兵を追撃することは不可能なので、あとはここにいる敵歩兵の処理をするだけだ。

 俺は炎の壁を解き、バシーリエの首根っこを掴み持ち上げて勝鬨をあげることにした。


「エロシン家当主バシーリエは、松永秀雄がひっ捕らえた! これ以上逃げても無駄だ! いい加減槍を捨て降伏しろ!」


 そして俺は、火魔法を遠方に放ち、敵兵に逃げ切ることは不可能と思わせるように仕向ける。

 また、ウラディミーラも同様に勝鬨を上げ、バロシュ兵に降伏を促した。

 

 すると、エロシン・バロシュ兵たちは戦意喪失し、次々と槍を捨て降伏してきた。

 よし、これでエロシン領とバロシュ領は取ったも同然だな。

 もちろん、ピアジンスキー家がしつこく抵抗してきたら話は別だが、彼らもこの会戦で多くの被害を被ったので、わざわざ二家を守るとは思えない。

 自領を固めるので精一杯だろう。


 さてここで再び戦況を確認しよう。

 俺がいる中軍中央からは、左翼と右翼の様子が分かりにくいので、ウルフを呼ぶとする。

 先程と同様、上空に炎の矢を打ち上げ、彼を呼び寄せる。

 するとウルフは合図に気付くと、すぐに俺の下へと飛んできた。


「お呼びでしょうか?」

「ああ、現在の戦況を教えてくれ」

「ははっ。まず敵右翼のピアジンスキー騎兵は、すでに重装騎兵・軽騎兵共に退却しました。敵左翼の連合騎兵と敵中軍左のヴィージンガー歩兵は、総大将のダミアン=ピアジンスキーが退却すると、それにいち早く反応し離脱をしました。残されたのは敵中軍中央と右側の歩兵ですか、それも秀雄様が降伏させた兵以外は、今しがた撤退したようです。ただ、レフ様が追撃により多大な被害を与えました」


 ふむふむ、エゴールは最後まで上手く敵をあしらってくれたようだな。


 コンチンも質に勝る敵を相手に十分な仕事をしたようだ。

 エミーリアが三十騎を率いてダミアンの助太刀にきた件に関しては、彼女の才覚に因るものなので、コンチンを責めるのはお門違いだろう。

 そしてレフとリリも、そのエミーリアを上手く処理しながらの追撃を成功させたようだ。

 

 ふむ、これならば、ピアジンスキー四将に逃げられた以外は十分な戦果だろう。

 四将に関しては、皆が良馬に跨っている上、秘薬を所持しているらしいので、捕らえることは容易ではない。

 そのため、今回三人とも逃がした件については、恥じ入ることはないと思う。

 

「報告ご苦労。では、大鷹隊は松永軍各将に、戦果と被害の報告にくるよう伝えてくれ」


 すべての場所で戦闘は終わったので、俺は皆を集めることにした。


「ははっ!」

 

 ウルフは俺の命を聞くとすぐに飛び立っていった。


 俺はウルフらが飛び回る姿を眺めながら、大鷹隊の有用性を痛感していた。

 この会戦は彼のお陰でこれほど順調に事が運んだ、といっても過言ではない。

 上空からの偵察により、陣形はもちろんのこと、会戦中の敵の動きもいち早く察知できた。

 敵に飛行ユニットがいない限りは、会戦における松永家のアドバンテージは多大なものになるだろう。 

 これからも、彼らには頑張ってもらうとしよう。

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