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第八十九話 エロシン領・バロシュ領攻略戦③

 今回の戦いには、ピアジンスキー四将のうちの三人が参戦した。

 彼らはそれぞれ、重装騎兵、軽騎兵、歩兵を率いている。

 右翼の重装騎兵百は、ドラホ・ズヴォラーネクという、名将が。

 その後方の軽騎兵二百は、エミーリア=クシェチュコヴァーという女将軍が。

 そして、最後に当主であるダミアン=ピアジンスキーが、後詰として控えていた。

 また、ドラホと共にピアジンスキー軍の名将と名高いマリオ=ゴロフキンは、前回の失態の罰として留守を任されている。


 松永軍が前進を開始すると、ピアジンスキー軍もそれに反応する。

 一番に行動を開始したのは、ドラホとエミーリアが率いる右翼の騎兵だ。

 

「さて、我が重装騎兵の力を見せつけてやれ! 突撃!」


 早速、ドラホの号令の下、百騎の重装騎兵が、松永軍左翼へ向けて突撃を開始する。

 

 重装騎兵に与えられる騎馬は、ピアジンスキー産の良馬のなかでも特に馬格のよいものを選んでいる。

 というのも、騎兵と騎馬の全身は鉄の鎧で覆われているため、その分も重みを加えても十分な機動力が保てる必要があるからだ。 

 そのため、この百騎はピアジンスキー軍最強部隊として、近隣にその名が知れ渡っている。


 その百騎を率いる将ドラホは、これまで一度も重装騎兵が破られていないことを理由に、重装騎兵の実力に絶対の自信を持っていた。

 もちろん、戦術的な敗北は何度かはあった。

 しかし、彼らは負け戦においても、その与えられた局面では、決して敵に劣ることはなかったと自負をしている。

 そのため、今回も彼の頭のなかには敗北の文字は一画も描かれておらず、松永軍など恐れるに足りぬと想察し、自信たっぷりに突撃を開始したのだった。


 一方、バレス率いる松永軍左翼の騎兵二百は、突撃してくる敵重装騎兵を迎え撃とうとしていた。


 ちなみに、松永軍が重装騎兵に宛がっている騎馬は、ピアジンスキー軍から鹵獲したものを使用している。

 そのため、騎馬の質ではさほど遜色はない。

 ただ馬を覆う鎧は、敵が頭から尻尾まであるのに対し、松永軍の場合は前面だけだ。

 これは、馬の負担を考えてのことである。

 松永家の鹵獲した馬は、敵のエリート馬のように、馬格がそこまで立派ではないからである。


「きたな。わしが前に出て受け止めるとしよう。お三人は魔法で援護を頼みますぞ。ではニコライ、ヒョードル、前に出るぞ」

「はい!」

「ああ、やってやるぜ!」


 バレスは、ナターリャ、マルティナ、サーラに一言かけると、バレス隊の騎士を中心とした重装騎兵五十を引き連れて、気合を入れて前進を開始する。


「援護は任せてねー、マルちゃんと二人でバシバシやっちゃうから」

「私も微力ながら、応援するぞ。爺、ここを耐えれば、秀雄殿が側面を突いてくれるはずだ」

「頑張ってくださいねぇ」


 三人は魔力を溜めながらバレスに返事をする。

 彼女らが率いる軽騎兵百五十も後方から援護をする予定だ。


 バレスはその言葉を背に受けながら、敵重装騎兵に向け突撃を開始した。


 そして、一分後、両軍の重装騎兵がぶつかり合った。

 

 松永軍は数の不利を補うために、いきなりバレスやセルゲイに加え、ニコライ、ヒョードルといった主力が先頭に立ち、勇猛果敢に敵兵に槍を突き出している。 


「お前ら! このバレスの相手になる奴はいるのか!」

 

 バレスは名乗りを上げると、馬上で槍を振り回し、敵重装騎兵を一騎、二騎と落馬させる。

 敵は全身に鎧を装着しているため、一撃で仕留めることは困難だからだ。

 とはいっても、バレスの重い一撃ならば、鎧の上からでも骨折させる程度の威力は十分ある。

 なので落馬した敵兵は、早くも何かしらの重傷を負ったのである。

 

「げぇ! これがバレスぅ!!」


 先頭で一人、鬼神のごとき槍働きをするバレスに、百戦錬磨のピアジンスキー重装騎兵も思わず怯む。

 

 すると、その瞬間ピアジンスキー重装騎兵の中央に、氷の矢が三十本、バレスの後方から弧を描くように着弾した。 

 ナターリャとマルティナが援護をしたのである。

 この一撃で、敵重装騎兵三騎が、戦線から離脱を余儀なくされた。


 まずはバレスとナータリャらの働きにより、数で劣る松永重装騎兵が、初撃では先手を取ることに成功した。


 だが、ここで引き下がるわけにはいかないと、ピアジンスキー軍も、反撃を試みる。

 ドラホは、馬群の中ほどでバレスらの活躍を目の当たりにしていたため、先ほどの氷の矢を一発くらったが、彼も全身に鎧を着込んでいるので大事は無かった。

 

「このままでは分が悪い……」

 

 ドラホはそう呟き、決断した。

 ここは自分が行くしかないと。 


「バレスは私が止める。また敵重装騎兵には、必ず二騎であたれ。奴らは相当の手慣れだ」

 

 ドラホは周囲の騎士にそう告げると、最前線へ向い馬蹄を進めた。  


 その頃バレスは、相変わらず敵重装騎兵の相手をしていた。

 敵もバレスには三騎がかりで攻め立てている。

 

「ははは、甘いわ甘いわ! ピアジンスキー家ご自慢の重装騎兵もこの程度か!」


 彼は三騎を軽々と相手をする。


「うわっ!」


 彼が、敵の槍撃を淡々とはじき返しいると、その防御の一撃ですら、敵重装騎兵バランスを崩す要因となり、勝手に一騎が落馬した。

 バレスはこのままなんとかなるのではないか、と思った。

 しかし、後方から将とみられる人物が、彼に接近してきた。


「お前がバレスだな。私はピアジンスキー四将が一人、ドラホ=ズヴォラーネクだ。一騎打ちを所望する」


 ドラホの登場により、バレスの相手をしていた重装騎兵も、どうぞどうぞと身を引いた。

 

「おおう、お主がドラホか。遠めからは見たことはあったが、こんな近くでお目にかかるのは初めてだわい。とはいっても、全身鎧ではどのような顔立ちかも分からんがな」

「ふふん、では冥土の土産に見せてやろう」


 ドラホはそう言うと仮面をかぱっと前から開くと、出てきたのは金髪の美男子だった。

 

「ぐぬぬ。さっさとやるぞ。その一騎打ち買った!」


 バレスは、ドラホの顔立ちを見て、やるせない怒りを覚えた。

 そして、その怒りはすぐに戦いへの力へと変わる。


「ははは、では始めるとしよう。私に敵うかな!」


 一騎打ちが始まった。

 二人は、槍の攻撃範囲まで距離を縮めると、正面から向き合い槍を一合、二合とぶつける。

 まずは、お互いの力量を探り合っているところだ。


「どうした、最初の勢いがなくなったぞ」

 

 先に引いたのは、ドラホ。

 槍を十合ほど打ち合わせたところで、手がしびれてきたのだ。

 

「ふん、馬鹿力が! ここからが本番だ。これを受けられるかな」


 ドラホは、腕につけていた防具を外すと、再び勢いをつけてバレスへと接近し、そのまま突きを連発した。

 目にもとまらぬ速さで放たれる刺突を、バレスは最初のうちは軽々と受ける。

 しかし、二十を超えても、ドラホは突きをやめない。

 むしろ槍を前に刺し出す速度は上がっている。

  

 次第に流石のバレスも、捌き切ることが難しくなり、ついに五十発目にして肩口に一撃を食らいそうになる。


「むううん!」


 すると、彼はその瞬間に筋肉を硬直させ、被害を最小限に留めようとする。

 グサリと肩口に突き刺さった穂先は、彼の皮膚を突き破り、筋肉に数センチの傷をつけた。

 

 バレスは、すぐさま槍の柄を掴み、ドラホの動きを奪う。

 そして、先程馬鹿にされた馬鹿力を使い、ドラホを自身のほうへと引き込む。


「ほらほらどうした。この非力の優男がぁ!」


 自分にないものをやっかむ気持ちもあり、バレスは容赦ない言葉を投げかける。

 ドラホは、しばらくは耐えていたものの、次第に手から力が抜け落ちていき、ついに槍を手放してしまう。

 

「ぐぬぬ、なんたることだ」

「ははは、勝負あったな」


 バレスは獲物を失った男に対してでも、手加減はしない。

 彼は調子に乗っている色男の胴体目掛け、槍をなぎ払い、柄をぶち当てようとする。


 ドラホも剣を手に取り、受け止めようとするが、それは無駄な抵抗であった。


 バレスの渾身のなぎ払いは、ガキン! と音をたてドラホの持つ剣を吹き飛ばすと、勢い衰えずそのまま彼の脇腹へと吸い込まれていった。


「ガハッ!」


 ドラホは、なんとか落馬せずにこらえたが、肋骨をやられた。


 すかさずバレスは、今度は首を目掛けて槍をなぎ払う。


「ごぐぇ!」

 

 ドラホの首がぐにゃりと曲がると、彼は白目を剥いて落馬した。


「これで終わりだ」


 バレスは瀕死の相手に、とどめを刺そうとする。

 しかし、その瞬間、彼の側面に大量の矢が降り注いできた。

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