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第八十八話 エロシン領・バロシュ領攻略戦②

 各将に伝令を飛ばしてから三十分後、全員が集まり終わったようなので、会議を始めるとしよう。


「さて始めよう。今しがた伝えたように、ここから西に十キロの地点にピアジンスキー連合軍が布陣をし、我々を待ち構えている。そして、先程ウルフに調べさせたところ、陣形はこのようになっている」




挿絵(By みてみん)




 俺はこの三十分のあいだに、木版に敵の陣形を書き込んだ上で、松永軍がこれから取る陣形も記入しておいた。 

  

「そして、俺達の陣立ては手前に記入しておいた。あとはコンチンが説明する」


 すると、バトンタッチをされたコンチンはスッと立ち上がり、俺のいる位置へと進み説明を始める。

 

「まずは、敵の布陣について解説します。陣形は横陣を敷いております。中央には、敵歩兵五百五十に加え、後詰として歩兵二百がおります。そして、敵右翼には主力であるピアジンスキー騎兵三百がおり、敵左翼には従属する四家の騎兵二百五十がおります」


 敵の中央軍は、それほど厚くはない、というか薄い。

 逆に右翼のピアジンスキー軍は、歩兵二百も含めて、厚めに配置している。


 コンチンは、皆に理解させる間を与えてから、再び口を開く。


「見ても分かるように、敵は中央を薄くし、両翼、特に右翼を厚くしています。敵の狙いは明白です。中軍と左翼が我々の攻勢を引きつけているあいだに、主力の右翼が松永軍の左翼を突破し、側面もしくは背後を突く意図がはっきりと見て取れます」


 ピアジンスキー軍の布陣は、おそらく鉄床戦術だろう。

 地球で言えば、マケドニア軍のような感じだろうか。

 これは騎兵の能力が非常に高いピアジンスキー軍には、うってつけだろうな。

 

 この戦いの鍵は、俺達がピアジンスキー軍の攻勢を受け止められるかの一点に集約される。

 

「そのため、我々は敵右翼に対し、精鋭部隊を宛てることにしました。まず、左翼の率いるのはバレス殿にお願いします。こちらから攻める必要はありません。敵の突破を許さなければ十分です。私が率いる後詰兵も援護しますので、焦らず対応しましょう」

「おう、分かりもうした」


 バレスは、自信にみなぎった表情で返答した。

 

「そして中軍です。まずは中軍左に配置する松永軍五百は、秀雄様が指揮をします。この歩兵のうち二百は、敵右翼が左翼に食い込んだところを見計らい、側面を突くことを目的としています。そして残り三百は、相対するピアジンスキー歩兵二百を撃破し、中央突破を図ります。歩兵の質なら、我が軍の方が上回っていると思われますので、同数以下の歩兵にならば負けることはないでしょう」


 ここの松永軍五百には、俺を始めに、リリ、アルバロ、レフを配置している。

 一方左翼には、バレスの他に、ナターリャさん、マルティナ、サーラ、セルゲイを置いている。

 

 また、左翼に歩兵を加えることでより戦力を増やし、正面から敵右翼と遣り合うことも考えたのだが、そうすると逆に中軍左が薄くなる。

 そこに、敵右翼のピアジンスキー騎兵が、五十騎でも割きそちらにぶつけてきたら、たちまち中軍が崩壊するのは目に見えているので、このような配置にした。

 

「続いて、中軍中央の歩兵部隊です。チェルニー家とチュルノフ家は、できればでよいので敵歩兵を突破してください。おそらく敵は、右翼のピアジンスキー軍が突破する時間を稼ぐために、積極的に戦ってはこないと思われます。攻めにくいかと思われますが、もし突破できれば戦局は決まったも同然です。敵は左右に分断されたちまち瓦解するでしょう」

「わかりましたわ。尽力いたします」


 二家を代表してウラディミーラが答えた。

 チュルノフ家の当主パトリクは老齢のため、二家に指揮を彼女に任せているためだ。


 さらにコンチンが話を続ける。


「最後に、中軍右です。ロマノフ家とアキモフ家の兵を置きます。ここは、対面の歩兵にはアキモフ軍を当て、ロマノフ軍は、敵左翼の騎兵の出方を窺いながらの対応をお願いします。もし攻めてくるようなら側面を突き、時間を稼いでください。また右翼の騎兵の指揮は、ユーリーに任せましょう。こちらは、数・質共に勝る騎兵が相手ですので、無理に攻めずに、突破されないことを第一に考えてください」

「承知した」


 エゴールが冷静な面持ちで返答する。

 彼ならば、適切な状況判断を下しながら、臨機応変に対応できるだろう。

 俺は、先の戦でクリコフ軍を見事に撤退させた手腕を認め、右翼の指揮もロマノフ家に任せることにした。


 またアキモフ軍に関してだが、前回の戦いで負った被害を立て直しきれていないとの理由で、今回は百人の動員となり、ボリスも怪我を理由に参戦を見送った。

 こちらとしては、命令系統がエゴールに一元化されるから、かえってよいのだが、ボリスも骨折程度ならば、気合を見せてくれてもよかった気がする。

 そのツケはどのように支払ってもらうかは、これから考えるとしよう。


「陣立てについては以上になります。何か質問のあるかたはいらっしゃいますか」

  

 何人かが手を挙げたため、俺とコンチンの二人で、彼らに入念な説明を加えてやった。

 事前に敵軍の布陣パターンを想定して、それに対応した作戦は説明しておいたが、今回は一大決戦なので、作戦はしっかり把握してもらう必要があるからだ。

 

 そして、会議は終了し、将達が戻り次第作戦を開始することにした。


 それにしてもウルフのお陰で、陣形から敵の兵力まで把握することができた。

 ここまで正確な情報を得ることができれば、事前に最善な対応を取れるな。

 これからも、彼等は重宝するだろう。


 さて、俺も持ち場へと戻り作戦開始といくか。



---



 会議を終えてから程なくして進軍を開始した松永軍は、戦に備え少し緩めに行軍を続けた。


 そして二時間三十分少々、街道を進んだところで、敵軍と相対することとなった。

 再びウルフを飛ばしたところ、敵の陣形は先程確認したときから変更はないようだ。

 

 松永軍は、息を整えるために、一休止入れてから攻撃を開始する。

 

「さあ、いよいよだな。攻撃開始だ!」


 俺は、馬上から大声を上げながら、手を前方に振り下ろす。

 すると、ドンドンドンドンと太鼓が打ち鳴らされ、攻撃開始の合図が全軍に鳴り響く。

 そして松永軍は、ゆっくりと前進を開始した。


 それに応じて、敵右翼も前進を開始してきた。

 一方、中軍の歩兵は予想通り、時間を稼ぐため積極的には出てこない。


 そこで、俺が率いる五百の精鋭は、あえて突出気味に進む。

 敵歩兵を炙り出すためだ。

 

 しかし、なかなか敵歩兵は反応を示さない。

 じっくりと待ち構え、松永家の攻撃を受け止めるようだ。

 そして戦線を間延びさせ、横から騎兵がズドンか……。

 

 向こうから攻める気がないなら、こちらにも考えがある。

 

「リリ、でかいのをお見舞いしてやれ!」

「うん!」


 睨み合っているあいだは、大魔法を使うための溜め時間だと思えばいい。

 

 俺とリリは二人して魔力を集中させる。

 そしてしばらくのチャージタイムを経て、まずはリリが魔法を放つ。

 

「花びらカッター!」


 リリが唱えた魔法は、触ったらサクサク切れる花びらを召喚する花魔法だ。

 そこに、さらにもう一発別の魔法を放つ。


「んー、竜巻攻撃ー!」


 これは風魔法だ。

 その名のとおり、竜巻を引き起こす。

 リリの手から発生した竜巻は、目の前に浮かんでいる切れ味鋭い花びらを飲み込むと、敵軍へと一直線に猛スピードで向っていく。


 敵魔法士たちが全力で相殺を試みたが、半減させることしかできなかったようだ。

 敵中央へと向った竜巻は、威力が落ちたにもかかわらず、二十人程の兵士を飲み込むと彼等の体を花びらがザクザクと切り裂いた。

 花びらのサイズ的に四肢を切り取ることはできなかったようだが、彼等はこれ以上の戦闘は難しいだろう。

 

 そして、俺もファイアーウエイブを間髪入れずに放つ。

 今回のは、魔力を注ぎ込んだので、幅二十メートル、高さ二メートル程の特大版だ。

 すると、放たれた炎の波が敵陣へと吸い込まれていく。

 リリの魔法でレジストはしているので、俺の魔法に対応できつ魔法士はだれもいなかった。

 そしてこの魔法でも、二十人程度の敵兵を巻き込んだようだ。


 さあどうだ。 

 これでも出てこないようならば、何発でも繰り返すだけだ。

 敵には、俺達の魔法をレジストできるだけの魔法士が存在しないと判明したから、このままではジリ貧だろう。


 そして俺達が、再び魔力を集中し始めると、敵歩兵が痺れを切らしたように前進を開始してきた。

 おそらく敵の魔法士が音を上げたのだろう。

 このままでは一方的にやられるので、敵歩兵も距離を近づける以外の選択肢はなかったようだ。


 ここで俺は戦況確認のため、左を見てみる。

 すると、すでに敵右翼とバレス率いる松永軍左翼は、ぶつかっているようだ。

 遠目でみると戦闘を繰り広げているのが分かる。

 

 では、こちらも兵を分け、奴らの側面を突くとしよう。


 俺は二百を自ら率い、敵右翼の騎兵へ向けて進軍を開始した。

 一方残りの三百はレフに指揮を任せ、さらにリリも残し、前方の歩兵に対応させることにした。

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