表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/167

第九話 公都ミラリオン

「おおっここが公都ミラリオンか。さすがに都だけあって大きいなー」

「町の周りが壁で囲まれてるよー、なんかかっこいいねー」

「むー、カルドンヌの町よりちょっと大きいだけじゃ」

「話には聞いていましたが、人族の文明は素晴らしいですね」

「すごくおおきいにゃ……」


 ティオンを出発してから何事も無く、昼過ぎには公都ミラリオンへと無事到着した。

 公都と呼ばれるだけあってミラリオンは人口十万人を超える城塞都市だ。

 これまで何度も他国からの侵略を受けて来たため、総構えの町作りがなされている。

 籠城時は公都民が一致団結して敵に立ち向かうらしい。 


 説明はここらへんにして、ミラリオンへ入るとしよう。

 中世の城塞都市は一度は見てみたかったから楽しみだな。


 俺はティオンで冒険者登録したので、身分は保証されたも同然だ。

 二つ返事で通してくれるだろうな。


「こんにちはー、今日もお勤めご苦労様です」

「ああ、お前はこの辺りでは見かけない顔立ちだな。それに後ろの獣人に、幼女に、……妖精!? …………少し奥で事情を聞かせてくれないかな」

「はい分かりました」


 それはフラグだったようだ。

 さすが公都だけあって、ティオンのような小さな町とは警戒度が全く違った。

 だが恐らく問題ないだろう。

 リリ達の奴隷登録はティオンの役場で既に済ませているからだ。


 俺はどうせ数分で済むだろうと、たかを括って門番へと付いていく。


---



「ったくあの門番手間取らせやがって、賄賂が欲しいならもっと物欲しそうな顔しやがれ!」

「本当なのじゃ。あのような輩は騎士の片隅にも置けないのじゃ!」

「ヒデオー、あのニンゲンは嫌な感じだったよー」


 あれから俺達はぐちぐちと質問された。

 俺は冒険者証明書と三人の奴隷登録書を見せ、さらにクラリスの事情も説明したというのに、中々通してくれる様子を見せなかった。


 最後は、


「三人も奴隷を連れているなんて相当の金持ちなんだなー」


 とか悪態をついてきやがった。

 公都の衛兵なので職務に真面目なのかと思いきや、やっぱりそういうことだったのだ。

 仕方なしに小金貨を三枚出したら、首を横に振りやがった。

 頭にきたので金貨三枚上乗せしたら、満面の笑みで、


「ようこそ花の公都ミラリオンへ」


 としゃあしゃあと抜かしてきやがる。

 男一人が三人も奴隷を連れているので、俺はいいカモだったんだろうな。

 それでも無事に中に入れたことに感謝しようと、心を切り替えることにした。 


「それでも無事に入れてほっとしました」

「チカもあのおっさん気持ち悪かったニャー」


 恐らく俺が賄賂を上乗せしなかったら、適当な罪でもでっち挙げたのだろうな。

 ビアンカとチカを見る目が、完全にエロイ眼をしていたからな。


「ああ、お前達は絶対にあんな奴には渡さんから安心しろ」


 キリッと決め顔を作って言えたぜ。

 ふっ、決まったな。 


「そんなぁ、秀雄様、私なんかにはもったいないお言葉です。でもありがとうございます」

「チカは秀雄といるだけで楽しいから、あんまり危ないことはしちゃだめなのにゃー」


 二人は顔を赤くしながらも、嬉しそうに反応を返してくれた。

 ひょっとしていい感じなんじゃないのこれ。

 いやまだ始まったばかりだ。

 『急いては事を仕損じる』と言うではないか、ここはじっくり事を構えるとしよう。


「いやいや気にするな、当然の事を言ったまでよ。それよりも折角公都にきたのだから、少しは観光でもするか」


 俺は手を振りこの話はもう終わりとし、公都を見回ることにした。


「わーい! でもあたしはなんか嫌なニンゲンがいっぱいいるから、リュックから顔だけだすね」

「一応貴族として後学のために公都は見ておくだけなのじゃ」

「私は秀雄様に付いていくだけです」

「やったーにゃー。ついでに美味しいお魚も買ってくれると嬉しいのニャー」


 なんだかんだでみんな嬉しそうだな。

 ならばこれからの事を考えて今日くらいはサービスしてやるか。


「よしよし、今日はこれまでの嫌な事の憂さ晴らしに好きなだけ楽しむぞ!」

『おー!』

 

 

---



 ふう、時の流れは早いものでもう夕方だ。

 あれから俺は女四人に振り回された。

 

 リリは、


「あそこからいい匂いがするよー、ヒデオあれ食べよーよ」


 と様々な菓子をねだられ、計数十種類の菓子を買わされた。

 リリさん、あんたちょっとしか食わんでしょうに、残りは俺達が処理するのよ。

 胸焼け起こしても知らないんだからね。


 クラリスにはミラリオンの大時計やら、噴水やらいろいろと観光名所を案内させられた。

 連れ回されて疲れたが、お子様らしくて可愛らしいことだと思い我慢した。

 

 チカは色気よりも食い気で、公都の生鮮市場に連れて行かれると、かたっぱしから屋台の魚料理を食い散らかされた。

 それでも今は「お腹すいたにゃー」と言っている。

 どんな胃袋しているか見てみたいわ。


 ただビアンカだけは残された良心だった、

 彼女はまるで忠犬のように俺に一歩下がって付き従ってくれている。

 俺は感動した。

 なぜなら生まれてこの方、ビアンカみたいな美少女に尽くされたことが無かったからである。

 こんな美少女 (しかもイヌミミ)に尽くされるなんて、異世界にきてえがったーと心底思った。


 だがそんなこんなの公都観光もようやく終わり、後は宿へと向うだけだ。

 俺は三階にバーが併設されている、値が張る宿を取った。

 その宿は公都のギルドで聞いたところ、警備も安全で食事も美味しいとのことだ。

 ついでに情報収集するにはうってつけの宿である。


 俺達はその宿にチェックインして、飯を食べ風呂を楽しむ。

 俺は一人で入ったのだが、その途中にビアンカが、


「お背中お流しします」


 と言い乱入してきた。

 しかも自然に二つの双丘が俺の背中にタッチしてきやがった。 

 辛抱堪らんとは正にこのことだな。

 だが俺は我慢した、ここで襲って信用を無くしては台無しだと。

 そういうことはもう少しお互いの信頼関係を高めてから、するのが望ましいと俺は思う。

 いや別にヘタレとかじゃないんだからね。


 風呂も入りさっぱりした所で俺は一人でバーへと向う。

 この宿は警備はしっかりしているので、リリに三人の護衛を任せれば大丈夫だと判断したからだ。

 

 高級そうな絨毯が敷かれた階段を登り、三階のバーへと入る。

 そこには宿泊者であろう数人がいるのみだった。

 俺はカウンターの一番角に座り、お勧めの酒を注文する。


「ミラリオンになります」

 

 おおご当地カクテルと言う奴だな。


「これが料金だ。後、少し話がしたいんだがいいだろうか」


 そう言って小金貨を三枚差し出す。


「お客様、これは多過ぎです」

「いやこれは俺の気持ちだ。遠慮なく受け取ってくれ」

「……お心遣い感謝致します」


 バーテンダーも二度目は失礼と思ったのだろう。

 小金貨を素直に受け取った。


「ありがとう。では早速で悪いが周辺の情勢を教えてくれないか? 俺は東方出身でこのあたりの情勢には疎くてね」


 俺は前もって買っておいた大き目の地図を広げた。

 

「左様で御座いましたか。私の浅学でよろしければお聞きください」

「ああ、よろしく頼む」

「まずはミラ公国についてです――」


 それから小一時間程バーテンダーは俺の相手をしてくた。

 その結果、かなり精度の高い情報を得ることができたのだった。


 その後は、部屋に残してきた四人が心配だったため、バーテンダーに礼を言うとすぐに部屋へと戻った。

 俺の心配は杞憂だったようで、四人は菓子を食べながら仲良く話をしていた。

 

 

---



 皆が寝静まった後、俺は一人光魔法の灯りに照らされた机の上に地図を広げている。

 今しがた十分な情報量が手に入ったので、今後の行動を決めるためだ。

 

 最初の村でアンドレに教えてもらった以外の目新しい情報をまとめよう。


 まず、ミラ、レナ、ローズの三公国は元は一つの王国だったが、後継者争いを期に三人の兄弟の領地が分裂して出来た国らしい。

 そのため文化も似ている。

 亜人に対し迫害主義を採っている人族至上主義の国だ。

 各公国とも公爵を頂点とする封建制を敷いている。


 ここから東のローザンヌ国だ。

 この国も封建制を敷いている。

 現在内戦中だが一つに纏まれば、三公国の約二倍の国力を誇るらしい。

 ここは亜人にはある程度は寛容である。

  

 またミラの南東、ローザンヌの南西に亜人の領域がある。

 そこには多種族の亜人が暮らしているらしい。

 亜人は人族と比べ数は少ないものの個々人の戦闘能力は高いため、その領域の亜人が結集すれば一国以上の戦力になると推定されている。

 

 次に北西のポルタンテ王国。

 こちらも封建制を敷いている。

 国力は三公国と同等レベルである。

 ここも領地を接する亜人と度々諍いを起こしている。

 人族至上主義である。


 三公国の北西、ポルタンテ王国の南西も亜人領域となっている。

 こちらは海に面している分先ほどの領域とは多少異なる種族も生息している。

 こちらの戦力は三公国より少し劣ると推定されている。


 続いて北のノースライト帝国。

 ここは女帝による半親政に最近変わったらしい。

 元はこちらも封建制だったのだが、数年前に代替わりした女帝が、腕力によって従わない土地持ち家臣を粛清し、その領土を王国の直轄地とした。

 そして国土の八割まで膨れ上がった直轄地の半分を、自身の子飼いの騎士五千騎に振り分けたのだ。

 日本でいうと、徳川の旗本みたいな感じだな。

 そのため、今は国の殆どを意のままに操れる状態なのである。

 

 さらに女帝は領土的な野心を強く持っているため、積極的な領土拡張政策を取っている。

 三公国にとって一番の脅威と言えるだろう。

 国力は三公国の約二倍である。

 ここは亜人も積極的に登用し対魔族や人族との戦争に利用している。


 そしてノースライトのさらに北には魔族の領域が広がる。

 ここは魔王と言う魔族を統べる存在がいる。

 彼が中心となり度々ノースライトなどの隣接する人間の領域に侵攻を繰り返している。


 後は南の小国群だ。

 ここは人口数十万人程の群雄から、小さいと人口数千人のクラスの豪族が乱立している。

 その数は小勢力も入れると百を超えるらしい。

 各勢力は自分の縄張りを広げようと争いを繰り返しているらしい。

 国力は小国をそれぞれ分析する事は困難なため、はっきりした情報は分かっていない。

 ここの亜人に対するスタンスは地域ごとに異なっている。


 最後にローザンヌ以東は遊牧民などの国々があり、さらに東にある国が勢力を拡大しているらしい。

 今の所、この辺りには関係のない話だ。


 ふう、大体こんな感じか。

 まず目的地としての最低条件は、亜人に対する差別が少ない国だな。

 ならば、ローザンヌかノースライト、あるいは小国群だな。

  

 ローザンヌはクラリスの身を考えたらありえない。

 ノースランドは外様には厳しそうな感じで、魔族用に使い捨てさえる恐れもあるし却下だ。

 ならば残った小国群だな。 

 ウルトラCで東に向うという手もあるが現実的では無いな。

 小国群ならば亜人差別の少ない地域もあるようだし、やり方次第で成り上がれる機会は幾らでもありそうだ。

 よし決めた!

 次なる目的地は南だ。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ