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第七十九話 バロシュ領攻略戦⑥ ガチンスキー領攻略戦①

 アルバロ率いる獣人部隊は、カラフ城内へと侵入していた。

 秀雄の大魔法のお陰で、大手門をたやすく占拠できたためである。


 カラフ城自体は、平地に作られている平城なので、防御力は山城ほど高くはない。

 故に、松永軍が周囲の湿地を突破した今、この城は丸裸にされた状態である。


「おじちゃん、前に出過ぎニャ! いい加減、秀雄のいうことを聞きにゃさいよ!」

 

 チカは、アルバロが単独で突撃を繰り返すことを諌める。

 今回は結果がでているからいいものの、一つ間違えれば獣人部隊の崩壊を招く自体になることを、チカやボリバルは十分認識している。

 二人は、これ以上の単独プレイは看過できないと考え、アルバロに対し強く注意しているのだ。


「がはは、わかったわかった。お前達も暴れ足りないのだな。仕方無い、まだ少々物足りないが、ここは若者に譲ってやろう」

「おじちゃん……全然分かってないにゃ!」

「そうですにゃ!」


 チカとアイナが揃って突っ込むが、アルバロは気にした素振りは全く見せていない。

 

「それよりもアルバロ殿、敵は我らに恐れをなしたのか、本丸まで引き上げて行ったぞ。ここは降伏勧告をしてみよう」


 秀雄から指揮を任されたマルティナが、冷静に判断を下した。

 松永軍はすでにカラフ城の三の丸、二の丸を落とし、あとは本丸を残すのみとなっている。

 残る兵も五十程度であることから、落城は時間の問題である。


「そうですな。わしは十分働いたので、よしとしますわい。では奥方様、あとはよろしく頼みましたぞ」


 アルバロは、雑事は自分の領域ではないと分かっているので、あとは他の者に丸投げし、一人座り込み昼寝を始めた。


「まったくもう……。ボリバルさん、悪いけど使者になってもらえないか?」


 マルティナは、獣人部隊の中では一番知力が高いと思われる、ボリバルを使者に任命した。


「承知しました」


 ボリバルは彼女の申し入れを承諾し、使者として白旗を掲げながら本丸へと向って行った。

 一時間後、波乱もなく、本丸より白旗が掲げられた。

 

「恐らく当主を逃がす時間を稼いだのだろう。まあいい。被害を出さないことのほうが重要だからな。さあ、敵も降伏したことだし進軍しよう」


 マルティナにとっては、敵将を捕らえるよりも、いたずらに兵を減らさないことのほうが重要である。

 そしてマルティナの号令の下、松永軍は、本丸へ向けて行進して行った。


 結果、攻城開始から二日目にして、松永軍は、カラフ占領を成し遂げたことになる。

 秀雄が予定していた三日を、大幅に更新してである。

 これはピアジンスキー軍との衝突を避けられた、ということをも意味する。

 兵を減らさないという観点からみると、この結果は松永家にとって大きな効用を生み出したのだ。



---



 さて、ここで時を巻き戻し、ガチンスキー方面軍の様子を見てみよう。

 秀雄率いるバロシュ方面軍が、カラフへ向けて攻撃を開始したとき、バレス率いるガチンスキー方面軍も、停戦切れから間も無くして攻撃を開始していた。


 具体的には、バレス率いる松永軍四百が、ガチンスキー領の東から侵入した。

 それと同時に、エゴール率いるロマノフ軍百五十が、ガチンスキー領の北東から攻勢をかけていた。

 

 ロマノフ軍百五十は、まずは領境にあるチャコフ砦の攻略を開始する。

 この砦は、長年敵対関係にあった両勢力が、何度も奪い合ってきた場所である。


「ガチンスキー家の、動員兵力からすると。ここに常時詰めているのは、多くて三十だな。どう思う?」

「私も同感です。ガチンスキー家は、松永領に五十の押さえを常に置いておりますので、こちらに回せるのはせいぜいその程度かと」


 エゴールが話しかけているのは、腹心のユーリーという人物である。

 彼は、幼い時分からエゴールの側仕えをしており、エゴールが最も信頼を置く家臣である。

 

「ならば、落とすのは容易いだろう。いつものように西側から攻め立てるとしよう。多少の被害は気にするな。今回は時間との勝負なのだからな」

「ええ、このために我らは下準備を重ねてきたのですから」

「ああ、そうだな」


 エゴールも、秀雄から今回の作戦について十分な説明を受けた。

 停戦切れを狙い援軍が駆けつける前に落としてしまう、という作戦を聞き、流石は松永と思わざるをえなかった。

 この作戦は、松永家の将の質と、兵の錬度の高さが無ければ、とても成功できない荒業だったからである。

 

 しかしロマノフ家も松永家に倣い、ガチンスキー戦に備え常備兵を増やし、クレンコフ流軍学で錬度を高めてきた。

 彼は自信有り気な表情で、部隊を砦の西側へと移動させ、陣形を整えさせる。

 

「では行くぞ。攻撃開始!」


 エゴールが、馬上から号令と共に剣を振り下ろすと、ロマノフ軍百五十が砦へと攻撃を始めた。

 砦の西側は、なだらかな傾斜があるのみなので、ロマノフ軍は簡単に、城壁という名の土壁へと張り付くことに成功した。

 ガチンスキー軍は、始めのうちは必死で抵抗し、ロマノフ軍も攻めあぐねた。

 しかし、三十の守備兵に対し百五十の兵が一斉に攻撃を加えため、特筆する強者もいないガチンスキー軍は、次第に数の暴力に押し潰されていった。

 そして、ついに土壁を登ってくるロマノフ兵を捌き切れず、砦内への侵入を許してしまい、程なくして降伏を決意した。


「エゴール様! 白旗が揚がりました」

「うむ、予定通りだ」


 エゴールは満足気な表情で頷いた。

 と同時に、松永家が採用する兵制を取り入れたことによる効果を、身をもって実感した。 

 

 砦を占拠してからは、しばらく休憩を挟んだ。

 それからロマノフ軍は、次なる目的地へと向け進軍する。


「さて、次はクリコフ家との領境だな」

 

 ガチンスキー家の本拠地の攻略は、松永軍に任せることになっている。

 ロマノフ軍は、こらから敵の援軍を食い止める役割を担う予定だ。

 

「ええ、急ぎ行軍し、強固な陣を築きましょう」

「うむ」


 エゴールは、この程度の手柄では、胸を張ってガチンスキー領を拝領することができなかった。

 秀雄から言い渡されていることは、最低限チャコフ砦を奪取しろ、という内容だ。

 そして、余裕があればクリコフ領からの援軍を撃退せよ、とも言われている。


 エゴールは、このままだと、将来的にチェルニー家やチュルノフ家よりも扱いが悪くなる、という危惧を抱いていた。

 ウラディミーラが、秀雄の側室として輿入れしたためである。

 そのため、自らが体を張り、秀雄も認めるような手柄を挙げることが必要だと、思案したのだ。

 彼はここが正念場と思い、死力を尽くし敵援軍を撃退する覚悟をもち、領境へと進軍を開始した。



---



 場所は変わり、バレス率いる松永軍四百は、領境に配置されていた五十のガチンスキー軍を、軽く蹴散らすと、そのまま本拠地のガチンスキー城へ向け、進軍速度を上げて前進していた。


「ははは、殿の言ったように敵は虚を突かれ、抵抗らしいことは、皆無でしたな」


 バレスがナターリャへと話かける。

 こちらは、松永家のツートップがそろい踏みである。

 

「それはそうよー。だってー、私とバレスが組んだら、敵は逃げ出すに決まってるじゃない」 


 二人はかつて冒険者として共に旅をしていただけあり、息はぴったりである。

 またバレスとナターリャの名はウラール中に鳴り響いているので、先程の戦いでも、彼等が名乗りを上げただけで敵の戦意が挫かれた。


「それもそうですな。おや、そろそろガチンスキー城が見えてきましたぞ」


 バレスは、ピアジンスキー産の良馬に跨りながら、遠目で城の外観を確認した。


「ようやくねー。ここもエロシンの威を借りていただけで、大した武将はいないでしょうから、ささっとやっちゃいましょう」


 ナターリャは、すでに城を落としたも同然といった気分であった。

 そして、これから訪れる戦闘に向けて、戦意を高めてる最中でもある。


「ナターリャ様、一応油断は禁物ですよ」


 後ろから話を聞いていたレフが、注意を入れる。

 

「わかってるわよー。レフは疑り深いんだからー」

「まあ、今回は奇襲により、敵も百程度しか兵を集められませんでしょうから、気が緩むのも分かります。ただ私は、秀雄様がらあなたたちの手綱を握るように、申し付けられているのです。そこはご理解ください」

「全くー、秀雄ちゃんも心配症よねー」


 このような感じで、戦前とは思えないくらい和気藹々とした雰囲気で、旧クレンコフ家の面々は、抵抗が無いまま城下町を通り過ぎて、ガチンスキー城の手前まで進軍してきた。


「さて、攻撃開始といくか! 者共! かかれぃ!」


 そして、バレスが号令を上げると、松永軍四百がガチンスキー城へ向けて攻撃を開始した。 

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