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第七十七話 バロシュ領攻略戦④

 あれから俺達は、四番島で食事を取り、そこで一夜を越した。

 まだ日程的には余裕があるので、無理攻めをして、体力を消費する場面ではないからである。

 ただ夜目の聞くアルバロなんかは、夜襲をしようと、いちいちうるさかったが。

 

 そして、特筆する出来事もなく日を跨ぎ、辺りも明るくなってきた。

 現在、兵士達は、これからの攻城戦に備えて一斉に朝食を取っているところだ。

 俺とサーラも隣りあわせで、蜂蜜パンをかじっている。


「五番島を奪取し、カラフ城の大手門までの制圧が、今日の最低限の目標だ。敵はもう七、八十人しかいないはずだから、さしたる抵抗もないだろう。サーラには悪いが、あと少し頑張ってもらうぞ」


 と、蜂蜜パンをもぐもぐと口一杯に頬張っている、サーラへと話し掛ける。


「ふぁい……もぐもぐ……わふぁりまふぃたぁ」


 何を言っているのかよく分からなかったが、やる気はあるみたいだな。


「よろしく頼むぞ」


 俺はサーラにそう言い残と、四番島の船着場へと足を運ぶ。

 船着場には、マルティナが指揮する計二十艇の小船隊が、すでに出撃できる状態で待機している。

 俺がマルティナを指揮官にしたのは、彼女の水・氷魔法により、水上の移動が容易になると踏んだからである。

 

「マルティナには、サーラの様子を見つつ指示を出す。悪いが、しばらく待っててくれ」

「ああ、了解した」

「うむ、じゃ、またあとでな」


 俺は小船隊を視察してから、再びサーラの下へと戻る。

 すると、丁度彼女は朝食を食べ終えたところであった。

 もちろん、デザートのフルーツヨーグルトもペロリと平らげていた。

 

「そろそろ始めよう。また昨日のようにやってくれ」


 俺が、作戦開始を言い渡すと、サーラはガバッと立ち上がる。


「わかりましたぁ。ではいきますねー、『ロックプレスぅ!』」 


 ドバシャン! と水しぶきを上げ岩が落ちてきた。

 うむ、今日も調子が良さそうだな。

 

「いいぞ、このまま頑張ってくれ」

「はい!」


 今日は何時になく、キリリとしているな。 

 昨晩、贅沢品をたらふく食わせてやったのが、効いているのかもしれないな。

 ともかく、やる気があるのはいいことだ。


 俺も気合を入れて、サーラの護衛をしてやろう。

 何があるか分からないので、気を抜かずに監視しないとな。



---



 三時間後。

 サーラの活躍と小船隊の的確な援護もあり、さしたる被害も出さずに五番島を占領することができた。 

 この分だと、昼過ぎには城に張り付くことができるだろう。

 ただ何か忘れている気がするんだよな。


 ん、三太夫か。

 気配を感じると、ドロンと三太夫が姿を見せた。


「どうした」

「ご報告します。アキモフ軍百五十が先程着陣されました」


 あっ、これこれ。

 もちろん頭の片隅には入れておいたつもりなのだが、ボリスには悪いけれど、忘れかけていたわ。


「そうか。では丁度、五番島を占領したところなので、挨拶をするとしよう。ボリスを連れてきてくれ」

「はっ」


 アキモフ軍には、バロシュ軍の足止めに当たってもらうとするか。

 ウラディミーラ率いるチェルニー軍の手助けをさせるとしよう。

 

 そして待つこと二十分ほどで、南東門から、俺達が降ろした橋を渡りボリスがやってきた。


「これはボリス殿。大軍を率いての参戦、ありがとうございます」


 俺はボリスに謝辞を述べ、彼の手を握る。


「いやいや、松永殿の頼みならばお安い御用だ。我が軍の精鋭、お好きなように使って下され。あと、少し話したいことがあるのだ。手短に済ませるので時間をもらえないだろうか」


 なに、ボリスのことだからよい話ではなさそうだが、聞かないわけにはいかないか。


「ええ、十分程度ならば構いませんよ」

「そうか、悪いな。では早速なのだが、戦後に当家が移り住む予定であったバロシュ領については、我々は北半分を頂ければ構わない。ただアキモフ領は、そのまま我らの領地として残して欲しいのだ」


 いきなり、戦後の話をするとは流石ボリス。

 完全にアキモフ家の伝統芸能だな。

 しかし、ボリスも馬鹿ではないようだ。

 エロシン領を落とさずに、バロシュ領へと国替えをされたら、そこは敵に挟まれた回廊地帯となる。

 ボリスにとっては、守るのが面倒になるからな。

 

 奴は肥沃な北半分だけ頂戴して、残りは松永家に押し付けるつもりなんだろうな。

 だが、俺としては、それを認めることはできない。

 亜人との交易は、今後の当家にとって必要不可欠だからな。

 

 とは言ってもボリスのことだから、強引に国替えすると、逆にピアジンスキー家に取り込まれる可能性も出てくる。

 ある程度は、奴の意見も汲まなければならんか。


「いきなりそのようなことを言われても困る、一度合意に達したことなのだからな。だが、俺とボリス殿の仲もあるので、特別の配慮ができないわけではない。そこでだ、折衷案を申し込みたい。アキモフ家には、将来的にバロシュ領の南半分と、現エロシン領都のザンクト周辺を与えるいうことで納得してもらえないだろうか」


 これならば、早晩バロシュ領に国替えさせられることはなくなる。

 その上、松永家にこき使われることも減り、国力的にもバロシュ領全土とほとんど差は無い。

 いい条件だろうよ、ボリスさん。 


 すると、ボリスもわが意を得たりといったような満足気な表情になり、言葉を返してくる。


「いやー、松永殿がそこまで我らのことを気遣ってくれるのなら、その提案を断ることはできんな。分かり申した、これで本決まりとしよう。あとで反故にはせんでくれよ」


 今の発言、そのまま便箋にしたためて送り返したいんですけど……。

 だが、いちいち絡むのも面倒なので、さっさと話を切り上げよう。

 今の条件でも、ピアジンスキー家とは対面しているので、少なからず、アキモフ家に戦で働いてもらうことには変わりないからな。

 

 それに、バロシュ領を全て与えたら、松永家はアキモフ家を跨がないと西へは行けなかったから、かえって丁度よいと思っておこう。

 まあ、バロシュ領をアキモフ家に全て与えた上で、西へ攻めるときは、アキモフ軍を先鋒にするつもりだったので、裏切りで背後を突かれる、という懸念は持ってなかったしな。

 もし先鋒を嫌がるのならば、ピアジンスキー家との内通罪で、打ち滅ぼせばいいのだから。


「もちろんですとも。今から印を押しましょう」


 俺は羊皮紙に今の条件を書き記して、蔦紋の印鑑をぺたりと押す。

 実はこの一年足らずのうちに一生懸命勉強し、読み書きはある程度はできるようになったので、書類もサラサラ読めるようにはなった。


「はい、これでどうですか」

「おお、これならばわしも、安心して松永殿に付いて行けるな」


 ボリスは嬉しそうに、羊皮紙を見つめている。

 ようやく、ど田舎から脱出できると思っているのだろうか。 


「ははそれは心強い。では戦後の件はこれでよしとして、本題に行きましょう。これからボリス殿には、バロシュ軍の足止めを行ってもらう。すでにチェルニー軍が、敵軍の後方へと回りこんでいるので、あなたは適当に相手をしながら戦線を後退させてくれればよい。もちろん勇敢に立ち向かい、敵軍を撃破してくれても構わないぞ」


 ボリスは最初のうちはうんうんと頷いていたが、最後の、撃破しても言いとの言葉を聞くと、少し顔をしかめた。


「いいや、我々は松永殿が言う通りに、漸次戦線を後退させていく。戦場で規律を乱す行いは、かえって悪影響を及ぼしかねんからな」


 まったく、それっぽいこと言っても、被害を出したくないって考えが丸分かりだぜ。

 ただ、今に始まったことではないので、気にはしない。

 さっさとバロシュ軍へ行ってもらおう。


「それもそうですね。では俺はそろそろ城攻めに戻りますので、ボリス殿も足止めのほうをお願いします」

「ああ、承知した。ではまたな」


 そして、俺とボリスは、笑顔で握手を交わしてから別れ、お互いの戦場へと向った。

 

「秀雄様お疲れ様です」

「すまんな」


 ビアンカから差し出された、冷たい麦茶を飲み、頭を落ち着ける。

 

「ふー、思っていたより長引いてしまったな。まあこれで十分休息もとれただろう。では攻撃開始といこう」


 俺は、麦茶を飲み干したコップをビアンカへ返すと、小走りで前線へと向う。

 そこでフルーツに蜂蜜をかけたものを頬張っているサーラへ、作戦を再開する旨を伝える。


「そろそろ再開しよう。これがラストだ」


 サーラはフルーツをゴクリと飲みこみ立ち上がる。


「はい! これで最後なんで頑張りますよぉ!」

「ああ、では早速始めてくれ」


 サーラは気合の入った表情で再び岩石を落とし、沼に足場を作っていく。

 そして三時間後、松永軍は、遂にカラフ城が建つ小島へと上陸することに成功したのである。 


「よし! 後は任せておけ!」


 俺は、仕事が終わったサーラを下がらせて、特大のファイアーボールを放ち、大手門を破壊する。

 

「アルバロ! 突撃だ!」


 そこにアルバロを筆頭とした獣人部隊を雪崩れ込ませる。

 さらに遅れを取るかとばかり、他の兵達も突っ込んで行った。


「これで、大勢は決したかな」


 城内に残る兵は百にも満たない。

 俺はマルティナに攻城戦の指揮を任せ、バロシュ軍の様子を見るために、城壁の一番高い場所に座り、遠目から状況だけでも観察することにした。

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