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第七十六話 バロシュ領攻略戦③

「よし、俺はサーラを連れて後方へ下がろう。リリとマルティナは獣人部隊の援護をしてやってくれ」


「うん!」

「了解した」


 サーラがお疲れ気味なため、安全地帯へと連れていってやり、休息させることにする。

 あと五回は同じ作業を繰り返してもらわなければならないのだからな。


「ほら、乗っかれ」


 俺はサーラをおぶってやり、後方へと退く。


「ありがとうございますぅ」


 彼女は蜂蜜をぺろぺろと舐めながら、嬉しそうに礼を言ってきた。

 

「どうだ疲れていないか。三日以内に、これをあと五回やるんだぞ?」


 すると彼女はキリリとした表情を作り、口を開いた。


「まだまだ平気ですよぉ。それよりもぉ、休憩で食べた蜂蜜フルーツヨーグルトをもう一回お願いしますぅ! 今度は別の果物も入れて欲しいですぅ。あとパンケーキも食べたいなぁ」


 うん、大丈夫だな。

 蜂蜜のお陰で、体力的にもそれほど消耗していないようだ。

 しかし、サーラもここぞとばかりに色々と要求してくるな。

 彼女が加入した時は、蜂蜜のストックに不安があったので、あまり食べさせてやれなかったからな。

 ここは催促に応えてやるとするか。


「わかったわかった。あとでちゃんと美味いものを食べさせてやるから安心しろ。その前に、しばらくはここで休もう。ほら、あそこでアルバロ達が頑張っているだろう。その間に体力を回復させておけ」


 サーラにそう告げると、俺は一番島の様子が気になり、そちらへ視線を移した。

 すると、そこにはいきなり獣化をしているアルバロの姿があった。

 

「あいつ! あれほど獣化は取っておけと言ったのに。いきなり奥の手を使う馬鹿がいるかよ!」


 彼はただでさえ強いのだから、雑兵ごときに獣化をする必要はないはずだ。

 すでに敵兵を一方的に蹂躙しているのだから、後のことを考え体力を温存するべきなのに……。


「アルバロー! いい加減にしろー! 獣化を解かないと、後方へ回すぞ!」


 俺はアルバルへ向い大声を発した。

 するとアルバロは、最後の後方へ回すという言葉にピクリと反応し、すぐにピカリと光を放ち獣化を解くと、俺の方を向き、手を合わせて謝罪してきた。

 ったく、頭に血が上ると見境がつかなくなるんだから、困ったものだ。


 しかし、彼のお陰で一番島での戦況が、松永軍の圧倒的優勢となっていることは認めなくてはならない。

 いきなり獅子が現れて暴れまわるんだから、まあそうなるわな。

 混乱するなと言っても、それは無理があるだろう。

 

 そして、再びアルバロが暴れまわっていると、敵兵は命あっての物種とばかりに退却を開始した。

 よし、これで一番島は占拠できた。

 捕虜も何人か取れたようだし、幸先のよい滑り出しだ。


「サーラ、島へと向うぞ、無事占拠できたようだ」

「はーい」


 俺は、蜂蜜を舐めて上機嫌のサーラを連れて、一番島へと向う。

 だが様子がおかしい。

 その理由はすぐに明らかとなる。

 そこには、いるはずのあいつの姿が無いのである。


「アルバロはどこに言ったんだ?」


 俺が問いかけると、リリがある方向を指し示す。


「ライオンのおじさん、敵を追いかけてあっちに行っちゃったー」


 ああ、だめだあいつは……、ここまで脳筋とは思わなんだ。

 アルバロは敵を追いかけて、先の小島へと向っていた。

 敵が跳ね橋を上げる前に飛び乗ったのだろう。

 すでに、いくつもの取るに足らない中継島を通過して、二番島の近くにまで行っているようだ。

 ここから二番島までは、五百メートルも離れているのに……、奴の辞書には自重という言葉はないらしい。

 その上、チカにボリバル、トマスとアイナら、数名も巻き込まれたみたいだ。

 

「しかし悔しいかな、たった十人足らずで敵を圧倒してようだ……。だが念のため、リリが援護に行ってくれないか」

 

 距離が遠いので完全には分からなかったが、遠めからだとアルバロ達が敵を押し込んでいるように見える。

 というか、またアルバロが獅子に変身しているので、敵兵が戦意喪失しているのかもしれないな。

 だが、一応念を押して、唯一の飛行ユニットであるリリに、二番島への援軍を要請することにした。

 

「しょーがないなー、全くのーきんのおじさんには困ったもんだよねー」


 リリにまで呆れられてるぞ。

 アルバロさんよ。


「迷惑掛けて済まんな。チカ達もあいつに巻き込まれたようなので、万が一があっては不味いからな」

「そうだねー。じゃーいってきまーす!」


 リリはそう言い残すと、キューンと低空飛行で二番島の方へと飛んで行った。

 あとは、俺からは頑張れとしか言いようが無いな。

 ここからはどうすることもできん。

 

「今のうちに一休止だ」


 俺は、後からぞろぞろと付いてきた兵達を休ませることにした。

 彼らは何もしていないが、城に張り付いたらいやでも戦ってもらうので、今のうちは休ませてやろう。

 また、俺もサーラに付きっ切りで護衛していて精神的に疲れたので、腰を下ろし一息入れることにした。

 

「秀雄様、お茶をどうぞ」

「おお、すまんな」


 俺は、何気なくビアンカから差し出された、紅茶をずずっとすする。

 

「ふー、ビアンカの入れたお茶は相変わらず旨いな」

「ありがとうございます」


 ビアンカも満面の笑みで返してくれる。

 これでは落ち着きすぎて、戦場であることを忘れてしまいそうだ。


 だがしばらくしたら、その空気を打ち消すように、二番島の方からカラガラと橋が降ろされ、こちらへアルバロが駆け寄ってきた。

 ははは、あいつめ、傷一つなくピンピンしてやがる。

 

「殿! 見てくれましたか、わしの活躍を。二番島まで占領してやりましたわい」


 遠くてちゃんと見えなかったよ……。

 残念だったな。


「ああ、しっかり見届けたぞ。だが突出しすぎだ。今回は規律違反を補うだけの功を立てたので不問とするが、次からは気をつけろよ!」

「承知しました。今後は少しだけ慎重に行動しましょうぞ。それにしても、バロシュ家には強敵がいませんな。わし一人でもなんとかなりそうですわ! ハハハハハ」


 駄目だ。このおっさん全然反省してないわ……。

 ボリバルではこいつを御することは不可能だな。

 だれか、コントロールできるやつはいないのか……。

 

「全く、能天気なおっさんだな。まあいい、お前のせいで予定より早く二番島を奪取できた。次の三番島も頼むぞ」

「御意!」


 アルバロは綺麗なお辞儀をすると、再び最前線へと戻って行った。

 もしかしたら鹵獲した小船で突っ込むこともありうるので、監視はしておかねばならないな。


 ふう、イレギュラーはあったが、結果的には、一気に二番島まで奪取できたわけだ。

 このペースならば、三日以内には楽に城まで落とせそうだな。

 一番島と二番島に係留されている小船も何艇か入手できたので、これからは進軍も大分楽になるだろう。

 そして俺は、兵達が休んでいる間に、鹵獲した小船に割り当てる者を選抜することにした。

  


---



 一休止を終えてからは、再びサーラの活躍により三番島を奪取することに成功した。

 その際はマルティナ率いる小船隊の援護も手伝い、一番島を攻めたときよりも容易に落とすことができた。

 そして、余勢を駆って、夕刻前までに四番島の占拠にも成功した。

 

「ははは、上出来上出来」


 つい笑みがこぼれてしまうのは、仕方が無い。

 何せ、たった一日で予定していた行程の倍を達成したのだからな。


「やったねー!」


 リリも嬉しそうに、俺の側をビュンビュン飛び回っている。

 

 俺が上機嫌でいると、突然何かの気配を感じた。

 すると、その瞬間、ドロンと三太夫が目の前に現れた。

 俺もレベルアップしたせいか、ようやく彼の気配を掴めるようになってきた。

 彼クラスの気配が完全に分かるようになれば、余程のことが無い限り暗殺されることは無いだろう。


「なにかあったのか?」

「はい、明日にバロシュ領からの援軍が到着するようです」


 思ったより早かったな。

 近くの拠点から、なりふり構わずに送っているのだろう。


「数はどんなものか分かるか?」

「およそ百五十程度かと。また明々後日以降に、ピアジンスキー家の援軍が訪れるかと思われます」


 百五十か……、さてどうするか。

 だれかを迎撃に回さねばならないな。

 ここは冷静な判断を下せる人物が良い……、すなわちコンチンかレフ辺りが適任なのだが。

 しかし残念ながら、彼らはここにはいない。

 ここは俺が出張るしかないか、と考えていると、


「秀雄様ー、ここはウラディミーラがいますよー!」

 

 後方からウラディミーラが情報を聞きつけ、俺の所へ走ってきた。


「まだあなたには伝えていないはずだが」


 率直に疑問をぶつけると、


「ふふふ、チェルニー家にも三太夫さんには遠く及びませんが、そういう者も少しはいるんですよ」


 と正直に草の者の存在を明かしてきた。


「なるほど、どの家にも諜報部隊は存在するか。それで、あなたがわざわざ志願するとは余程の自信があるのだろな」

「もう! あなたじゃなくて、ウラディって呼んでくださいよー」


 するとウラディミーラは体をくねらせて、黙りこくってしまった。

 はあ、今はこんなことしている場合じゃないのに……、仕方無いか……。


「分かった……、でウラディ、お願いだから理由を教えてくれ」

「それはご存知の通り、私達の能力が足止めに最適だからです」


 ふむ、前にも触れたが、彼女の能力は擬態だ。

 兵達を背景に溶け込ませることができる特殊能力だ。


「それは十分理解している。具体的にどのような手法で行うんだ」

「それは一族の秘密なんで誰にも教えられない、と言いたいところですが、特別に秀雄様にはお答えしますね。さあ、お耳を貸してください」

「ああ分かった」


 俺は彼女の言葉に従い、耳を近づける。


「えーとですね、ごにょごにょ、ごにょごにょ、ふー、カプリ」

 

 いっ、息を吹きかけるな。そして甘噛みするな。

 絶対に秘密ではなく、スキンシップを図っただけだろう。

 だが……、これならばなんとかなりそうだな。

 

「わかった、これで行こう。バロシュ軍の足止めはウラディに任せる。尽力してくれ」

「はい! 任されました!」


 するとウラディは、嬉しそうな顔で後方へ下がっていった。

 俺が思うに、彼女は美人で色っぽいのだが、色々とこじらせ過ぎたせいか色気の使い方を間違えている気がする……。

 だが、そこが可愛いところでもあるがな。


 とにかく彼女のお陰で、俺は攻城戦に集中できるようになった。

 ウラディの奮戦に応えるためにも、ピアジンスキー軍が到着する前に、なんとしてもケリを付けたいところだな。

 俺は、明日からさらに力を尽くして攻城に当たろうと決意した。

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