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第七十五話 バロシュ領攻略戦②

 そして、三分くらいだろうか、その場で待ち構えていると、ドロンと三太夫が登場した。


「遅くなりまして申し訳ありません。沼を偽装しながら渡るのに、手間がかかってしまいました」


 はは、あの沼を渡ったんかい。

 よくテレビで見た、水の上を滑るやつかしら。


「ご苦労。で、城の様子はどんな感じだったんだ」

「城内の兵力は百程度でしょう。先程裏口から、五、六人の騎兵が出て行きました。恐らく、領内の拠点に加え、ピアジンスキー家へ援軍を求めるのだと思われます」


 バロシュ家の動員兵力は三百程度だから、領都といえども、急遽集められるのはこんなものか。


「よし、敵の虚を突くことはできたみたいだ。あとは援軍がくる前にケリを付けられるかだ。三太夫は再び任務へ向ってくれ」

「承知しました」

 

 ここまでは順調だ。

 あとは速やかにカラフを落とすだけだな。

 

 もしピアジンスキー軍がくる前に落とせなかったら、逆に挟撃を受けることになる。

 すでにピアジンスキー側には、茜、お銀、千代女を配置してあるので、三人のリレー方式により、騎馬隊よりも速く情報を伝えることが可能だ。

 やばそうだったらすぐに兵を退くとしよう。

 今回の戦は、できればバロシュ領も削りたいが、ガチンスキー領を奪取できれば構わないからな。

 安全にじわりじわりと、敵の領地を削って行ければよい。


「さてサーラ、今回お前には大活躍してもらわなければならない。蜂蜜を一杯食べさせてやるから、馬車馬のように働いてもらうぞ」


 松永軍は、サーラに土魔法で湿地を歩けるように整備させながら、進軍する予定だ。

 二人程度が歩ける幅の道を作ればいいのだから、彼女ならば簡単だろう。


「はい! ぜひ私に任せてくださいー。蜂蜜食べ放題で、お仕事ができるなんて最高ですぅ。あと、できればなんですけどぉ……白パンもあると、もっとやる気が出ると思うんですぅ」 


 こいつめ、蜂蜜の味を覚えやがったな。

 いつだったか忘れたが、朝食に蜂蜜と白パンを出した時があったはずだ。

 あの味が忘れられないのだろう。

 それに、今回は前線に出ることはないと思っているのか、表情が油断しきっているな。


「しょうがないな、白パンもやろう。だが、その分休む間も無く働かせるからな。あと、敵が沼の中から奇襲をかけてくるかもしれないから、注意しておけよ。真っ先に狙われるのはお前なんだからな」


 すると、サーラの緩みきっていた表情が一変した。


「ふえぇ、そんなこと聞いてませんー。秀雄様ー! 私を護衛してくださいぃー!」


 少し大袈裟に言ったら、半泣きになり俺に縋り付いてきた。

 なんかサーラを見ると、無性にいじめたくなるんだよな。

 これ以上は可哀相なので、耳を触りながら慰めてやるか。


「当たり前だろ。可愛い土魔法士をみすみす敵に殺らせはせんよ。安心していなさい」

「可愛いなんてぇ……そんなぁ、はぅー……分かりましたぁー、頑張りますぅ」


 サーラは気持ちよさ気な面持ちで、言葉を返してきた。

 横でマルティナが怒っているかと思いきや、自分で耳を触っていた。

 なんか表情がエロい。


「おーい、マルティナさん」


 俺がちょんちょんと指でつついてみる。

 すると、彼女はハッとなり我に返ったようだ。


「秀雄殿! 公の場で耳を触るなと言ったでしょ! それに、あなたはサーラにまで手をつけるつもりなのか!」

「いっいいや……」


 マルティナは、自分で耳を触っていたことはお構いなしに、俺のことを責め立ててきた。


「そんなことは……」


 無いとは言えなかった。

 だって可愛いダークエルフちゃんの副官に、手をつけないわけにはいかないだろうよ。

 

「ほらやっぱり! 後でサーラも交えてお話しましょう。いいわね!」

「はっ、はい……」


 これ以上怒らせることはできん。

 俺はじっとじているしかなかった。


「サーラも返事!」

「はいぃ」


 俺に可愛いと言われて、満更でもない様子だったサーラは、家庭教師でもあるマルティナ先生の言葉にビクンと反応し、飼いならされた犬のように返事をした。

 

「まあいいわ。これから戦なんで、これ位にしておく。さあ秀雄殿、あとはお願いします」


 マルティナに促されて、俺はコクリと頷く。


「今回は、城までの距離が一番近い南東から攻め入ることにする」


 城の南東から攻め入れば、距離的には三キロメートルと一番短くて済む。

 守りは固いかもしれないが、足場さえできれば兵の質で押し切れるだろう。

 

「まず目指すはここだ」


 俺はトントンと、見取り図に書かれてある小島を指し示す。

 城の南東からの攻城ルートには主要な小島が五つある。

 俺達はこれらの小島を一つずつ占領し、そこを橋頭堡として次の小島へと進み、最後は城へと到達する構えだ。


「なるほど、まずは手近な小島を占領するわけだな。そこを足がかりに攻め込むと」

「ああそう言うことだ」


 コンチンがいないので、知力的にマルティナが参謀代わりだ。

  

「ねーヒデオ」


 ん、リリが何か言いたそうだな。

 どうしたのだろう。

 聞いてみるか。


「なんだい?」

「あたしの風魔法は役に立たないのかなー。そうすればサーラも、らくちんじゃないのー?」


 ああ、それは盲点だったかもしれん。

 サーラの使い方ばかりに目がいってしまい、風魔法のことは失念していた。

 もしかしたら、二魔法を組み合わせれば作業効率が上がるかもしれんな。


「よく気付いたな、偉いぞ。リリの言うように、風魔法と土魔法を組み合わせてみよう」

「うん!」

「では早速、城の南東側へと進軍し、攻撃を開始しよう」


 作戦も決まったので、俺は全軍に指示を飛ばし城の南東側へと軍を移動させることにした。



---



「ではいくぞ」


 俺の号令により全軍が突撃を開始は……しない。


「まずはサーラだ。頼む」

「はいぃ、んー、『ロックプレスぅぅ』」


 サーラが魔言を唱えると、ドバシャン! と水しぶきをあげながら、高さ四メートル、奥行き五メートルはある岩石が沼の中へと落っこちた。

 そして岩の頭の部分の一メートル程は、ひょっこりと水面から顔を覗かせている。

 沼は、深い場所でも三メートル前後なので、これだけの大きさの岩ならば十分だろう。

 

「次はリリだ」

「うん!」


 リリはウインドカッターで、岩の頭頂部を水平になるように切り取る。

 これで苦も無く進むことができるだろう。


「これで道ができたな。後はこれを繰り返すだけだ。サーラは頑張ってくれよ。周囲は俺達が警戒していてやるからな」

「わかりましたぁ! 頑張りますぅ!」


 サーラの護衛には、俺、リリ、アルバロが付いている。

 これならば、百パーセントに限りなく近い確率で、サーラの安全は保障されていると言ってもいいだろう。


「んんー、……『ロックブレスぅぅ』」


 よしよし、このまま頑張るんだぞ。

 一番近い小島……略して一番島までの距離は約五百メートルか。

 あと九十八回繰り返せばどうにかなるな。

 

「ビアンカ、サーラが音を上げないように、蜂蜜パンや、蜂蜜をつけたフルーツを、適宜差し出してやってくれ。腹がいっぱいになったら蜂蜜だけでいい。今回はあいつが作戦の鍵だからな」

「かしこまりました」


 これから城を落とすまでは、サーラのご機嫌取りに集中しなければな。

 彼女の頑張りが、戦の勝ち負けに関わってくるのだから。

 

 それから松永軍は、サーラの魔法に合わせて、一歩一歩、一番島へと前進する。



---



「あと少しだ頑張れ! 敵の攻撃は気にするな。俺達が体を張って守ってやる」

「おっお願いしますぅー!」


 三時間程が経過した。

 途中、休憩を入れながらも順調に作業は進み、すでに九十九回、先程の作業を繰り返してる。

 後一回で一番島に上陸できる、

 しかし敵もそう簡単に上陸させまいと、苛烈な攻撃を仕掛けてくる。

 そのため、今サーラの周りには矢の雨が降り注いでいる。


 俺とリリは敵を攻撃しつつも、サーラの護衛に集中している。

 このままだと、サーラの体力も消耗しているだろう。

 さっさと敵を黙らせ一番島を占領し、休ませてやらないとな。


 ん、なにか横で落ち着きの無い奴がいるぞ。

 

「殿、ここはわしに一番槍を!」


 俺が見かねて視線を送ると、先程からそわそわしていたアルバロが先鋒を要望してきた。

 そう言うと思ったよ。

 ここで断って拗ねられても困るから、許可してやろう。

 フォローはしてやるから、思い切り暴れてこい。


「ああ、止めても無駄だろうな。好きにやってくれ。だが獣化は計画的にな」

「御意!」

 

 アルバロは顔が紅潮している。

 久々の戦に興奮しているのだろう。


「これで最後ですぅ、『ロックプレスぅぅ』」


 ドバシャン! と岩が落下し、遂に一番島への足場ができた。


「いくぞー! お前らわしに遅れを取るなぁ!」


 するとその瞬間に、アルバロが馬鹿でかい声を上げ、バロシュ軍へと突っ込んで行った。

 そして、彼に続きボリバルら獣人部隊が一番島へと飛び移る。

 さあ獣人部隊のお手並み拝見といこうじゃないか。 

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