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第六十九話 猫族の隠居おじさん

 リリの棲家を出てから二日後。

 二人は犬狼族の村へと舞い戻った。

 一度通ったルートだったので、帰りは無駄な回り道をせずに進むことができた。

 旅程は五日だったが、結果的に一日短縮することができた。

 

「おかえりなさい秀雄さん。旅支度はできていますわ。いつでも出発できますよ」


 村へと戻るとビビアーナさんが既に荷物をまとめておいてくれた。

 よかった、俺が留守にしている間には何もなかったようだ。


「急がせてしまいすいません。早速ですが明日にでもここを出ることにしましょう」

「いえ四日もあれば十分です。すでに村の方々にも挨拶は済ませましたから」

「お気遣い感謝します」


 それから俺達はビアンカ達にも顔を見せてから、皆で夕食を食べた。

 デザートに取れたての蜂蜜も振舞ってやった。 

 ここのところストックに不安があり食卓に出す機会が減っていたため、久しぶりに好きなだけ食べられるとあって皆喜んでくれた。


 そうして楽しい一夜を過ごし、翌朝を迎えた。

 一行は長年暮らした家を出て、村の門口へと向う。

 するとそこには五名の犬狼族の若者が待っていた。

 その中にはベニートに付いていた二人もいた。

 彼等は俺を見つけるとすぐに駆け寄り、頭を垂らしてきた。 

 

「うぉ、いきなりどうしたんだ」


 俺は多少の驚きと共に彼等に理由を問いただす。


「松永様、我々を雇って下さい。これ以上この村にはおりたくはないのです」


 一ヶ月後に使者を送ると言ったはずだが、何か理由でもあるのだろうか。


「村から出たいとは穏やかじゃないな。どうしたんだ」

「私達はアギレラ家に仕える者です。実は先日の件でほとほと愛想が付き、昨日アギレラ家から暇をもらいました。我々は松永様のために命を張る覚悟はできております。一般兵扱いで十分ですのでお願いします」


 アギレラ家には悪いが、犬狼族の正規兵を雇えるのなら遠慮なく頂こう。

 ベニードからは、迷惑料を支払ってもらってなかったから、丁度いいだろう。


「そうかそうか、仕える主君を間違えると大変だな。松永家は人種や貴賎に関係なくやる気がある者は歓迎するぞ。付いてくるがいい」

「あっ、有難う御座います!」


 そして犬狼族の若者達は平伏してきた。

 こんな場面をアギレラ家に見つかると面倒なので、俺は彼等をすぐに立たせて、とっとと村から離れることにした。

  

 予定外のおまけもついたことだし、ビアンカの実家訪問は大分収穫があったな。

 彼等は正規兵だけあり身体能力にも優れている。 

 即戦力として活躍してくれそうだ。


 さて次は猫族だな。

 チャレスは、どのような人材を集めてくれているのだろうか。

 俺は期待を募らせながら、猫族の村へと向う。

   

 

---


 

 道中は、配下に加わったばかりの犬狼族の戦士達と、色々話をしながら進んだ。

 ビアンカの話によると、彼等はアギレラ家に雇われているだけあって、村の中でも優秀らしい。

 特にベニートに付いていたボリバルという者は、将来の兵士長を嘱望されていた人物らしい。

 どれ程のものかと思い、試しに俺が手合わせしてやったところ、かなりの腕前だった。

 恐らくヒョードルやチッチと互角といった感じだろう。

 ニコライ、ヒョードルとも年が近いことだし、今後よいライバルとなり切磋琢磨してくれることを願おう。

 

 また俺と手合わせしたボリバルの反応だが、俺に手も足でなくかったことに、驚嘆の表情をしていた。

 俺の武勇は少しは響いているようなので、勝てるとは思っていなかったらしいが、少しは通用するとみていたようだ。

 だが結果は完敗。

 しかも、俺はあえて彼に全ての技を繰り出させて、それを全てはじき返した上で反撃をするという、どこかのプロレス団体のような懐の深い戦い方をしたのだ。

 小手先で倒しても実力差を体感できないかもしれないから、徹底的にやっておいた。

 犬狼族は己よりも強いものでないと、主君と認めないらしいからな。

 そのせいか彼等が俺を見る目が、尊敬や羨望の眼差しに変わった。


 それから猫族の村へ到着するまでの間は、ビアンカの幼い頃の話を教えてもらったり、犬狼族の情報などについて話を聞いた。

  

 そうして二日間わたる旅路を終えて、ようやく猫族の村へ到着した。 

 俺達は門をくぐり、チャレスと会い人材登用の件の首尾を聞く。


「チャレスさん、先日の件はどうでしたか」

「全ての里に使いを飛ばしたところ、既に十を越す若者達が仕官を希望しこの村へときているぞ。だが一人面倒な御仁がいてな。わしの叔父にあたる人物なのだが、四十半ばを過ぎたので先日家督を息子に譲り、暇しているらしいのだ。悪いが少し相手をしてやってくれないか。わしとしても彼は叔父なので断りづらいのだよ」


 相手をしてやれとは随分と抽象的な表現だな。

 もちろん話をしろということだろう。

 きっとそうに違いない。


「わかりましたよ……、では案内をお願いします」


 面倒事は早く済ませるに限るからな。

 後回しはよくない。

 

「悪いな。叔父上は、村の広場で仕官にきた若者達の訓練をしているところだ、今から一緒に行こう」


 俺はチャレスに連れられ、村の訓練場として使用されている広場へと移動する。 

 するとそこには、獅子のように立派な髭を蓄えたおっさんが、若者達の稽古をつけていた。


「おーい叔父上! 秀雄が帰ってきたぞ! ここにいるのがその人だー」


 チャレスが獅子のおっさんに俺を紹介する。

 するとただならぬ速度で俺の元へと駆け寄ってきた。

 

「おお、君が噂の人物か。わしは猫族の戦士アルバロ=ゴンザレスだ。早速手合わせと行こうじゃないか」

「いきなり何なんですか。まだ名乗ってもいないんですよ」

「すでに松永の名は知っているから問題ない。さあ勝負」


 アルバロおっさんは俺の言葉など無視して、いきなり木刀で殴りかかってきた。

 俺は反射的に魔力を高め、籠手で木刀を受け止める。

 するとその木刀はボロボロに燃えて二つに折れた。

 炎の付与魔法だ。武器に属性を与えたらどうなるかなと思い開発したのである。

 木刀ならば高温に弱いとみて咄嗟に使ったところ、大成功だったようだな。


「危ないじゃないか! いい年こいて何やってるんだよ!」


 俺は武器がなくなったのをいいことに強気になる。


「なんと、木刀とはいえわしの渾身の一撃が防がれるとは……。ならば本気でいくまでよ」


 彼の体がピカリと光ると、そこには威厳たっぷりに獅子がたたずんでいた。

 アルバロいきなり獣化をしてきたのだ。


 やばい、これは軽口を叩いている場合ではない。

 俺も素早くファイアーウォールを展開しようとする。

 しかし間に合いそうにない。

 早くもアルバロは、俺の懐に飛び込んでくる勢いだ。

 

 仕方がないので、炎の矢を連発して迎撃をする。

 しかし彼はそれを避けようとはしなかった。

 獣化は時間が限られているので、短期決戦できたのだろう。

 

 炎の矢を四発くらい多少のダメージは与えたようだが、勢いは衰えない。

 彼は飛び掛り猫パンチをお見舞いしてくる。


 スピードでは負けているので避けるのは危険だ。

 かえって、まともにくらうことになりかねない。

 俺は十字ブロックを作り攻撃を受け止めることにした。


 ドカッ!


 重い……、ブロックしているのに頭に響く。

 だがもちろん一撃で終わるはずもない、アルバロは猫パンチを連発してくる。

 俺はブロックをしながらなんとか凌ぐ。

 もう腕はパンパンだぜ。

 しかしここで構えを解いたら、喉元への噛み付きがくるのは目に見えている。

 まずは守りからだ。


 俺は体全体に炎属性を掛ける。

 題して炎のオーラだ。

 これならば殴ってきたら相手も火傷をするだろう。

 地味だが効果的な嫌がらせだと思う。


 すると効果はてき面のようで、


「アチッ、アチッ」


 とアルバロが嫌がり出した。

 そりゃそうだ、先の木刀が折れた時より、出力を高めているのだから。

 短期決戦なのでこちらも魔力全開だ。


 数発の猫パンチをなんとか受けきると、アルバロの前足は毛が焼け落ち、肌が露出していた。

 見事に火傷しているな。

 すると彼は、前足をペロペロ舐めながら距離を取り出した。

 何か仕掛けてくるのだろうか。


 俺はこの隙にファイアーウォールに加え、炎の矢十本を同時展開する。

 あとは前回のチャレス戦の反省を生かし、油断はしないことだ。

 

 アルバロは、俺が万全の体制を敷いたことに顔をしかめたが、何か溜めのような動作をすると、いきなり口を大きく開けて咆哮を上げる。

 すると空気の塊が高速で飛んできて、ファイアーウォールを直撃した。

 そして、空気の塊は炎の壁を吹き飛ばすと、勢い余って俺の体に向ってきたのだ。


「ガハッ!」


 油断はしていなかったので、なんとかガードはできたが、その上からでもかなりのダメージを受けた。

 その隙を見逃さずアルバロは最後の突撃を繰り出してきた。

 時間的にこれを防げば獣化は解けるだろう。 


 俺は宙に浮く炎の矢を放ち、足を止めに掛かる。

 アルバロは今回も体で受け止めようとするが、五本ほど受けたところでさすがに限界を迎えたようだ。

 残りの五本はステップを踏み、回避するようだ。


 俺はその隙に、ファイアーウエイブという範囲魔法を放つ。

 横幅十メートルはある炎の波がアルバロを襲う。

 そして手を休めずに炎の矢を、チャージが終わり次第撃ちまくる。

 懐に入られるかどうかの勝負だ。

 接近戦では勝ち目がないのはわかっている。

 勝機は魔法で押し切ることでしか見出せない。

 

 アロバロは全身に火傷を負いながらも、炎の波から抜け出してきた。

 しかし炎の矢が間髪入れずに彼を襲う。

 たまらずに避けるかと思いきや、体を張りながら俺に近づいてきた。

 そして射程圏内に入ると思い切り跳躍し思い切り体当たりをかましてきた。


 これはまずい、寝技になったら俊敏性で劣る俺には勝ち目はない。

 俺はサイドステップで体当たりを避けようとする。

 しかしアルバロの大きな体は肩口にかすりバランスを崩す。

 まずい、追撃がくる。

 ――かと思ったそのとき、光と共に獣化が解けた。


 ふう、これで俺の勝ちだ。

 獣化に力を使い果たし、息も絶え絶えのアルバロ目掛けて、炎の矢を放とうとする。

 

「ここまでだ!」


 チャレスがこれ以上の戦闘は危険と判断し止めにかかる。

 

「はぁはぁ、なんだよこのおっさん……」


 俺は魔力をほとんど消費したため、精も根も尽き果て地面にへたり込んだ。

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